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サ ク ラ チ ル

作者: 飽兎

ザザーン


海がないている

もう二度と見れない蒼い海

キラキラとした光が、少し儚げに見える


後ろから、薄紅色の桜が飛んでくる

ひらり、ひらりと風に揺られて舞い堕ちる


ここは景色がとても良くて、私たちのお気に入りの場所だった

よく2人でここに来て、蒼い海を見つめてた

ここは2人の想い出の場所



でもあの日、あの時からそれは一転した



あの日は朝から彼が少しおかしかった

急に少し早い花見をしようと言い出したのだが

最近はいつもより忙しいそうだったのに、と不安になりながらも待ち合わせ場所の噴水前に向かった


もしかしたら家族から何か言われたのかもしれない

昔から思った事を溜め込むクセがあるから少し心配だ


だから何もかも吐き出して、楽になってほしかった

その一心で言った言葉が仇となったのかもしれない


「ねぇ、また何か変な事考えてるでしょ」


「えっ....いやそんな事は....」


「もう何年付き合ってると思ってるの!?

 『辛い時は2人で解決する』

 約束、忘れてないでしょ?頼ってよ!」


その言葉を聞くと急に彼が涙を流し、私の首を絞め始めた


えっ……?なんで……?


驚きで呆然とする私に、彼が言い訳するようにブツブツ言い始める


「こうするしかないんだ。仕方なかったんだ。一緒に居たかったんだよ!

親は君じゃなくて他の子との面談を持ってくるし、会社はリストラされるし

もう君といるためには死ぬしかないんだ!

…………ごめん」


何か言う前に彼の唇が優しく私のそれをふさぐ


思考が追いつかない。彼の言ってることが理解できず、ただ呆然としてしまう


「なっ……や、めっ……」


遅過ぎる抵抗をしても、ただ彼の力が強くなって行くだけで現状に変化はなかった


だんだん意識の遠のいてゆく中で、彼だけでも生きられるように体を蹴る


「ダメ......生き...て....?」

私はそのまま、海の彼方へと吸い込まれて行った


それからの事はよくわからないが、

私が目を覚ました時にはすべてが終わっていた

病院で機械に囲まれた私に告げられたのは、

彼の『自殺』だった。


あの後、引き上げられた私がよくて植物状態

悪いと死ぬと聞かされ彼は『俺を庇ったから……俺が身勝手にしたせいでアイツは………』と絶望し、涙を流したそうだ


その2時間後にあの想い出の場所で死体で発見されたらしい


詳しい事を医者は教えてくれず、「何も気にしなくていい」としか言わなかった


訳がわからぬまま時は過ぎ、外出許可が降りるようになった

正直実感がわかなくて、ただぼけーっとしていた私も、その頃には痛いくらい現状を理解できた

『ナンデ?』『ドウシテ?』『ナンデ私ガ生キテルノ?』『彼ガイナイ』『タスケテ』『愛シテル』『独リハイヤ』『先ニ逝ッチャッタ』『一緒ニイタイヨ』『帰ッテキテ』


そして思い悩んでも彼は帰って来ない事を悟り、ひとつの解決策を考えた


彼のもとに逝こう

  『死のう』 と....


少し散歩してくると嘘をつき、想い出の場所へ向かう

彼のいない景色は、すごく色あせて見えた

彼のいない毎日は、私には辛すぎる

それはこの短い入院生活で痛いほど、逃げ出したくなる程にわかった

こんな辛い思い、二度としたくない!


そのまま海を見つめていると、脳裏にたくさんの思い出が蘇る

少し寂しいけど大丈夫

今から、あなたの側にいくから


途中の公園で拾った紐を持ち、桜の木に結びつける

あの日はまだ蕾の方が多かったのに

今はもう満開だ

風で木がゆれて、花が舞う

まるで私たちを祝福するみたいに


キッときつく縛り、輪をつくり、石を運ぶ

石の上に乗り、輪に首を通して、そのまま....


宙に浮いた私が、桜と共に揺れる

縄が首に食い込んで痛い。苦しくて涙目になる

消えそうになる意識の前に、ツバメが一羽横切った


『これで、ずっと一緒だよね。』



「先生っ!例の患者が散歩に行くと言ったきり帰ってきません!」

「至急院内を探し、警察に捜索願を出してくれ!自分は他の看護師に聞いてくる!」


「はあ、本当にどこに行っちゃったのかしら....」

捜索願を出してきた看護師が、ため息をはきながら窓を見る


激しい嵐の中、崖に咲く桜が散っていた

まるでそれは儚くとも美しい、二人の愛のように……



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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公の彼女の感傷的なモノローグで終わらせず、医師と看護師の職務に徹する描写を入れることで、一人の人間の死を巡る現実感を出している点は良いです。 [気になる点] >見れない ここは「見ら…
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