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「今日は俺が言ったことは忘れて、ほら、初めてミオともつ鍋食べた時みたいな気持ちで、美味しいもつ鍋を堪能しよう」

注文した鍋が届いたとき、じっちゃんがそう言って笑ってくれたから、気まずいという思いはなかった。


だけど今までで一番静かな食事だったかもしれない。

今までと変わらず仕事の話や仲間の近況を話し合い、出てきた特製味噌スープのもつ鍋をお腹いっぱいになるまで堪能して、いつもよりたくさんお酒を飲んで、なのに二人とも大笑いするようなことはなく、ただ穏やかに時間だけが過ぎていった。

沈黙が訪れるたびに、このままこの時間が永遠に続けばいいのに、なんてくだらないことが頭をよぎるから、いつもより少しだけハイペースで飲み続けたお酒があたしのアルコール濃度の限界に達しようとしていることに、少しだけ気づくのが遅くなってしまった。


しまった、飲みすぎた、と気づいたときには、もう目の前がゆらゆらして冷静に物事を考えられなくなっていた。


「ごめん」とじっちゃんに誤りながら、じっちゃんにもたれかかるように店を出て歩き始める。


「いいよ。気にしないで。」

そう言ってあたしを支えながら歩くじっちゃん。


「タクシー使う?」


「うぅん。少し歩きたい」


「気持ち悪くない?」


「大丈夫」


「寒くない?」


「じっちゃんがあったかいから大丈夫」


そんな会話をまるで他人がしているかのように客観的に傍観しているかのように感じていた。




「ねぇ、じっちゃん。」

きっと夢みたいな気分だったんだと思う。

もしくは素面では絶対にできないとあたしの潜在意識が訴えていたのか。


「ん?」


「あたしね、じっちゃんこと大好きだよ。でもね、じっちゃんはずっと友達だと思ってきたし、お兄ちゃんみたいにずっと何でも相談に乗ってくれて、ずっと特別な場所にいる人って思ってた」

体を預けてるじっちゃんの体に少しだけ力が入るのを感じた。


「あれからね、ずっと考えてたんだけど、もし男と女の関係になってしまったらきっと、お互いの嫌なところも見えて、今までみたいに何でも相談したり話をしたり出来なくなっちゃうんじゃないかって怖かったの。」


「そんなことないよ。今までどおりで良いんだよ。ただ、ミオとずっと一緒にいたいなって思っただけなんだ」


「うん。でもね、じっちゃんはあたしにとってお兄ちゃんみたいなもんなんだ。こうなっちゃたらもう前みたいな関係には戻れないって分かってるんだけど。でもどうしても今の関係を崩したくなくて、でもじっちゃんと一緒に生きていく未来を想像できないの。

あたしのワガママだって分かってるんだけど、今までの関係がよかった。もう戻れないって分かってるから余計にそう思うのかな。もう、どうしていいか分からなくなっちゃったよ」

支離滅裂な自分の気持ちを話しながら、自然に涙が溢れてくる。


「わかった、ミオ。もういいよ。そんなに悩まなくても」

きっとじっちゃんも戸惑ってる。どうしていいかなんて答えはないんだから。


「ねぇ、じっちゃんを失いたくないの。でも、今までみたいにはいられないでしょ?

あたしはどうすればいい?ねぇ、じっちゃん。あたし、どうしたらいい?」

涙は止まることを知らず、ただただ泣き続けた。


「ごめん、ミオ。こんな風に悩ませてごめん。もういいから。ミオがそんなに悩まなくても。俺が言ったこと全部忘れていい。だから、もう泣かないで」

あたしの耳元で苦しそうにじっちゃんが囁いたところで、あたしの記憶は途切れた。




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