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蒼月会との対峙

「えーっと……まずはごめん」


 完全に項垂れてしまった観月さんに掛ける言葉が無い。

 勝手に部屋に入ってしまった謝罪をしてみるも心ここにあらずだ。


 いや、でも分るよ!レヴィアの魔術見ちゃうと自分も出来そうな気がしてくるよね。

 あいつ息をするみたいな感覚で空間転移したり、光の柱ぶっ放したりするし。

 話していると、何か中二病っぽい喋りが普通のような気がしてくるし。

 タイミングが違えば、このような姿を晒していたのは、俺だったかもしれない。


「どうしてですか……!」


 拳を震わせながら観月さんが小声で呟いた。

 小さな声では有ったが、そこには百万の呪詛を込めたかのような負の力が感じられる。

 これは完全にブチギレモードに突入している……お、落ち着け俺!怒ったお客様を宥める術は……


「な、何でここにいるんですかっっ!!」

「何をカリカリしている。カルシウムが不足しているのではないか?小魚をくれてやろうか?」


 黙っててレヴィア!今、お前の挑発にしか聞こえない喋りは火に油どころじゃない。核爆発とか起きかねない。


「ま、まぁ、落ち着こう観月さん。取り敢えず今回の件は俺達が全面的に悪かった。本当に申し訳ない」

「ふ、ふん、何を謝る必要がある。魔術師の居城とは、何時如何なる時も、敵対する魔術師に狙われるものだ。私達に突破された事を恥じるのだな……」


 駄目だ……この娘の……魔術師の価値観は俺や観月さんには理解出来ない。

 それに観月さんは、多分侵入された事には、今はそこまで頭は行っていないはずだ。

 どちらかと言うと……あのオリジナル魔術の発動シーンを見られた事で混乱しているのだ。


「……見ました……よね?」

「あー……その……」

「どうやら先ほどの魔術は発動には至らなかったようだったな」

「……いやぁぁぁぁ!」

「あ……いや、安心しろ。オメガナザウィーネ?だったか?あの魔術の発動にはまだ因子が足りなかっただけだ。きっと因子を集めれば発動出来るはずだ」

「あああああ……」


 落ち込む観月さんをレヴィア……は一応フォローしているつもりなのだろう。ちょっと焦ったような口調で観月さんに語りかけている。

 でも、それは完全に傷口に練り辛子をぶち込んでるのと同じだぞ。

 観月さんは再び、頭を抱えて塞ぎこんでしまった。どうしたら良いんだ……この状況を逆転するには。



『おい!四神結界が破られとるぞぉぉ!』

『な、なにぃ!?どこのもんじゃぁぁ!!!』

『ひ、姫は無事かぁぁぁぁ!!』


 いかん、もう俺達の侵入は感づかれてしまったようだ。

 嫌な怒声が聞こえてくる。これ危険なんじゃない。もう駄目なんじゃない。

 何でファンタジーな世界観で任侠の人達とバトルイベント発生しそうなんだよ!


「ほう。結界破りがもうバレたか。中々勘が良い連中だ」

「ここは戦略的撤退をすべきだ。目標は達成されただろう?」


 今すぐ逃げよう。マジで逃げよう。転移しよう。


「ふふ、奴らもバカでは無い。結界を簡易的に再構築したようだな。防衛機能はまだ回復していないようだが、転移魔術は阻害されている。逃がさないつもりだな」


 一番駄目じゃねーーーかぁぁぁ!!!

 どうすんの。完全に居場所の目星付けられている上に、観月さんは塞ぎこんじゃっているよ!?

 これ完全に極道のお嬢様に手を出した男みたいな扱いになるんじゃないの?

 み、観月さんに何とか俺達の無実を証明して……いや、無実では無いけど!


「……もう殺して下さい」


 全然立ち直る気配が無い。このままだと俺が殺されちゃうんだけどね。

 ドタバタと言う足音がこちらの方に近づいてくる。体育座りを継続する観月さん。

 不敵な顔で、全身に金色のオーラを纏いだすレヴィア。こいつは完全に戦闘モードだ……


「何しとんじゃぁぁぁぁ小僧ぉぉぉぉ!!!」


 小娘もいるよ!?やっぱりそうだよね。やらかしたの俺って事になるよね。

 とんでもない緊張感が俺を襲う……どんなにクレーム気質のお客様でもここまで目を血走らせて怒声を放つ人は、少なくとも俺の客にはいなかった。

 これは完全に本職の怒声だ……いかにもと言う感じの出で立ちの男が五人。既に彼らは懐に腕を忍ばせている。

 確実に出てくるのは名刺では無い。


「ふん……大した魔力も感じないな。所詮は、使役されるだけの使い魔か」


 どこの戦闘民族だよ、この娘は……


「姫……!!」

「あのガキ共……姫を人質に取りやがった……」

「いい度胸じゃのぉ……蒼月会の総本部に土足で上がりこんでくれた上に姫の寝室にまで踏み込むたぁ……!!」

「ぶち殺せっっ!!!」


 構成員の皆さんは、へたり込む観月さんと俺達を完全に良くない方向に解釈している。

 状況は無茶苦茶と言うか……もうどうしようも無い。

 俺は笑っていた。本当に恐怖すると笑うしか無いって本当だったんだなぁ。


「良い笑顔だ。『混沌の支配者』」


 レヴィアは完全に余裕の笑顔を浮かべている。

 いや、勘違いするな。俺とお前の笑顔は完全に性質が違う。


「あのガキ共……この状況で笑ってやがる……」

「『混沌の支配者』……聞いた事があるぞ。確か気に食わない魔術結社を一人で壊滅させたとか……」

「まさか……今度はウチが標的に……」

「じゃあ、あっちの娘の方は……」

「黄金の魔力を宿す魔術師……まさか『金色の魔王』」

「な、何でそんな化け物がウチに……!!」


『混沌の支配者』の名に、蒼月会の皆さんに動揺が広がる。

 と言うかこの世界の俺は本当に何やらかしているんだ。怖いんだけど。自分が……

 そしてレヴィアはそういう異名だったのか……こいつの場合はピッタリだな。

 全体的に金色だし、殆ど魔王としか思えないような魔術行使するし。


 しかし、この感じなら生き延びられるんじゃないか?

 このまま、連中が引いてくれれば、俺達は正面から撤退出来る。

 観月さんさえ残して行けば、奴らも俺達を追って来たりはしないだろう。


 乗るしかない……!このビッグウェーブに!!


「ククク……俺達の事を知っているとは光栄だな。それでどうする?」

「簡単だ。全員消せば終わるだろう?」


 俺の迫真の演技とレヴィアの素!

 もはや、完全に蒼月会さんにかち込みをかけに来た敵対魔術師コンビみたいになっているが

 明日の事は明日考えよう。今は、この場をどう納めるかが先決だ。


「まぁ、待てレヴィア。俺達は学友のところに遊びに来ただけだろう?」

「ふん、そうだな。中々面白い物も見れた」

「もう用事は無い。素直に道をあければ良し……もしも邪魔すると言うならば……仕方ないな」


 思いっきり邪悪な笑顔を浮かべてみる。

 『桐嶋君って目付き悪いよねー』って言われた思い出しかない俺の顔が役立つ日がついに来たのだ。

 ちなみに脇汗はダラダラで、背中も汗びっしょりだ。

 レヴィアはともかく、俺の方は完全にハッタリなんだ……心臓も何時張り裂けてもおかしくない。

 仮に奴らが撃って来ようもんならば……完全にゲームオーバー。


「私はどちらでも良いぞ」


 そう言いながらレヴィアが光の柱を発生させる。

 轟音と共に蒼月会の皆さんの目の前が抉り取られたように消滅する。

 ナイスだレヴィア。異常な魔力の放出を見た、蒼月会構成員達の動揺は明らかに大きくなる。


「お、おい……」

「し、しかたねぇ……だが姫は置いて行って貰うぞ!」

「言っただろう?俺達は学友のところに遊びに来ただけだって」


 交渉成立。未だに観月さんは心ここにあらずで蹲っているが……明日ちゃんと謝ろう。

 ああ……ビールが飲みたい……大きなプロジェクトを一つやり遂げた気分だ。

 俺はそんな気分で、この場を去ろうとした。


       『 危険 』


 その瞬間、脳に電流が走る。昼間のレヴィア襲撃と同等の危険信号を脳は感じている。

 原因は……まさに俺達の方にゆっくりと歩いてきている。

 着流しに帯刀と言うジャパニーズファンタジーな姿で。

 年齢は、まだ二十歳そこそこに見えるが、その眼は異常な程座っている。

 どれだけの修羅場を経験すればこんな眼が出来るんだ。

 二十六歳時の仕事に疲れきった状態の俺もこんな眼はしていない。

 彫刻のように整った顔立ちは、どこか観月さんに似ていた。

 見れば見る程、アラートは大きくなっていく。


「さ~て……どういう事か説明して貰おうか?」


 青年は背筋が凍るくらい冷たい声でそう言った。

 どういう事なんでしょうね……本当に。

 どうやら、プロジェクト完遂はまだ先のようだ。


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