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俺と言う存在

 現在時刻は18時

 高校時代は、特に部活をしていなかった俺の帰宅時間は、その日の寄り道にもよるが18時~19時くらいだった。

 そろそろ帰る時間だ。尤も、家に無断欠席したと言う連絡は行っているだろうし、素直にどう謝るか考えておこう。

 ウチの両親は放任主義な所が有るので、謝罪すればそこまで怒られる事も無いはずだ。

 仮に死ぬほど怒られたとしても、今日起きた出来事を思えば後悔など有ろうはずがない。


 しかし、親に怒られるかもしれないと言う緊張感は久しぶりだ。

 仕事で、客や上司に怒鳴られるなんて事は良くある話だが、両親にはもう何年も怒られた記憶が無い。

 理不尽にぶち切れるお客様をいなす事を考えれば、楽なもんだろうと言い聞かせながら

 大きく深呼吸をして、玄関を開けた。


「た、ただいまー……」

「おかえりー。早かったねー」


 たまたま下に降りていたらしいユキコの声が台所の方から聞こえた。

 どうせ、冷蔵庫の物色でもしていたんだろう。晩飯食えなくなるぞ。

 そう言えばこいつがこの時間に帰っているのは珍しい。確か10年前は部活をしていたはずだ。

 何をやっているのかは良く分らん部活だったが。

 ただ、この現状の世界でこいつが同じ部活に所属しているのかは分らないが。


 逆に俺は帰宅部のファンタジスタだったから、基本的にはこの時間には帰っていたはずだぞ。

『早かったね』と言うユキコの言葉に疑問を抱く。


「何時もこんなもんだろ」

「えー、学校サボった時は何時ももっと遅いじゃん」


 しっかり学校サボった事は妹に伝わっていた。

 と言うかこの言われ方だと、俺はサボりの常習犯みたいじゃねーか。

 おかしいな。10年前の高校時代の俺は、基本的に優等生路線だったはずなのに。

 止むを得ない事情でサボった事は何度かあったけど……片手で数えられる程度だ。


「そうだっけ?」

「そうだよー、朝も言ったけどいい加減怒られるよー、あんまりフリーダムだと」

「き、気を付けるよ」


 俺自身が認識している『俺』とこの世界における『桐嶋ユキト』はちょっと違うのかもしれない。

 しかし、ユキコや母さんには性格上の変化はそんなに見られないが、俺だけ性格が違っているなんて有り得るのだろうか。

 それとも高校生時代の俺は、今の俺が思う以上にフリーダムだったのだろうか。

 うーん……どう考えてもかなり平凡だったと思うんだけどな。


「ホント、気を付けてよね。幾ら成績優秀とは言っても、敵を無駄に増やす必要無いんだし。

 真面目にやってる妹のあたしの気持ちにもなってほしーよ」

 おかしい。成績なんてそれこそ普通だったぞ俺。完全に妹に負けていたからね学年順位。

 双子なんて嫌いだと良く思ったもんだ。


「母さんとか父さんは何か言ってた?」

「別にー、お父さんはまだ帰って無いけど、何時も通りなんじゃない?どしたの急に?」


 どうやら、両親も妹も更に言うなら学校すら、俺がサボった事を問題としてないようだ。

 フリーダムな行動しても誰もが不問にするくらい成績優秀か……それはもう俺じゃないよね。

 世界の有り方が変わった結果として、俺と言う人間の有り方も変わってしまっているようだ。

 果たして、俺はこの世界において俺であり続ける事が出来るのだろうか。


 しかも、成績基準絶対に魔力とかだろ……

 残念ながら、俺は自力で携帯すら充電出来ない感じだぞ。

 成績優秀な自慢の息子が、いきなりボンクラになったら両親はどう反応するんだろう。

 胃が痛い。期待を裏切る事に対して胃が痛い。


「そー言えばさー」

「ん?」

「今日は何してたん?我がおにーさまの事だからまた何か面白い事したんでしょー 

 可愛い妹のユキコちゃんにも教えてほしーなー」


 今日は可愛い女の子と携帯番号交換したよ!

 おにーちゃんは男になったよ!!


 等と言っていいものなのだろうか。

 判んない!この世界の俺って言う人間の『普通』が判らない!


「何か新しい魔術の材料とか集めに行ってたの?」


 どうしよう。やっぱ思った通りの方向だ。

 俺はどうやら、魔法学校の優等生で、時々学校をサボっては

 己の魔術を極めようとしているみたいなストイックなキャラだ。

 少なくとも妹の中ではそういう事になってる。


 あのなぁ。俺はしがない営業マンで、営業マンのサボりと言えば

「お客さんの所行ってきます!」と言いながら営業者の中で昼寝とかそんなんだぞ。

 キラキラした目を向ける妹に、お前の兄は駄目人間だよと告げるのも酷だよな。

 本当に、この世界の『桐嶋ユキト』がそういう人間なのかは置いておいてだ。


 妹や両親との会話で所々、変に思われている節はあるが

 口調とか醸し出している雰囲気とかは、そこまで変に思われていないのは確実だ。

 結局のところ、ベースが俺であると仮定すれば、そんなに大きくキャラ違うとも思えない。

 つまりここは、普通に妹の期待にそこそこ応えている感じで回答しておけば間違い無いはず。


「まーねぇ。そのうち、見せてやるよ」

「むー、絶対に約束だからね」


 良し!乗り切った!!何も無いけど乗り切った!

 段々と情報は集まってきている。少しだけこの世界であるべき『桐嶋ユキト』の姿も見えた気がする。

 俺がそうなれるかは全くの別問題なのだが。


 だが、今の話の通りでるならば正直、学校にはかなり行き難い気がする……

 成績優秀者を演じるにはこの世界は流石にハードルが高すぎる。

 観月さんは、明日になっても、元に戻らなければ学校に行ってみると言っていた。

 大丈夫なのだろうか。観月さんは……


 明日になっても世界が戻らなければ……その時は一度観月さんに連絡を取ろう。



 で、もしも世界が戻ってもこの携帯番号は消えないよね!?ね!?

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