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7時きっかりに約束の場所にたどり着くと、珍しくじっちゃんはもう到着してあたしを待っていてくれた。

すっかり落ちてしまった陽の変わりに駅のネオンの光がキラキラしていて、半分影になっていたじっちゃんの顔を見つけて「おまたせ」と言ったあたしに、

「いや、時間ぴったしだし」

そう言って笑った笑顔が何一つ変わらないいつものじっちゃんだったから、ちょっとだけホッとした。


「行こうか」

そう促されて歩き出す。

一度しか言ったことのない店だったけど、じっちゃんは迷うことなくあたしをリードしてあのうどん屋さんまで連れていってくれた。

じっちゃんは何も話さなかったし、あたしも何も話せなかった。

見慣れた街並みのはずが、何となくよそよそしく他人行儀に見えて落ち着かず、足元ばかり見て歩いていたら

「ミオ、ぶつかるから」

そう言ってじっちゃんがあたしの肩を抱いて脇に寄せてくれた。

びっくりして勢い良くじっちゃんの方を見上げると、そんなあたしにびっくりしたじっちゃんに「あ、ごめん」と謝られてしまった。

「あ、いや、あたしの方こそごめん。ありがとう」

照れ隠しみたいにまた下を向きながら答えると、じっちゃんはクスリと笑いながら言った。

「ミオ、また下向いてたらぶつかるよ」


じっちゃんは何も変わらない。

挙動不審なのはあたしの方だ。




うどん屋に到着して注文を終えて一息ついた頃、じっちゃんが口を開いた。

「ミオ、相当忙しいみたいだね」

「うん、なかなか上手くいかなくて、、ね」

相変わらず上手くじっちゃんの顔を見れなくて、自分の指先を見つめながら何とでもない風を装ってそう返す。

「仕事、上手くいってないの?」

じっちゃんは、鋭い。

「いってないわけじゃないけど、いろんな仕事が重なっちゃってね、上手く時間が取れてないの」

そう言って、現状をかいつまんで話した。

「じゃ、寝る時間もないくらい忙しいんじゃない?」

少しだけ眉間にしわを寄せて怪訝な顔をしながらじっちゃんは口を開く。

じっちゃんに隠し事はできない。いつだってあたしの弱いところを的確に見つけ出して、決して強引にではないけれど、有無を言わさず自白させる力を持っている。

だからあたしはいつだって何でもじっちゃんに話をして、そこから解決策を探っていくことができたんだけど。

「・・・・・」

「ミオ、言って。遠慮しなくていいから。今までみたいに思ってること話してみて」

「うん・・でも忙しいというよりは寝る時間が取れないのはあたしのせいだから」

控えめに、話を整理ながら話し始める。

本当はじっちゃんの力なしで頑張りたかったんだけど。じっちゃんに頼らず一人で頑張りたかったんだけど、そんな努力もじっちゃんの一言で全部なかったことになってしまった。

また、じっちゃんに甘えてしまっている。

「頑張りたいんだけど空回りして、何だか独りよがりになってるの。本当は一人で全部ちゃんとできるようになりたいのに、全然うまく出来なくって、このままじゃダメだって分かってるんだけどなかなかうまく出来なくて。どうやったら上手くいくんだろう」

「ねぇ、じっちゃん。チャレンジしないで諦めたら、負けになるのかな?」

いろんなことを考えながら話していたら勝手に涙が溢れてきて、あたしはここがうどん屋さんでまだ注文した品が運ばれてきていないことさえ忘れてボロボロと泣いてしまった。

じっちゃんはびっくりしたようにあたしを見て、何も言わずにそっとハンカチを差し出してくれた。

手渡されたハンカチで涙を拭いながら「ごめん」と言った。

じっちゃんは何も言わなかった。


それからしばらくして運ばれてきたうどんを二人無言で食べた。

あたしはもう何も話せなかったし、じっちゃんももう何も言わなかった。

下手な慰めを言われるより沈黙の方がよっぽど気を効かせてもらっているようで、何も言わずただうどんを食べることに集中した。




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