かつての友人
交流魔術戦とは?
我が靖錬高等学校と黒麟高等学校間において一年に一度実施される魔術戦である。
各校は代表魔術師を三名選出、その三名にて優劣を競うものとする。
勝利校の代表選手には、第1種閲覧規制魔術書の優先閲覧権及び
賞品として古代種の魔力核、世界樹の枝、魔神の角の三点を与える。
また勝利校特典として、在校生全員に一年間、魔術都市内マジックショップにて
買い物時に十%の割引権を与えるものとする。
……勝利景品、全然嬉しくねーな。
無事に部屋に戻った俺は、事前準備会で最後に渡された資料に目を落としていた。
どうやらウチと黒燐は、魔術都市と呼ばれる異空間において、トップ1,2を争う名門校らしい。
その名門校同士で、切磋琢磨して優秀な魔術師をより高みに押し上げると言う名目で交流魔術戦は生まれたとの事だ。
全く……ウチの学校なんか本来で有れば、地元でも偏差値で言えばそこそこだったはずなのだが、どうしてこうなってしまったんだ。
それに、気になるのはレヴィア・アリスフィードの存在。あんな奴はどう考えてもウチの学校には存在しなかった。
幾ら何でも、あんな目立つ奴の事を知らないなんて事は無いだろう。俺の知っている母校とは似ているけど完全に別物と考えるしかない。
そもそも、魔術都市って概念もイマイチ俺は呑み込めていない。
この辺は、ゆっくり調査して行くしかないだろう。
「ユキトー、いるー?」
「いるよ。どうした我が妹よ」
「いやー、交流魔術戦どうなのかなーって」
「どうもこうも。偉大なる兄は大将だ」
レヴィア様が負けた場合、土下座するのが主なお仕事のな。
「おー、流石『混沌の支配者』」
これ本当に誰が付けた二つ名なの。ちょっと慣れてきている自分が怖い。
そう言えばコイツの魔術的な素養はどうなんだろうか?
天才魔術師と言う事になっている俺の双子の妹なのだから、
コイツも相当な二つ名とか持っていても不思議じゃないのだが……
むしろ、元々の世界では俺より成績良かったからねこの妹様は。
ただ、交流魔術戦に選出されていないと言う事は少なくとも観月さんやレヴィア様より
レベルが低いと言う事になるのだろう。ちょっとこいつの実力を探ってみるか。
「お前の方は最近、どうなんだ?」
「うーん……我がお兄様に誇れるような実績は何も無いかなー
結局、代表漏れしちゃったしねー」
おお、やはり才覚は代表選抜されるレベルなのか。
いっそ俺の変わりに出てくれて良いよ。本当に。マジで。
「だからこそユキトには頑張って貰わないと!桐嶋家の家名も掛かってるよ!」
いや、ウチってそんな大層な家だっけ。
親父は普通のお役所勤務の公務員だったはずだけど。
現代日本では確かに、勝ち組な部類かもしれないが……
この世界ではどういう風に置き換わっているのやら。
あんまり聞きたくないな……親父の二つ名とか……
自分のお父さんが、職場では『スーパーユキヒコだっ!』とか言っていたら泣くぞ。
「まっ、俺の出番は回って来ないと思うけどな」
回って来た時は、俺の四十八の営業スキルが奥義『土下座』が火を噴くぜ。
「観月ちゃんとレヴィアちゃん、凄いもんねー
一年生にしてあの性能は反則だよ!反則!ユキトの一年生の時より凄いんじゃない?」
「あー、そうかもなぁ」
むしろ現時点の俺より完全に上位互換ですよ、特にレヴィア様は。
ユキコや、学校の皆が俺や観月さんに持っているイメージはレヴィア様と同等クラスなんだろうがとてもじゃないが、そんなバトル漫画みたいな事は出来ない。
「そう言えば黒麟の代表はどんな人だったの?イケメンいる?」
「まだそこまで目を通して無いなぁ」
「ふーん、見ても良い?」
「ああ、適当に見てくれ」
俺は、今日はもうこれくらいで良いや。
これ以上、深く魔術戦について考えるとまた胃が痛くなりそうだ。
一月あるんだし、ボチボチ目を通して行く事にしよう。
「あり?この人……」
「どうした?目当てのイケメンでも居たか」
「智成君って……小学校の頃、同じクラスだったよね。
途中で転校しちゃったけど」
「あー……いたなぁ。結構仲良かったぞ俺」
「良く家に遊びに来てたもんねー」
智成ユウヤ。俺の記憶では小学生時代の仲が良かった友人だ。
体は弱かったが、成績は良く、ゲーム好きと言うので俺と仲良くなった。
俺は、中々ゲームを買って貰え無かったので、彼には良くソフトを借りた思い出がある。
小学五年の頃に転校して行って、それ以来会っては居ないが……
将来の夢だったゲームデザイナーにはなれたのだろうか。
ただ、この思い出がそのままこの世界に当て嵌まるとは限らない。
あんまり迂闊な事は喋らないようにしよう。
「そっかー……やっぱ智成君賢かったもんねー」
「どうして急に智成君の思い出話を?」
「いや……だって……交流魔術戦に出るみたいだよ
3年生の有力候補を予選会で破っての代表入りだって」
「ま、マジで!?」
「智成君……全然連絡取って無かったけど、黒燐に行ってたんだねー」
「ちょっと見せてくれ」
「あっ」
俺は引っ手繰るようにユキコから黒麟の選手データを奪い取った。
【智成ユウヤ】
身長 :178cm 体重:65kg 年齢:17歳
得意魔術:精霊術 属性:光 魔力:A+
データと共に貼り付けられた写真は、間違いなく俺の知っている智成ユウヤの面影を残していた。
まさか……現実世界では十五年以上も連絡取っていなかった昔の友人に、この世界で……しかも、魔術合戦の舞台で再開するって言うのか!?
……しかし、魔力レベルで言うとレヴィアの方が大分上だ。死ぬなよ智成君。
「久しぶりに会った友人同士の魔術戦が見れるかもね!燃える!」
「そうならない事を祈ってるよ」
マジで祈ってる。昔の友人に殺されるとかホント勘弁して下さいだぞ。
「そう言えば、ユキトと智成君で作ってた魔術書……まだ残ってたっけ?」
「魔術書?」
……嫌な予感がする。俺は確かに智成君と一緒にノートに色々書いて遊んだりもした。
でも、それは小学生なら誰でもやるようなレベルの話だったはず。好きな漫画のキャラとか描いて……
そして……それでは満足出来なくなってきて……段々と俺達だけの設定を書き綴った……
「倉庫にあるかなぁー」
「や、やめろ!!」
それは絶対に開いてはいけない禁断の魔術書の可能性が高い。色んな意味で!!
もう俺も真っ当な社会人になったんですよ。今更、それを掘り起こすのは反則だ!
「あ、あれは危険な物だ!封印を解いちゃだめだ!」
「う、うん……ごめん。でも、やっぱユキトは凄いねー」
俺の迫力に押されたユキコはアッサリと引き下がった。
良かった。この世界の俺が『混沌の支配者』ってステータス持っていて本当に良かった。
お蔭で、小学生の頃に作った何かヤバイ魔道書って考えて貰えた。
初めて、俺はこの二つ名に感謝した。
その日の夜……俺は智成君との思い出を少し思い出していた。
高校時代の彼はどんな風になっているのだろうか……
久しぶりに会ってどんな話をすれば良いのかも良く分らない。
まぁ、なるようにしかならないか……明日は……どうしようか…………な
どすっ!
眠りに落ちようとした瞬間に突然の衝撃……
「がふっ!い、いてぇ!!」
俺は叫ぶしか無かった。何だ!?ユキコ辺りの悪戯か!?
「起きろ。『混沌の支配者』」
「げほっげほっ!」
「昼間のはマグレか?この程度も躱せないとは……」
意味が分らない。全然意味が分らない。何が起きているんだ!?
「さっさと起きろ。この私が起こしに来てあげたんだぞ」
布団の上から俺を見下ろす少女の瞳は暗闇の中、楽しそうに金色に輝いていた。




