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魔王の血

「はぁ……はぁ……うぅ…………」

 

 荒い呼吸のまま目を覚まさない観月さんを布団に寝かせる。

 お客さん用の布団があって良かった。俺の布団で寝かせて臭いとか思われたら最悪だ。

 妹が倒れたと言うのに出て来ない所を見るとガロウは本当に帰ったようだ。

 どうするべきなのだろうか。やはり救急車を呼ぶべきだろうか。

 少し迷ったが、このまま観月さんに何か有ったら大変どころの話では無い。

 俺は意を決して、携帯電話を手にした。


 『着信有り 十五件』『未読のメールが有ります 十件』


 …………俺がバタバタしている間に大量に着信があったようだ。

 俺は普段、携帯電話が鳴る方では無い。こんな風に鳴った経験等一度も無い。

 いや、会社の携帯がこれくらい鳴ってた事は有るな。あれは思い出したくない。


 そんな事を考えている内に、再び携帯が振動を始めた。

 ディスプレイには『レヴィア』と昨日登録されたばかりの名前が浮かんでいる。


「はい、桐嶋です」

『あっ……な、何で出ないんだっ!愚か者っ!!お前もミツキも出てくれないっ!』

 

 レヴィアは少し涙声だ……微妙にメンタル弱いんだよなこの魔王様は……

 観月さんにも掛けていたのか。観月さんは、今は電話出れる状態じゃない。


「悪かった。こっちも取り込み中だったんだよ」

『メールくらい返してくれても良いんじゃないのか?』

「悪かったって。何の用事だったんだ?」

『いや……今日の研究会の時のお茶を用意しようと思ったのだが……どういうのが良いかなって……』


 ……楽しみにし過ぎだろ。それだけの用事で何回電話して来てるんだ。


「俺はコーヒー派だ。別にインスタントで良いぞ」

『そうか。観月はどうだろうか?』

「さぁ?ちょっとそれを聞ける状況じゃないな」

『ん?もしかして、観月と一緒に居るのか?わ、私を無視して……』


 おおうっ!何だかレヴィア様がご不満そうだ。

 どうも仲間外れにされたとか思っているような気がする。


「ちょっと俺の家で、今日の研究会のための資料集めしてたんだよ」

『どうして私を呼ばない……いや、それは良い。何で電話に出ない』

「色々取り込み中だったんだ……変態ストーカーとかヤンデレとかが出て……」

『そ、そうか……それは大変そうだな。ふん、私が居れば直ぐに解決してやった物を』


 逆にレヴィアが居たら余計に拗れていたような気がする。

 特に変態ストーカー兄貴は、一度はレヴィアと互角に遣り合っている男だ。

 俺の家で、またあの二人の本気バトルが始まろう物ならば、さっきのユキコの破壊魔術の比じゃなく家が無茶苦茶になる。

 そう言えばユキコの部屋の壁どうしよう。あれユキコ帰ってくるまでに何とかしないと拙いんじゃないか。恐らくはあいつ、自分で破壊した記憶も無くしているし……

 まず、それは置いておこう。今はレヴィアとの電話を切り上げて、救急車を呼ぶのが先決だ。


「そんな訳で、ちょっと大変だから切るぞ。観月さんも倒れちゃってるんだ」

『ミツキが?何が有ったんだ?』

「判らん。急にフラフラになって倒れた」

『…………判った。今行く』

「えっ!?いや、呼んだわけじゃ……」


 既に携帯電話からは通話終了の音しか聞こえない。

 俺が携帯を耳から離すと、同時に天井に魔法陣が発生した。

 魔法陣の中から、レヴィアがひょこっと顔を出す。


「携帯……意味あるのか……」

「お前の家がセキュリティ甘いのだ。観月の家にはこの前みたいに簡単には入れない」


 一応、両親には確認したんだが、ウチの結界も熟練の魔術師でも中々破れないレベルらしいんだけどな……


「もっとも、お前の部屋とはもう直通の転送魔法陣結んでおいたから、今更結界強化しても無駄だけどな」

「か、勝手に!?」

「ふん、今後の活動拠点となる魔王室に簡単に出入り出来るんだからお前にもメリットあるだろう?」

「そういう工事は普通家主の許可取ってやるもんだろ!?どんなヤクザ事業だよ」


 今後、セルフでアレする時は気をつけよう。とんでも無い自体が発生しかねない。

 いや、もうこの部屋では絶対に出来ないな……どうするんだよ若返った故の俺の熱い情熱は!


「細かい事はどうでも良い。それよりもミツキは……?」

「あ、ああ……そこで寝かせているんだけど、起きる気配も無いんだ」

「そうか」


 それだけ言うとレヴィアは、観月さんに近づき、苦しそうな彼女の表情を覗き込んだ。


「……魔力切れだな」

「え?」

「完全に魔力が空になっている。ミツキ程のキャパシティが有りながらここまで消耗するとは……どんな魔術を使ったんだ?」

「どんなって……」


 まさか……あの時、ユキコとガロウの記憶を遡らせた魔術……あれは観月さんが発動させたと言うのか?

 だとしたら……俺のあの、『力が欲しいか』的な脳内会話って一体……悲しいピエロ過ぎないか。

 そもそも、俺は魔力が0だ。俺があの現象を起こせるわけが無い……そう言い切ってしまって良いのか。

 それに魔力が0になった観月さんは、あんなに苦しそうにしているのに、常時魔力0なのに普通に行動出来ている俺って……

 判らん。考えても、答えは出そうに無い。ただ、今判ったのは、先程の現象によって観月さんの魔力は全部吸い取られてしまったって事だ。

 レヴィアに素直に話ても良いものだろうか……いや、時空を超える魔術の完成にはこいつの協力は絶対に必要だ。

 些細な現象とは言え、恐らく時間に干渉した、この結果を報告しないわけには行かないだろう。


「……俺もまだ、良く判らない。だが……少しだが、人の記憶を巻き戻したかもしれない」

「限定的な時間操作をやったと言う事か?」

「恐らく……」

「ど、どういう理論に基づいて?」

「判らん。本当に判らないんだ」

「そうか……理論を超えて、直感的に真理に至る者も居るが……レベル5クラスでそれをやったら、それこそ魔王だ……」

「レヴィア?」

「理由は判った。一度にキャパシティ異常の魔力を消耗した事による、魔力欠乏症だ。これならば、どうにでもなる」

「そ、そうなのか!凄いなレヴィアは!エライエライ!」

「あ、頭をくしゃくしゃするなっ!」


 し、しまった……ついやってしまった……

 何か撫でたくなる頭してるんだよなぁ……何でだろ。

 当然だが、俺は会社ではこんな事一度もしていないし、出来ない。

 こんな事したら次の日には、セクハラで訴えられ会社から去る事になっていただろう。


「全く……いきなり何をするんだ!」

「ご、ごめんなさい」


 良かった、レヴィアはそんなには怒ってないようだ。助かった。


「さて……下らない事言っていないで観月を回復させてあげないと」

「どうするんだ?栄養ドリンクで良いならば買ってくるが」

「ここまで一気に消耗した魔力を回復させるような強力な物は市販では無い」


 い、一応有るんだ魔力回復の栄養ドリンク……

 この世界のユンヘルとか飲んでみたら俺も多少は魔力付くんだろうか。


「ふん、一番手っ取り早い方法で行く」


 そう言うとレヴィアは自分の人差し指を口に運び、想いっきり歯を立てた。

 い、痛そう……漫画とかでこういうシーン、たまに見るけど俺絶対に出来ないわ。


「大丈夫か?大分、血が流れているけど……」

「こんな物、かすり傷だ」


 そのまま、レヴィアは血の流れる人差し指を、観月さんの口に運んだ。

 『はぁはぁ』と荒い呼吸をする小さな口に、指をねじ込む姿は……以下自粛。


「んっ…………ふぅ……」

「な、何て声出してるんだよお前っ!」

「う、うるさいっ!黙っていろ、神聖な儀式の最中だ」


 ちゅぱ……ちゅうちゅう……


「音がエロいんだけど……」

「だ、だから黙ってろって言っているっ!」


 観月さんの顔も紅潮している。これ知らない人が見たらどんなプレイだって思われるんじゃ……

 

「レヴィア……お前も顔紅くなってるぞ」

「お、お前が一々いらん事言うからだろっ!ん……」


 何時の間にか観月さんの荒い呼吸は静かな寝息へと変わっていた。

 幸せそうな顔でレヴィアの指から、血を啜ってる。意外と美味しいんだろうか。


「魔王の血液だぞ。魔術師にとってはどんな極上のワインよりも上等に決まっている」

「そういうもんなのかね……」

「ふふーん……お前も飲みたいのか?土下座したら飲ませてやるぞ」

「いや、いらない。何か副作用怖そうだから」


 俺はヴァンパイアじゃないんだから、そういう趣味は無い。

 特殊性癖の人ならば、喜ぶのだろうが、俺は至ってノーマルだ。


「ふぅ……恐らくこれで魔術の行使をしなければ普通に動ける程度には回復したはずだ」


 観月さんの口から指を引き抜きながら、レヴィアは言った。


「栄養価高いなお前の血。魔法の聖水くらいあるんじゃないか」

「血液を媒介にして、私の魔力を分け与えだけだ。ミツキと私は魔力の波長が近かったから出来た事だな」

「お前が来てくれて助かったよ、今回は素直に礼を言う。ありがとう」

「ふ、ふん……メンバーの体調を見るのも研究会の会長の務めだ」


 多分、これは照れ隠しだな。何となくレヴィアって人間が判って来たような気がする。

 それにしても、会長はお前なのか……いや、異論は別に無いけど。また振り回されそうだ。


「貴様が、礼をしたいと言うなら受け取ってやらない事も無い」

「え……」


 まさかのお礼強要!?まぁ、助かったから礼くらいはするけど。


「あんまり高いもんは無理だぞ」

「頭を撫でろ。丁寧に……」

「は?」

「あ、頭を……も、もう良いっ!」

「これで良いのか?」

 

 俺はさっきとは違い、なるべく丁寧に優しくレヴィアの頭を撫でた。

 煌くような金色の髪は、まるで高級なシルクのような触り心地だった。


「何だろう。どっかで触った事ある気がする」

「……ふん、さっき触っただろう」

「そっか」

「そうだ」


 そうじゃない。さっきも思ったが、それより以前に……


「思い出した」

「えっ?」

「前に行った高級ペットショップのお高い猫の触り心地に似てるんだっ!」

「…………」

「いやー、胸のつかえが取れた。確かにレヴィアは猫っぽいもんな。なでなで……」

「…………だ、誰が……畜生だ……!」

「え、ええ……ちょっと待て落ち着けレヴィア。それは洒落に……それに高級だから!高級な猫だから!」

「問答は……もはや不要だっ!!」

「ぎゃーーーー!!」


 ……今日は仏滅なのだろうか……

 何とか生き長らえた、俺は横たわりながら、そんな事を思うのだった。

 

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