こんな乙女ゲームは絶対に嫌だ。
ついに、ついにやったぞぅぅうう!!
わたしは買ってきたゲームを早速開けて、本体にインストールした。
マッサージチェアのようなこのゲーム機は、リアルでゲームの中の世界を体験できる機械だ。
しかも今回のリアル体験ゲームは、MMOものじゃない。
なんと!
乙女ゲームものだイエーイ!!
乙女ゲームの主人公をリアル体験できるとか、人生で一度はやってみたいよねっ!
自他ともに認めるオタクなわたしからしてみれば、こんなにいい話はない。しかもわざわざ前日から並んだのだよこの発売日のためにね!
インストールが済んだ後、わたしは早速ヘルメットみたいなのをかぶってマッサージチェアに座った。起動ボタンを押せば、勝手に椅子が仰向けに倒れていく。
「いざ、スタートっ!」
ぷつりと切れた意識は、ゲームの中に滑り込んでいった。
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この乙女ゲームのタイトルは『ハッピーエンド+らぶっ♡』というやつだ。最後のハートがうざったいのはわたしもおんなじなのでお静かに。
内容で言えば人外との恋愛体験ができる、ありがちだけど夢みたいなリアル体験ゲーム。
わたしは早速、自分の容姿を設定し始めた。
このゲームの魅力でもあるのがこの容姿設定機能。しかもMMOみたいに他人と同じ世界を共有するわけじゃないので、自分のリアルがだだ漏れでも大丈夫。
えーと、まず名前は……リアル名使っていっか。『真柴由那』っと。
で、身長は……見栄張って『165センチ』にしとこ。
髪の色は『黒髪』で、長さは『腰くらい』。一回このくらいの長さを体験してみたかったんだよね。
目の色は『黒』で、『垂れ目』と……。ここら辺の要素はわたしっぽい。
顔は『良家の美少女』系のものにした。うん、鏡を見たけど可愛い!
わたしは『この設定で宜しいでしょうか?』という画面の『はい』の部分を押した。
これでいよいよ、ゲームが始まるっ!
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物語も終盤に差し掛かっていた。
あはは、夢?
うふふ、希望?
そんなことを考えていた時期が、わたしにもありましたよ。ははははは。
なぁにが『ハッピーエンド+らぶっ♡』だよ。
この話のどこに、ハッピーエンド要素があるんだ!
ヤンデレばかりのリアル死亡フラグゲームじゃねぇかあああああっっ!!
わたしが攻略対象として入ってしまったのはあれだ。超絶ドSで束縛しないと気が済まない独占欲の塊みたいなヤンデレだ。
お陰様で現在、監禁されております。とほほ。
ねぇ、この赤い首輪ってなに。この真っ黒いドレスなに。わたしはペットか何かか。
赤い首輪からはぎらぎらした鎖が付いてて、部屋の隅から隅まで歩ける長さしかない。もう嫌だ。
その上部屋の豪華なこと豪華なこと。こんな鎖がなかったらも少しヒャッハーしてたわ。天蓋付きベッドにダイブとかしてたわ。
そんなこんなで涙目になりながらベッドに寝転がっていると、ノックがされた。ヒィッ。きたぁぁああっ。
「由那。ご飯にしようか」
うん、イケメンさんなんですよ。銀髪に碧眼とかいう超絶なイケメンさんなんですよ、もろタイプなんですよ。
でも、これは、ない。
ヤンデレ怖いよ監禁怖いよ。
でも声がむっちゃくちゃいいよぅぅ……っ。自分の声フェチが今はものすごく憎たらしい。
そして彼は、わたしがその声に弱いことを分かっていて耳元で囁くのだ。
「由那。僕の由那。可愛い」
ぞわわわわっ。
誰だろうかこのゲームの設計者は。今直ぐくくびり殺したい。てゆうかヤンデレに嫉妬されて殺されてしまえ!
お食事はあーんは当たり前。口移しとか最近ではアブノーマル路線に走ってる。
睨んだら睨んだでうっとりした目をするし、何この変態怖い。
しかもこのヒトさ……吸血鬼なんだ。
わたしお食事にされてるんだ!!
「ふふ。由那の首筋はいつ見ても美味しそうだね。いただきます」
ぷつり、と微かな痛み。そしてぼんやりと頭まで痺れる感覚。
ゲームとはいえ、感覚がやたらとリアルすぎる。
でも下手を打つと、完璧に死亡フラグ一直線だ。どうしたらいい、この無理ゲー。
血を吸い終えるとわたしの頭がふらふらとしてきた。貧血だ。何もここまでリアルにせんでもよかろうに。
恨めしく思いながらも仕方がなく、彼に寄りかかる。あああああ。ヤンデレ怖いリアル体験なんかいらん。
てか思った。わたしさ、プレイし始めてから一度もリアルに落ちれてないんだけど、どういうバグですか?
でも意識はやっぱり落ちてゆく。
目が覚めたら、現実世界に戻ってるとかないかな。
……まぁ、あり得ないけどさ。
このゲームは真面目な話、バッドエンドフラグしかないと思うんですよ。
由那の可愛い寝顔を見ながら、思わずうっとりする。
垂れ目なのに意志の強そうな瞳とか、力を入れたら簡単にへし折れそうなこの腕とか、本当に堪らない。
何より堪らないのは、彼女が未だにここを、ゲームの中の世界だと思っていることだ。
あのゲームはいわば、召喚装置みたいなものだ。それを媒体にして、僕らは花嫁を得る。魂の波動がおんなじ子にしかそのゲームは渡らない。
「ゆーな」
吸血行為による貧血で倒れた彼女を優しく撫でる。可愛い。
この髪も、腕も、何もかも全てが僕のものだ。由那は僕だけを見てればいい。僕だけを知っていればいい。そのために、毎回こうやって吸血行為のたびに、呪いを流しているんだから。
由那は僕とおんなじ時間を生きる、という呪いを。
彼女はいつ、この世界がゲームではないと気付くのだろう。
もし気がついたときは、一体、どんな顔を見せてくれるんだろう。
その真っ直ぐな瞳が、絶望に打ちひしがれるさまを見てみたい。そして僕に依存して依存して恨んで憎んで、そばにいてくれればそれでいい。
僕に溺れてしまえばいい。
いつか手に入るその日まで、僕は君のことを愛し続けるから。
「君を殺すのは僕。君を生かすのも僕。由那は僕だけに依存してればそれでいい。その純粋な瞳で僕を見て、射て」
そして君が晴れて不老不死になったら、僕との間に可愛い子をもうけよう。大丈夫。何度だって孕ませてあげるから。
愛おしい由那の唇を貪るように口付け、僕は嗤う。
※こちらは月夜の闇猫様主催の『病愛、ヤンデレ増殖企画』の作品です。
なかなかやみまくってますねリアルでいたら怖いです。
このゲーム、完璧にタイトル詐欺ですよ……(ガクブル)
なかなか楽しく書かせて頂きました!
月夜の闇猫様、ありがとうございます。