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ドラゴンになった僕の今  作者: 龍骨埋没
2章 冒険者+暗殺者+ドラゴン
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4 おかしな少女ジュリ



 夜。自作した寝室で寝ていた。

 寝室のドアと玄関が開け放たれて、夜風が入り込んでいる。

 トオルは体が熱く心が冴えている感覚に目を白黒させた。


「女の子が寝室に入ると、ドラゴンさんでも緊張しちゃうものなんですか?」


 初めての経験に胸がドキドキしている。

 まるでジェットコースターに載った時みたいに。あるいは恋愛映画のクライマックスを眺めているときのように。

 それもそのはず。

 トオルは冒険者を名乗る女の子に伸し掛かられていた。それだけで緊張し頭から尾の先端までが硬直するのだが、この状況にはオマケがある。


「なんで嫌がった目をするんです? とっても気持よくて、楽しいことなんですよ? 体の体液が外に流れるとね、頭のなかから脳内麻薬っていうのがドピュドピュって吹き出してから、全身に快感が駆け巡っちゃうんです。素敵じゃないですか。ね? ね?」


 ぞっと背筋を震わせる。怪物を目にした気分だ。

 翼を軽くひろげ、今すぐに飛び立ちたかった。

 しかし寝室を壊すことになるし異性に乱暴はさけたい。


「ふふふ、わたしの自慢のモノは、どんな味ですか?」


 徹夜の大工仕事にちょっぴり疲れていた。

 家で寝転んでいたトオルは寝入ってしまったのだ。

 そして我が家に踏み込んできたジュリに伸し掛かられていた。


「あなたがいけないの。わたしの誘いを断るから、こうなったんですよ。わかりますよね? ね?」


 言いがかりもいいところだ。責任のなすり付けだ。

 トオルは口に入る異物を咥えながら冷や汗をかいている。

 好奇心旺盛な女児さながらの、あどけなさを残した彼女の顔は少々ながら熱に浮かれていた。


「だからね、いま、こうなっちゃったんだよ。わかりますよねぇ」


 完全に寝入った深夜帯に、まさかこんな目に遭遇すると誰が予想しよう。

 トオルは夜空の下でジュリに見つめられながら、逆手に持った剣を口の中に突き入れられた状態で目を冷ました。胸板に少女の軽い体重と体温を感じながら、平たい剣の感触を舌で、文字通り味わっている。


(・・・この子。個性的すぎるんじゃないかな)


 本当の意味で寝込みを襲われている。

 彼女が腕に力を入れればトオルの喉は刃で切り裂かれるだろう。ドラゴンが強靭な生命体といえ、喉の奥まではどうなのか。試す気にはなれないし試したくもない。


「ドラゴンだって、こ・こ・弱いんですよね、ね」


 ジュリの態度からして無傷で済むわけじゃなさそうだった。

 笑顔が不気味で見ていると背筋が冷や冷やしてくるのだ。

 彼女は肩をゆすり笑い出す。玩具を渡された女の子のような、場にそぐわない表情。


「ドラゴンを殺せば、きっとわたしは認められるんだぁ」


(駄目だこの子。独りの世界に入ってる・・・)


 顔こそ夢見がちな少女のものだが、行動は完全なる殺人鬼だ。内気なトオルにとって刺激が強すぎる。

 吊り合わない(アンバランス)な顔と行動にトオルは恐怖すら感じていた。彼女の言う体液とは十中八九『血液』を意味し、脳内麻薬は痛みを緩和するために放出する際のエンドルフィンだのドーパミンなどを意味しているのだろう。気持ちよさなど、あるはずがない。


(なんで僕がこんなめに! おかしいよこんなの!)


「じゃあ、わたしのために死んでください!」


 無論、稲妻に撃たれ不幸な死を遂げたトオルは二度目の命を他殺という悲惨な形で終わらせる気にはならなかった。だから、剣を牙で噛む。


「あれ?」


 ジュリの逆手に持たれた剣が喉奥に落ちていかない。

 だからジュリは目を見開き驚いていたが、トオルは顎の力で彼女の腕の力を塞き止めているにすぎなかった。幼いころ水晶を何度も齧り強度が増し、鋭さも磨かれた牙は剣をスナック菓子さながらに噛み砕いてしまった。


「あれれぇ?」


 自分の剣が折れたのを確認し、ジュリは目をパチパチさせた。

 トオルはペッと剣の破片を吐き出すと、彼女を説得してみるが、


「ダメだよ。こんな酷いことしちゃ。自分がされて嫌なことはしちゃいけないんだよ?」


「そうなんですか? わかんないや」


 折れた剣で右目を狙われる。躊躇ない、感情もない一撃。

 振り下ろされたへし折れた剣を、右手でキャッチしても彼女は諦める気配がなかった。

 だからトオルは、右手の空間を歪曲させ彼女を突き飛ばす。

 手加減はしているが、人間の内蔵に相当の負荷がかかったはずだ。


「うわあ」


 ジュリは間抜けな声をあげ家の外に吹っ飛んでいく。

 開けられたドアのむこうに消えてしまったジュリを見つめ、罪悪感がこみ上げるも自己防衛処置だから仕方ないと自分に言った。


「うぅぅ、怖い子もいるんだなぁ」


 トオルは二度寝しようとおもったが。

 舌に剣の舌触りが残っていて、眠る気になどなれなかった。




――――――――――



「うーん? 特注品の剣じゃないとダメかなぁ。でも特注品だと『剣のおかげで勝ったんだろ』って言われちゃいそうだよね」


 ジュリは暗がりでトオルの家を観察している。

 折れた剣を握ったまま、何度か振るって風を切る。

 木の幹に背を当て、どんぐりまなこで空を見た。


「でもトオルって魔法にはそんな精通してなさそうだし、案外・イケちゃうかも。次は、どんな手段にしようかな。寝込みを襲うのも余裕だったし」


 様子見をしながら弱点を探り倒すのが一番に良いのだろう。

 攻撃してくれたら一番、楽だったのだが噂の通り温和な性格のようだ。

 ジュリは頭のうちであらゆる思考実験シチュエーションを繰り返す。


「攻撃してこないなら、うん。別のドラゴンよりうずっと楽だよね。ここで終わるとおもってたけど。終わらないで報告できそう」


 自分にだけ理解できる言葉を口にし、夜空の月にお祈りする。


――――おつきさま、おつきさま、どうかわたしに運をくださいね。ね!


 甘い考えのトオルは懲りただろうと思い捨て置いていた。

 彼女のストーキング行為は――まだまだ序曲にすぎないのだから。




殺しあいましょう!

から始まるストーキング・ストーリー。

目的ありきの行動らしいが台詞が意味不明……そんな女の子。


冒険者などについては次回で説明します。


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