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じっちゃんとあたしが再会したのは、あたしがイラストレーターの専門学校を卒業し、就職してから3年目のことだった。
部活仲間の一人が結婚することになり、その二次会に呼ばれたときのことだ。
「ミオ、久しぶり」
会場に入り少し落ち着いた頃、あたしに気付いたじっちゃんが声を掛けてくれた。
「わぁ、じっちゃん。おひさしぶりです。変わってませんねー」
「ミオはちょっとは大人っぽくなった?」
「何で疑問形なんですか?今日はがんばってお洒落してるんだから、可愛くなったって言ってくださいよ」
「はは。そうだね。可愛いよ」
じっちゃんはあの頃と全く変わってなかった。高校の頃は制服姿ばかり見ていたから、スーツ姿で正装したじっちゃんを見るのは少し新鮮だったけど、話し方も立ち振る舞いも茶目っ気たっぷりに話すところも、あたしをからかうときに見せる悪戯顔も、全部あの時のままのじっちゃんそのものだった。
あたしはその二次会のほとんどの時間をじっちゃんと共に過ごした。色んな友達と会うのが久しぶりだったから、時には大勢で昔話に花を咲かせ共通の友達の話題で盛り上がり、昔の悪戯を思い出してみんなで大笑いもしたけど、あたしの隣にはずっとじっちゃんがいた。
二次会が終わり、帰る人と三次会に流れる人に別れてぞろぞろと道を歩いていた。みんながほろ酔いで、なんとなくふわふわした雰囲気が漂っていて、こんなに楽しい気分なのはどのくらいぶりだろう、なんて考えながらあたしもその集団に混じって歩いていた。
あたしは次の日も仕事だったので帰ろうと思って駅へ向かう人たちと一緒にいて、じっちゃんもあたしの隣をを歩いていた。
「じっちゃんも帰りますか?」
「うん」
「駅は?」
「こっち。ミオと一緒」
「家、変わってない?」
「うん。ずっと一緒だよ。ミオも変わってない?」
「あたしは、一応一人暮らししてます。でも、方向は一緒」
「へー、本当にちゃんと働いて生活してんるんだね」
じっちゃんは少しだけからかうように笑いながら言った。
「そうですよ。ちゃんと社会人ですから」
ちょっとムッとしながら返すと
「ごめんごめん、ちゃんと自立してるミオはえらい」
そう言って小さい子どもにするみたいにあたしの頭を撫でた。
「もう!あたしは子どもじゃないですよ」
「うん、知ってる。ちゃんと自立して生活してるミオは、俺より偉い」
そう言ってじっちゃんはあたしの手にそっと触れて握った。
冷たくて気持ちのいい手だった。
「ミオ。ずっとさ、ミオはどうしてるんだろうって気になってたんだ」
しばらくの沈黙の後、唐突にじっちゃんは前を向いたまま言った。
気づけば三次会に行く人たちはどこかに消えてしまっていて、駅までの道を一緒に歩いていたはずの仲間たちはあたしたちのずっと前を歩いていて、あたしとじっちゃんは二人きりになっていた。
「へ?」
少し俯き加減で歩いていたあたしは、思わずじっちゃんの顔を見上げた。じっちゃんは変わらず前を向いて、歩く速度も変えずに話を続けた。
「里子とかめぐとかの話は時々聞いてたけどミオの話は全然聞かなかったから、どうしてるんだろうって気になってたんだ」
そう言い切ってからあたしの方をみて、少しだけ頷いた。’本当に’とでも言うかのように。
少し酔っ払っているせいか、うまく頭が働かない。
「元気でしたよ。ちゃんと就職して仕事もしてますし」
あたしはそうとだけ言って笑った。
あたしはじっちゃんに心配される存在だったのか?などとちょっと的外れなことが頭の中をぐるぐる回っていたけど。
「うん、よかった。今日、会えてよかった」
じっちゃんも笑い返してくれた。
「じっちゃんも元気そうでよかったです」
この再会から、あたしたちはよく二人で会うようになった。