魔術師の矜持
「時空を超える魔術って知っているか?」
俺の投げかけた質問に対して、レヴィアは、中々口を開かない。
黙ったまま、俺がどういうつもりで『時空を超える魔術』について口走ったのか考えているようだ。
レベル5の魔術と言うのはやはり、そんなに危険なものなのだろうか?
レベル1は一般人でも使用出来る物。
レベル2は見習いの魔術師程度で使用出来る物。
レベル3は一般的な魔術師で使用出来る物。
レベル4は熟練の魔術師が到達出来る可能性が有る物。
レベル5は伝説クラスの力が必要な物。
ミエナイブログには確か、このように記載されていた。
先日、交流戦説明会での一幕で、会長は、レベル4の魔術は校内で使用禁止だとレヴィアに言っていた。
つまり、レヴィアが弾幕気分で良く使っている光の柱の魔術は『熟練の魔術師が到達出来る可能性が有る物』で
一般的な魔術師では使いこなせない物であると考えられる。
そう、彼女は気軽にレベル4の魔術を使用しまくっているのだ。
その事実が有るからこそ彼女ならば……魔王と呼ばれる程の存在であるならば……
レベル5の魔術、『時空を超える魔術』にまで精通しているかもしれない。
そんな風に俺は期待していた。
「私は知らない」
レヴィアがようやく口を開いた。
随分考え込んだ割にはとてもアッサリとした、そして俺の望んでいる答えでは無かった。
いや、仮に知っていたとしても、知り合ったばかりの俺に簡単に情報を開示するわけも無いか。
そんなもんは仕事での取引先と一緒だ。何度も通って信頼を得て、ようやく情報を引き出せるもんだろう。
……思い出したら胃が痛くなってきた。しかも、あいつ等平気でウソ言うもんなぁー!
仕方ない。今は、詳細は得られ無くても良い。だが、彼女が本当に何も知らないのか真偽は、はっきりさせておきたい。
今後の方針にも関わる事だけに慎重に……ここは営業モードを発動させよう。
知識が無くても相手の話に合わせる術ver中二病!
いや、俺はノリノリじゃないよ。結構恥ずかしいんだよ、コレ。
まずはレヴィアの自尊心をくすぐってみよう。
「やはり『金色の魔王』と言えども……レベル5までには至らないか。
フッ……ならば、俺は独自に研究を……」
「駄目だ!!!」
大きな声で俺の言葉をレヴィアが遮った。それは殆ど叫び声と言っても良かった。
これもまた、俺の予想を大きく超える反応だった。
俺は彼女と出会って時間にすれば数時間程度しか交流は無い。
その程度の時間だが、何となくこいつはどんな場面でも余裕ぶって笑っている奴なんだと認識していた。
でも、今のレヴィアは明らかに違う。必死な顔で……『時空を超える魔術』を目指そうとする俺を止めようとしている。
「それはただのレベル5の魔術ではない……知っているだろう。それは禁忌の魔術だ。時を支配すると言う事は因果律を支配するにも等しい」
「…………」
俺は黙ってレヴィアの紡ぐ言葉を聴いている。
今、口を挟むべきでは無い。少しでもレヴィアの言葉から情報を集めるべきだ。
「それは人ならざるものへの道だ」
「……そっか」
それくらいしか俺には言えない。
確かに禁忌なのは間違い無いだろう。しかし、図らずとも禁忌を侵した結果が現状なのだ。
これを元に戻すには再び禁忌を侵すしか無いんじゃないだろうか。
そうは言ってもこの分じゃ、頼りのレヴィアの協力は得られそうに無いか……
「そう言いながらも納得がいっていないと言う顔だ」
「魔術師ってのは……禁忌の先を行くものだと俺は思っているからな」
「ユキト……」
「気にするな。少し禁術とやらに興味有っただけだ。お前が知らないと言うなら、それで問題無い」
「本当にただの興味だけか?」
「……魔術師が探究心を持つのは当然だろう?それが禁術であっても」
レヴィアは、また俺の言葉に対して、黙って何かを考えているようだ。
意外だったのは、レヴィアは思ったよりも魔術師としての道徳観は強そうだと言う事だ。
魔王などと呼ばれているからには、その辺は気にしないタイプだと思っていた。
俺のそんな考えを見通したかのように、再び沈黙を破ったのはレヴィアだった。
「ふ、ふふふ……はーっははは!」
さっきまでの不安そうな顔を一変させ高らかに笑う。
情緒不安定なのか、こいつは。こっちが色々不安になってくる。
「そうだな。『混沌の支配者』の言うとおりだ。
禁忌に足を踏み入れずに何が魔術師か……
決められたルートを歩んで世界の限界に等到達出来るはずも無い」
「お、おう……」
何だか良く判らないが、レヴィアの態度は何時も通りに戻ったように思えた。
こいつはこんな風に自信満々な方がこいつらしい。
短い付き合いだが、そう思う。こっちの方が気を使わなくて良いからな!
「良いだろう……お前がそれを求めると言うならば協力しよう
だがさっきも言ったが、私の魔術書にもそれは載っていない。
未だにこの世界のどんな魔術師も到達した事の無い領域だ……」
こんな魔術世界の誰もが到達していないのに……
現代日本という魔術の欠片も無い世界で、それに到達してしまった
ミエナイブログの管理人は一体何者なのだろうか?
そして奴の言葉を信じるなら、奴はレベル5の魔術に見合うだけの魔力は持っていない。
それならば……魔力0の俺でも、理論だけは導き出せるのかもしれない。
全く知らない学問に今から挑んで、一ヶ月でノーベル賞取るくらいの難易度の気がするが
……難易度は考えちゃ駄目だ。心が確実に折れる。
それに、レヴィアも協力してくれると言ってくれた。
少なくとも俺と観月さんだけで話を進めるよりは百倍以上効率良くなるだろう。
不安要素を挙げればキリは無いが、今日の所は一歩前進と考えるべきだ。
「レヴィアがそう言ってくれて嬉しいよ」
「……それで、お前はその先に何をしようと言うのだ?」
どうする?世界を戻す等と言っていいものか?
レヴィアがどういう存在なのかもまだ判っていないのに……
「言っただろう。ただの興味だ。魔術はどこまで行けるのかを確かめたい」
「そうか……カオスを望む者。故に『混沌の支配者』か……」
この痛いネーミングも、もしかしたら正しいのかもしれない。
名前負けしないように世界に混沌をもたらす所まで辿り着けるのかは判らないけど。
もっとも、俺は混沌を望んでいるわけじゃなくて平穏な生活に戻したいだけだ。
俺にファンタジーなど分不相応だ。そういうのはもっとチートな力を神に授けられた人間が
行うべきことなのだろう。俺は一般人らしく……時を支配するっ!!
……そんな一般人居るのか等と考えるだけ虚しくなる。
「フフフ……世界は中々面白い事が無いと思っていたが……
お前と出会ってからは面白い事が多いなっ!我が『金色の魔王』の名において
『混沌の支配者』に祝福を与える事を約束しよう」
レヴィアも何時も通りのノリに完全に戻って来たな。
ならば……そろそろアレを伝えても良い頃合だろう。
「そう言えばレヴィア」
「フフ……何だ?」
「ご飯粒まだついてるぞ」
「……………………は?」
「いや、さっきのまだ取れてなかったみたいだけど」
俺はレヴィアの唇の少し下についたご飯粒を取ってやった。
うんうん、さっきのシリアスなタイミングでこれやるとぶち壊しだったからな。
流石は俺だ。良い感じに空気を読んだと思う。自分で自分を褒めてあげたい。
「―――――あ……かっ……うぐぅ……」
レヴィアが金魚みたいに口をパクパクさせている。どうしたのだろうか。
「は……は……早くいえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「ぐはっっっっ!!!」
渾身の右ストレートが俺の腹に直撃する。
数メートルは吹っ飛ぶ俺。息できない。交通事故にあったらこんな感覚なんだろうか……
レヴィア……拳でも世界狙えるぞ……本当に……
「な、何で黙ってたんだ!」
「…………げほっげほっ」
いや、空気を読んだ結果じゃん!?
真面目な顔してる子に、「ご飯粒ついてるよ」って中々言えないじゃん?
デート中に、「青海苔が歯についてるよ」って中々言えないようなものじゃない?
いや、まともにデートなんかした事は無いけど、そういうもんでしょ!
「げほっ……た、タイミング逃したんだよ」
「じゃ、じゃあ……あんなシーン、こんなシーン全部……私は……ううう……」
やっぱ魔王とか言われてる子は威厳とか気になるんだねー。かわいいねー。
とか言ってみたい衝動に駆られるが、それを言ったら恐らく右ストレートでは済まないだろう。
光の柱でこの世界から綺麗にログアウトさせられてしまう可能性がとても高い。
「も、もう帰る……」
心底恥ずかしそうに顔を赤らめているレヴィアは、あっという間に姿を消した。
そんなに恥ずかしかったのか……しまった。これが原因でレヴィアと連絡取れなくなったらどうしよう。
「あ……忘れてた」
「うおっ!びっくりした!」
いきなりテーブルの上に現れた魔方陣から首だけ出して話しかけてくるレヴィア。顔はまだ赤い。
この光景だけ見ると、朝飯にレヴィアの生首が並んでいるみたいでとても嫌だ。
「今日の放課後、ミツキと一緒に特別棟の魔王室まで来い、絶対だぞ!ふん……」
それだけ言うと再び彼女は姿を消した。
良かった。どうやらあんな事が原因で協力解消って事は無いようだ。
とは言え……魔王室……?聞きなれない教室だが、嫌な予感しかしない。
良く当たる自分の勘が外れる事を期待しながら、放課後を待つとしようか……




