金色の朝食
「世界を元に戻す(キリッ」
と恰好を付けてみたものの、はっきり言って現時点では手掛かりは皆無だ。
観月さんは、変態兄さんの説得と蒼月会に大量にあると言う蔵書の調査に今日から取り掛かると言う。
俺の方は……さて、どうしたもんかね。
部屋に戻った俺は、布団に潜り込み交流魔術戦のデータを眺めていた。
過去の魔術戦で死者が出たと言うような事は書かれていない。
俺のように魔力0が戦えば死ぬ可能性は当然有るのだろうが……
まぁ、実際にどのような試合が過去に行われたのかは一度調べてみるべきだろう。
俺を殺すと口走った智成君。
少し喋っただけだが、智成君と変わらず昔のように喋れたのはうれしかった。
しかし、彼は決定的に何かが違ってしまっていた。それがこの世界の影響なのだろうか。
学校行事で人を殺すなんて全く悪い冗談も良い所だ。
もしも、このまま当日を迎えてしまったらレヴィアに期待するしかない。
全く大層な二つ名の割には恰好わりーなぁ……
そんな事を考えながら俺は眠りに落ちて行った。
◆◆
『世界を元に戻そうだなんて考えているのかい?』
まただ。前にもこの声は聞いた事がある。
しかし、何時だったか思い出せない。
『やめときなよ。君が君らしくあるべき世界はこっちだよ』
いや、俺は普通のサラリーマンだから。
こんなファンタジーが浸食している世界には向いていない。
『この前も言ったよね。そろそろ空気を読んでも良いんじゃないかな。君に与えられた役割は…………』
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どうも最近は目覚めが良くない。寝ているはずなのに疲れが取れていないような気がする。
寝ている間も脳が頑張りすぎているような気がする。
「おっはよーー!」
「おう」
「あれ?ユキト、何か朝から元気ないねー」
「いや、朝だから元気無いんだ」
基本的にサラリーマンが朝最初に考えるのって「ピンポイントで会社が吹っ飛んで休みにならないかなー」だからな。
え?俺だけ?……ウソ言うなよ……三千万人くらいは同じ事考えているはずだぞ。
「今日はガッコどうするの?」
「うん、ああ……適当に行くよ」
授業には全然る気は無いが……
取り敢えず観月さんと会って、交渉が上手く行ったのかを確認しておきたい。
そしてあわよくば早退して昼間の誰も居ない我が家で……パソコン弄るだけだよ。
「そっかー。お母さん、今日はもう出ちゃったから、朝食べたら食器は片づけといてね。んじゃ!私はお先にー」
何だかんだで朝飯が用意されていて、しかも適当に学校サボってもOKな身分か……
この辺だけは元の世界に戻っても継続してくれないかな。魔術的な要素は要らないから。
「ま、ゆっくり朝飯食ってから出掛けるか……」
時計は既に八時を回っている。
つい数日前までは朝六時に起床して、七時には満員電車で揺られて居たのがウソのようだ。
「ようやく起きたか。遅いぞ。ズズゥー」
「昨日はちょっと中々寝つきが悪くてね」
「そうか。あ、このオムレツ美味しい」
「うちのお母さんの得意料理だからな」
「ほほう……」
………………あれ?
「どうした何を突っ立っている?」
…………おかしいだろ。
「お前が遅いからオカズは無くなったぞ」
「何してるの」
「朝ご飯食べているだけだが?」
そっかー……朝ごはん食べているだけかー
「って通るか!何で人の家でさも当然のように朝飯食ってるんだよ!!」
「昨日は、貴様達がいつまで待っても姿を現さなかったから迎えに来てやったのだ。有り難く思え」
純和風の我が家の食卓には不釣り合いな、金髪金目の魔王様がさも当然と言うように、味噌汁を啜りながら言ってのけた。
と言うかこいつ明らかに俺の分の朝飯食っているところ見ると……どうやらこの前同様に勝手に上がり込んだようだ。
ウチも東西南北に何か四神でも置いて結界を強化した方が良いんじゃないのか、マジで。
「昨日って……何か有ったのか?そもそもお前と会う約束した覚えが無いんだけど」
「……私の部屋の攻略に何故来ない……お前達の居城を私が攻略したんだから……今度は私が守る番のはずなのに……」
……寂しがり屋か!いや、何時かはこいつに寝起きドッキリはしようとは思ってたけど。
「お前達の襲撃に備えて用意した666の地獄が無駄になってしまった……」
絶対に遊びにはいかねーからな。お前の家。
間違いなく観月さんの家より性質の悪いもん出てくるだろ。
そもそも俺や観月さんはこいつみたいにヒョイヒョイ人の家に転移出来ないのだ。
それに、レヴィアがどこに住んでいるのかも知らない。
「まぁ、今度攻略に行くから、今日はやめとくよ。迎えに来て貰って悪いんだけど」
「……絶対だぞ!」
「ああ……」
トラップが解除された頃にこっそりと伺うよ。
しかし、レヴィアが自分の方から現れてくれたのは好都合だ。
俺はこいつの連絡先も知らないのだから、こっちから探しても見つかる可能性は低かった。
「どうした?私の顔に何かついているか?」
「ご飯粒くらいだな」
「へっ!?」
口の周りをこするレヴィア。その様は愛くるしい。
どうもこういう姿を見てると、こいつの魔術師としての能力を忘れそうになる。
その気になれば、俺を一瞬で蒸発させるだけの力を持っていると言うのに。
だからこそ、彼女は知っているかもしれないと期待してしまう。
ミエナイブログに書かれていた、世界を変異させた魔術の事を。
「なぁ、レヴィア」
「ふ、ふん……もうご飯粒はついてないぞ!」
「時空を超える魔術って知っているか?」
その質問を投げかけた瞬間、レヴィアの表情が変わった。
まるで魂すらも居ぬくように鋭い瞳が俺を真っ直ぐに見つめている。
……まだご飯粒が着いている事は突っ込まないでおこう。




