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ドラゴンになった僕の今  作者: 龍骨埋没
1章 呼ばれるドラゴン
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3 巣立ち と 飛翔


 ドラゴンは種族により固有の能力。簡単に言えば特殊スキルがある。

 大まかに分ければ身体能力と特徴的なブレスに巨大化。それくらいであるがランクの高いドラゴンのスキルはその三つに留まらない。

 たとえば極寒に住まうフローズン・ドラゴンは凍えるブレスや熱を奪うスキルがある。森林に住まうグリーン・ドラゴンは植物を操り花粉のブレスを吐ける。聖地に住まうホーリー・ドラゴンは熱線を操り治癒のブレスを吐くなどなど、それに身体能力が追加される。余談をすれば習得できる魔法にも種族の相性や才能の違いによりマチマチなのだ。


 平たく言えばドラゴンは種類ごとに様々な肉体的、魔力的な長所がある。


 そしてトオルの肉体。種族はプライマル・ドラゴン。

 プライマル・ドラゴンは火炎でなく超光熱のプラズマを放射でき、めったに現れぬ希少種。

 魔力の総数は他のドラゴンと比べ見劣りするが、そのスキルの多様性は他のドラゴンに引けを取らない。ゲームでいうところの器用であるが燃費はあまり良くない、そんな万能型(オールマイティー)な部分が強く癖がない。

 プライマル・ドラゴンは名前の通り原初、原始の、いにしえの血が濃いドラゴンなのだ。

 その特筆すべき点は状況においての適応力の高さと、戦闘に関わる進化、成長の早さであったが。

 プライマル・ドラゴンの数が減った理由は、その長所である適応力の高さだった。生殖をおこなった際に、相手の血とまじわるため血を薄め、相手の血と適応してしまう。自分の遺伝子を残すための、生物の利点。しかしプライマル・ドラゴンという種を減らす原因となっていた。


 血は残れども、種は残さず。

 それがプライマル・ドラゴンの生態系だった。


 トオルからすれば『空を飛べて丈夫な体』くらいの感覚しかない。自分が誇り高き、血の濃い優秀なドラゴンであることなど、少しも考えていなかった。そもそも知らないのであるから、考えようもないのだが。


「そろそろ旅立とう」


 トオルは最初こそ本能に逆らわず鍛錬をおこなっていた。

 けれど学ぶのが、強くなる実感がわくにつれ中々に巣立つ気になれなかった。

 4足歩行が得意なドラゴンであるが、2足歩行が出来ないわけではない。後ろ足で立ち、器用な前足は人間のように手として扱うこともできる。人間としての生活をしていたトオルは、心のなかまではドラゴンに変化していなかった。だから4足歩行よりも2足歩行のほうがシックリするのだ。

 生前よりも高くなった身長は百八十センチ近い。ただしその内の何十センチかは首の長さから来ている。人間と比べ少々ながら長く動かしやすい首は不安で、「斬られちゃいそうだ」と不安になるが、強靭な鱗が生えているため波の攻撃では傷ひとつつけられはしない。


「もう、食べるのも殆どなくなっちゃったし」


 水晶の洞穴は、ただの半分ほども洞穴と化していた。

 本能は『卵のカラという食料が無くなった、巣立とう』と訴えかけてきたが、トオルは何日も無視し続けていた。食料である卵のカラがなくなり、代わりに食べていた水晶も無限ではない。そろそろ数が少なくなってきたし、ここいらが巣立ち時だろうと判断する。

 ドラゴンの雛で言えば巣立つにしては、少し成熟しすぎているが、まだまだ若い。

 成長速度の早いドラゴンは、精神年齢はそう高くならないが、数ヶ月で体は魔物の平均よりも頑丈になっていく。そのため、もう天敵はほとんどいなくなるのだ。


「さてと・・・行くぞ!」


 頬を叩いて、本能があの道をススメと、いつも言っていた方向を歩く。

 緊張に尾をこわばらせながら、手をつけなかった水晶の壁に触れ、思い切り殴った。


 ドゴン! がらがらがら


 大音量を響かせ、壁が砕け散る。

 卵を内側から割ったように、世界が割れた。

 高い崖につくられたらしい洞穴を開けば、そこは夕暮れ。

 生前の徹が見た絶望の夕暮れではない。

 これから旅立つトオルを祝福する、希望の夕暮れであった。


「いってきます!」


 翼をひろげ、両腕をひろげ、高々度から飛び降りる。

 風を感じながら眼下を見据えた。突風を受け青葉を波打たせる森は、さながら緑色の海。

 憂鬱で、落ちてばかりの人生だった。けれど、これからは上がっていこう。

 翼は魔力を放出し、体を空へと導いてくれる。羽ばたき、上昇し、真っ赤な夕日に鱗を反射させる。


「さあ、これからどこへ行こうかな!」


 大声をあげ、だれかに見られてないか不安になったが。

 こんな空高い場所にいる自分を見れる者などいないだろうと、トオルははしゃいだ。

 洞穴で飛行の練習をした成果を存分に発揮し、スピンしたりターンしたり、雲に特攻したりもした。やはり雲は水蒸気の塊であるため、体がぬれる。けれど霧のなかを走ったみたいで、心地よかった。


「いやっほおお!!」


 巣立ちにはしゃぐ若いドラゴンは、満面の笑みで夕日を眺めた。











良い日旅立ち!

けれど、本当に。

誰にも見られていなかったのか?


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