女性ならではのコミュニケーション
まだ前座です。少し付け足しました。
寒い冬が終わり、雪解けの季節となりました。青く澄んだ空、赤い制服を纏う令嬢たち。そして目の前にはさえずる小鳥たちが楽しそうに鳴いて…。
「先輩・・・ぅん・・・そんなとこ…つ、摘まんじゃ、いやぁ…。」
「エレナのその声、ゾクゾクするわぁ♪」
……うん。現実逃避はよくないよね。やっぱり、これ…止めるべきだよね?
「…あ、あのー?」
「あらぁ?……あらあら。」
少し驚いた顔をした後、女性はエレナの体を思ったよりあっさりと解放してくれた。…別に後悔してないよ?
「あなた、剣聖女学院の生徒じゃ…ないわよねぇ?」
「えぇ、まぁ。」
「~~~~~~。」
エレナはふにゃりと座り込んでしまった。口から魂が抜けている。…ような気がする。
「…となると、闘技大会の参加者でいいのかしらぁ?」
「はい。受付に行く途中だったのですが…。」
「あらぁ。それならこっちよ。案内するわぁ♪」
「ありがとうござ……っじゃなくて!エレナ(?)さんは…?」
目配せした先にはまだ放心状態の役員さんがヘタレ込んでいる。少し紅潮は落ち着いたようだが、本当に魂が抜けていったのか口がだらしなく開いている。
「あぁあ、いつものことだから平気よぉ。後ですぐに追いかけてくるわぁ。」
顔を赤くしてね。と付け加え、彼女は先導を始めてくれた。翔はその右斜め後ろを位置取る。間違ってもこの人には背後は取られるまい。そう自分に注意を促し、歩みを進めた。
「・・・ゆうき。」
「へ?」
彼女は前を向いたまま、ぼそりとつぶやいた。
|(いかん。急に話を振られたから素っ頓狂な声が出てしまった。でもこっち見て言ったわけじゃないし…)
そんな考えが彼女に伝わったのか、今度はくるりと身を翻し少し上目使いで言った。
「薬師丸優姫。私の名前よぉ。あなたは?」
「あぁ、えーっと・・・。」
しまった。何か偽名を用意するべきだったか?「翔」はさすがに男っぽいし…。
「美羽です。音無美羽。」
「翔」を分解して「美羽」。咄嗟の思い付きだが我ながら上出来ではなかろうか。
「・・・美羽さん。ね。」
「・・・?」
|(優姫さん横ばっかり見てないか?何かあるのかな?)
不覚にも、彼女に釣られて同じところ見てしまった。当然そこには、なにもなかった。
「…綺麗な顔、してるわねぇ。」
「え?・・・ぅええっ!?」
顔を戻すとすぐ近くに優姫の顔があり、翔は反射的に仰け反った。しかしすでに彼女の範囲内。ずいっと間合いを詰められ、ゆっくりとあごに手を添えられる。
「澄んだ茶色の目、鼻筋もとおってて…それでいて小さい顔。何よりも……かわいい声♪」
…って何か品定めが始まってるよ!?いやまず顔が近いよ!?吐息感じちゃう距離だよ?うわ、何かいい匂いがしてきたよ!!
「うふふ。その困った顔もかわいいわよぉ。」
ゆっくり首に手が回ってくる。このままいくと押し倒されるんじゃないか?
「うぅ・・・。」
思わず声が漏れる。ぐいぐい攻めてくる優姫は、翔…美羽が逃げられないように手を絡めてくる。それでも必死で逃げようと体を逸らせていった結果・・・。
|(こ…腰が…。)
はたから見れば見事なレイバック。いや、彼女とセットであれば、宝塚のワンシーンにでも見えるだろうか。それでもなお優姫は顔の距離を縮めてくる。
「もっといろんなところ、みせてほしいわぁ♪」
「ぐ……。…だ、誰か助けてー!」
大声で助けを呼んだその時、「ドドドド」と大地を揺らすような音が聞こえてきた。
「あら、もう来ちゃったみたいねぇ。」
「・・・えっ?」
二人で音のする方を見る。するとそこには猛ダッシュで走ってくるエレナの姿が…。いや美羽には赤い悪魔が怒り狂っているように見えた。もはや肉眼では手と足の動きは見えそうにない。
「はーなーれーなーさぁーーーーい!!!」
「あらまぁ…。」
助けを呼んでから5秒足らず。エレナが奪い去るような形で美羽は救出された。
もうちょっとで闘いパート入るからね?あと少し待ってて!