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あれから、じっちゃんとは会っていない。ときどきご機嫌伺いのメールが来るだけで、何となく予定が合わなかったりお茶を濁した返信しかできず、会わずじまいのままだ。


あたしは結局、断れずにいた仕事の依頼を受けてしまい、コンテストと並行してヘロヘロになりながら毎日を過ごしていた。

煮詰まると家から少し離れた公園まで散歩に行ったり、いつもだったらじっちゃんを誘って気分転換に出かけたりするけれど、今回は何となくじっちゃんを誘い出す気にはなれず、毎日図書館へ行ったりカフェに行ったりしてやり過ごしていた。


じっちゃんから同窓会のお誘いメールが来たのは、コンテストまであと少しだというのに、クライアントから提出したデザインを「これじゃだめ。もっと期待していたのに」という厳しい言葉ではねつけられ、どうしようもなく煮詰まっていた時だった。


明日までにクライアントに新案を提出しなければならないのに、全く進まない。イライラだけが募って、新しい案なんて全く浮かばない。

しかもコンテストの締め切りは来週に迫っていて、こんなところで立ち止まっている暇なんてないのに。コンテストの作品だって、本当は全然仕上がってなんかなくて、“このコンテストに掛けたい”なんて偉そうなこと言ってたくせに、結局は全部が中途半端で共倒れしそうな状態だった。

依頼された仕事と必要最低限の雑務をこなしながらコンテストの作品に集中することは容易な技ではなく、忙しく疲れた身体と頭を何とかフル回転させながら頑張ってはいるけれど、どうにも煮詰まった状態から脱出できずにいた。むしろ負のループに嵌って抜け出せず、もがいてみたけどもがききれず力尽きて瀕死の状態なんじゃないかと思う。


お昼を少し回ったくらいに届いた、昼休みを利用して送られてきたであろう同窓会のお誘いには、仕事が忙しいから行けるかわからないと、あえてお昼休みが終ってからの時間帯に簡潔に返信しておいた。


もし今、皆に会ったなら、あたしはどんな顔をして皆と話をするのだろう。

きっと皆はそれぞれに忙しく過ごして、でもそれなりに充実した時間を過ごしているはずだ。仕事の愚痴だって恋人の愚痴だって面倒くさそうに話すだろうけれど、きっとそれだって日々の退屈を言葉に表すだけのことだ。

それに比べてあたしは、何をしても中途半端。

依頼を受けた仕事さえまともにこなせない。

何か人に胸を張って話せることなんて何もなく、ただ仕事に追われてボロボロになって、もしかしたらすべてを失ってしまうかもしれない状態だ。

いつもだったらじっちゃんを呼び出して、どうでもいい話と弱音を吐くだけ吐いて慰めてもらったらそれですっきりして先に進めていた。でも今は、それが出来ない。

いつの間にか、迷ったり立ち止まったりしたときに無意識に頼る相手になっていた。本当は頼るべき相手じゃなのに。

じっちゃんはいつだって、決してあたしを見捨てない。決してあたしを否定しない。どんな時でも真剣に向き合ってくれる。すべてを解決してくれるわけじゃないけど、ちゃんとあたしと向き合ってくれる。

そんなじっちゃんと過ごす時間は心地よくて、いつの間にかじっちゃんにべったり甘え切っている自分に気づかずにいた。


強くなりたいと思った。

強く強く強く。どんな時でもどんな場所にも立ち向かっていけるような。

たとえ暗闇の中を彷徨うことになったとしても、砂漠の真ん中に舞い落ちたとしても、荒野に迷い込んだとしても。迷うことなく真っ直ぐに歩いていける強さが欲しいと願った。





どこかで音楽が鳴っている。この音楽、なんだっけ?

頭に霞がかかったみたいにボーッとした状態で、電話の着信音だと気づいて、素早く通話ボタンを押した。

どうやらあのまま眠ってしまっていたようだ。

「はい」

できるだけ眠っていたことがバレないように声を整えながら電話に出た。

「ミオ?今大丈夫?」

電話の向こうでは久しく聞いていない声が何故か心配したような声で問いかけてくる。じっちゃんだ。

「ん。じっちゃん、久しぶり。」

「久しぶりだね。ミオは今何してるの?」

「ちょっと、寝てた」

苦笑いしながら答える。

「忙しそうだね。今日、ご飯食べに行かない?」

当日に直接電話での約束なんて、滅多にしないもんだから、少し驚いた。

「今日?急だね。あたし今忙しくって、それどころじゃないんだ」

「うん、メール見たから、大体予想はついてる。だからご飯だけ」

一瞬どう答えていいか分からなくて、空いた沈黙を埋めるようにじっちゃんが続ける。

「どうせまともにご飯も食べてないんでしょ?うどん、食べに行こう。ミオと前に行ったところ。食べたらすぐ帰っていいから」

まるで逃げ道を塞ぐかのようにじっちゃんはそう言ってから、「7時にいつもの場所で」とだけ付け加えて電話は切れた。





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