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あたしとじっちゃんの出会いは高校生にまで遡る。

遡ると言っても要約してしまえば、あたしより1年先輩のじっちゃんとは同じ高校の同じ部活で、高校2年間の放課後の時間を一緒に過ごした、というだけの仲だ。


それなりの進学校の進学クラスにいたのに、あたしは勉強嫌いだった。学校のシステムに馴染めず、朝の補講も放課後の補講も参加はしていたもののほとんど話を聞いてはいなかったし、毎日お昼休みに行われる小テストもほとんど0点の回答しか出していなかった。普段の授業でも居眠りばかりして先生に怒られていたほどだ。真面目に補講に参加するクラスメイトを横目に、自分はいったいどこに向かっているのだろうかなどと大真面目に考えていた。

高校生活のほとんど全てが窮屈でしかなかった。真面目なクラスメイト、点数や体裁ばかりを気にする教師。楽しい遊びもなく、かといって枠からはみ出してバカをするほどの勇気はなく、ただ淡々と過ぎてゆく毎日の時間を持て余していたようにも思う。

そんなあたしが唯一力を入れることができたのが部活だった。補講や小テストで部活に行ける時間もそんなに取れなかったのが現実だけど、放課後の空いた時間に部室に集まって仲間と練習したり雑談したりする時間は高校生活唯一の光だったかもしれない。

じっちゃんは進学クラスには在籍しておらず、どちらかというと何でもありのゆったりとしたクラスで自由気ままに高校生活を謳歌していた。

部室に行けばいつでもじっちゃんはいたし、窓際の角の席はじっちゃんの席という暗黙の了解だったし、実際その席に人が座る隙なんてないくらい、いつでもじっちゃんは部室に陣取っていたように思う。就職組だったじっちゃんは受験勉強をすることもなく、じっちゃんの大好きなくだらない悪戯や部員泣かせ(無理難題の詰まった課題を渡される。渡された者は必ずそれを遂行しなければならない)の作成に勤しんでいた。



入学した年のゴールデンウィークだったと思う。突然じっちゃんから召集がかかって、学校近くのコンビニの駐車場に集合した。急な召集だったにも関わらず、集まった部員は10人近くいた。

「これから実験を行う」

じっちゃんが真面目な顔で言って皆に顔を寄せるように合図した。

「ドライブスルーとは、徒歩でも買い物ができるのか」


・・・


「あははは。それは無理なんじゃない?」

「いや、いける!」

「やってみれば分かるじゃん」

あんなに真面目な顔していったい何の実験かと思いきや。そこにいた全員がくだらないと思いつつ悪乗りする。

「柴、行って来いよ」

「えー、なんで俺が?」

「いいじゃん。実験だよ実験」

「なんで俺なんだよ。山川、お前が行けばいいじゃん」

「いや、この栄誉ある実験は柴が行くべきだ」

隣のクラスの柴くんと山川くんが楽しそうに掛け合いを始めた。“柴”の本名は内田君だ。顔が柴犬に似ているとかで“柴”というあだ名がつけられた。

何とも安直な、そして残念なネーミングだが、入部初日にじっちゃんから「お前、柴な」と命名されてしまったから仕方がない。

皆が「え?」とは思ったものの、本人もそれを受け入れて周りも彼のことを“柴”と呼ぶようになったもんだから、今では誰もが彼を“柴”と呼んでいる。

「じゃぁ、じゃんけんすれば?」

「もしくは多数決!」

他の部員もちゃちゃを入れる。

「じゃぁお前が行けよ!」

「いや、やっぱ柴だな」

「柴だしな」

「柴、行ってこい」

結局じっちゃんの鶴の一声で柴くんが行くことになり、あたしたちはドライブスルーのあるファーストフード店の影からその姿を見守ることになった。

柴くんはしぶしぶとドライブスルーの入り口へ歩いていく。

徒歩で注文スピーカーまでたどり着いたが

「お客様、こちらはドライブスルーでございます。恐れ入りますが、徒歩の方は店内でご注文ください」

店員から門前払いをくらい、柴くんはしぶしぶ戻ってくる。

「なんだよ、門前払いかよー」

「だってドライブスルーだから徒歩はダメって言われたんだもん」

「じゃ、ドライブしてたら良いってことだな」

にやりと笑いながらじっちゃんが言った。

「田中、お前自転車で来てたよな」

皆の顔が一瞬ハテナとなる。

「なるほど、自転車で“ドライブ”ね」

周りが囃し立てて、今度は田中君がチャレンジすることになった。

結局このチャレンジも失敗に終わり、この後じっちゃんはバイク持ちのOBに連絡をつけ、単車でも実験してみたのだが、それも失敗に終わった。

一日かけて行った実験の結果、ドライブスルーというのは車のみにしか許可されないということが判明した。


このくだらないドライブスルー実験の後から、じっちゃんとあたしたちの関係は急速に縮まったように思う。

皆がじっちゃんに懐き、男子はじっちゃんと共に悪戯に勤しむ時間が増えた。




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