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金色の少女

 その場の勢いで、火事場に全裸で飛び込む事を選択してしまったような気がする今日この頃だが、

 熱しやすく冷めやすい俺は、6時間目が終わる頃には既に後悔の中に居た。

 いや、あの場では、あれしか無かった……それに、逃亡したところで、不吉な予感が付き纏うのは同じだ。

 そういう風に自分を納得させるしかない。

 そして、運命の放課後は割とアッサリとやってきた。

 まだだ。まだ、本当に他校と交流するだけで、魔術戦なんて言うのは名目だけってオチも十分考えられるんだ。 

 悲観するには、少し早いだろう。


「頑張ってくれよユキト!」

「お前ならば、憎き黒麟の連中を闇の彼方に消し去れるよな!」

「マジでー、あいつ等うぜーし、魔王の生贄にしてやんなよー ユッキーならいけるっしょ」

 

 クラスメートの皆さんの激励が、俺の唯一の希望を打ち砕く。

 ……闇の彼方に消し去る交流会だってあるかもしれない。俺はまだ希望は捨てない!


「キリちゃん、そろそろ時間だからいこーよ」


 シュウが、そんな風に俺を促す。

 どうやらシュウも打ち合わせが行われる場所まで行くようだ。

 生徒会副会長のシュウは、学校の代表が集う打ち合わせの場で何らかの仕事でもあるのだろう。

 

「あー……うん……」


 心の内が、外に出たかのようなやる気の無い返事を返す俺。


「あり?テンション低くない?」

「そんな事無いよ。行こうぜ……」


 そりゃ低いわ!

 今から、俺の全裸ヨハネスが始まろうとしているのだから。


 昼休みに観月さんと会話していた、特別教室棟にある生徒用会議室。

 それがどうやら打ち合わせの場所のようだ。

 第二会議室の中には、何人かの生徒が既に集まっていた。

 その中に観月さんも居た。一年生の女子と思われる子と何か話しているようだ。

 俺とシュウが、会議室に入るなり、ホワイトボードの前に立っていた女性が声をあげた


「長瀬君、おそい!」

「す、すいません!」

「全く、生徒会メンバーたる者、時間の30分前には来るのが当然だ!」

「以後、気を付けます!」

「よろしい」


 彼女の事は良く覚えている。

 現在、三年生の真理川マナ。一年生の頃から生徒会に参加し、当時の三年が引退した後の選挙で圧倒的得票数を獲得し、二年生候補を差し置き、一年生にして生徒会長になった女だ。

 その性格は、苛烈の一言に尽きる。しかし、他人に厳しい分、自分には倍厳しい彼女は、生徒からの人望も厚く、まさに理想の生徒会長と言った具合だ。ちなみに元の俺は、彼女とまともに喋った事も無い。

 恐らく、喋っても気が合うとは思えないが。


「さて、良く来てくれたな桐嶋君。いや、『混沌の支配者』と呼んだ方が良いかな?」

「いえ、大丈夫です。全力で桐嶋君でお願いします」

「むっ?そうか」


 まさか、彼女がもう一人の代表だったりするのだろうか?

 いや、生徒会メンバーらしき人間が他にも集まっている事を考えると、それは無いか。

 それにしても、生徒会の面子なんて友人のシュウくらいしかまともに覚えて無いのに、喋った事無くても記憶に残っているこの人はどんだけインパクトあったんだ。


「もうすぐ時間だが、まだ代表魔術師が揃ってなくてね。申し訳無いけど、少しだけ待っていてくれたまえ。」


 どうやら、三人目の代表は、まだこの部屋には居ないようだ。

 はてさて、どんな奴が出てくるのやら……

 俺が取り敢えず、適当な席に座ると、友人との会話を切り上げた観月さんが話しかけてきた。


「桐嶋さん、本当に来てくれたんですね」

「まぁ……昼休みに言ったばっかりだからね……あと二時間後だったら、来なかった可能性が高いね」


 


「そ、そうなんですか。良かったです、打ち合わせが十八時じゃなくて」

「あれ?キリちゃんって、観月さんと知り合いだっけ?」

 

 シュウが不思議そうに問いかけてくる。

 本来であれば、観月さんと俺は卒業まで一度も会話を交わした事が無いから当然だ。

 と言うか、この会議室にいる面子で俺が学生時代に会話した事あるのって、多分シュウだけだ。


「『碧き光を纏いし虚空の姫君』の事を知らないわけないだろ?」

「まっ、そうか。二人とも有名人だもんな」

「…………」


 観月さんは、ジト目でこっちを見ている。ちょ、ちょっと目が怖いよ、『虚空の姫君』!


「あっ、俺は、キリちゃんの幼馴染の長瀬シュウジ。よろしくね観月さん」

「はい。長瀬先輩ですね。お顔は何度も拝見しています」

「お互いに顔は見知ってるのにね。話すのは初めてだね」

「わ、私の顔ご存知なんですか……?」

「もちろん!観月さんの事知らない奴なんてウチにはいないよ。いたらモグリだよそいつは」


 ち、ちょっとシュウジ君。

 あっという間にウチの観月さんと距離詰めるのやめてくれる!?

 等と冗談でも言ったら引かれるだろうなぁ……


「副会長。駄目ですよウチのエリに手を出しちゃ」

「バカ!代表魔術師に挨拶してるだけだろ!」

「ホントかな?エリ、気を付けた方が良いよ、副会長こう見えてナンパ野郎だから」


 先ほどまで、観月さんと話していた少女が会話に加わってくる。

 そして、俺の言いたい事を代弁してくれる。ありがとう!名前も知らない少女!

 このシュウのクソ野郎は、趣味は俺と同レベルの癖に昔からもてるのだ。

 俺とシュウの何が違うの!?性格?顔か!?


「もう……カナやめてよ。先輩に失礼だよ」

「いや、シュウはクソナンパ野郎なんで全然OKだと思う」

「き、桐嶋さんまで……」

「さっすが、『混沌の支配者』は理解してますね!」


 カナと呼ばれた少女が、そんな風に言ってくる。

 もう何か、『混沌の支配者』って呼ばれるのがこのまま普通に感じてきそうで怖い!


「はあ、キリちゃんも勘弁してよ……でも、もう一人遅いなぁ」


 完全に話題を変えにいったなシュウ。

 だが、シュウの言うとおりだ。既に予定の午後四時は回っている。

 一番、エスケープしたい人が頑張って来てるのに!

 俺も胃痛のせいで、早退してもいいっすか。


「全く……あいつは……桐嶋君と観月君をこれ以上待たせても申し訳無い。今居るメンバーで先に打ち合わせを始めよう。皆、席に着いてくれ」


 午後四時を十五分ほど過ぎたころに会長は、もう一人の登場を諦め話を進めた。

 俺は適当な椅子に腰かける。


「隣良いですか?」

「あ、うん」


 良いに決まっているだろ。良すぎますよ。ずっと俺の隣に座ってて下さい。

 これだけでも、苦悩を超えてここに来て良かったと素直に思えた。

 シュウ達は、前方のホワイトボード近くに並べられた席に座った。

 全員が席に着いたのを確認すると、会長は良く通る声で宣言した。


「それでは、第百三十二回 交流魔術戦の事前準備会を開催する」

 


 さて……いよいよ本題だ。流石の観月さんも緊張しているのが見て取れる。

 当然の事ながら、俺の胃は既に痛い。何をやらされるのか……本当に胃が痛い。

 

 しかし、何だろう。胃痛もだが……物凄い悪寒を感じる。

 前にも言ったが、俺は悪い事に対しての勘は良く働く。

 この悪寒は……仕事で言うと、売った商品が性能を満たしておらず、

 大きなクレームに発展する……そんなレベルの悪寒……いや……そんなもんじゃない。

 このまま、ここに居たら駄目だ。周りの空気がおかしい。


 危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険!


 脳がけたたましくアラートを鳴らしている。

 

                危     険


 俺は考えるのをやめ、本能に従った。

 自分の勘だけは信じるに値すると、二十六年の人生が言っている。


 目の前の机を蹴り飛ばし、観月さんを抱えて前方に飛ぶ。俺は観月さんに覆いかぶさる形となる。

 ヤバイよ本能!従ってみたのは良いけど、これで何事も無かったら俺の人生終わった!!!


「え、えぇ!?き、きりしまs……」


 観月さんが声を上げようとしたその瞬間、ほんの数秒前まで俺達が座っていた場所は消滅した。

 轟音と共に天から降り注ぐ、光の柱によって。

 光の柱は、今までそこに在った物全てを飲みこみ、消し去ったのだ。



「ど、どど……どういう事!? な、何なのこれ!」

「こ、黒燐の攻撃か!?」

「キリちゃん!!!観月さん!!


 生徒会のメンバーは、突然の出来事に混乱している。

 俺も観月さんも、全く動けない。この場に居た、全員が状況を呑み込めないでいた。

 ただ一人を除いて。


「相変わらず、派手な登場だな」


 大きな穴が開いた天井に向かって、生徒会長真理川マナは語りかける。

 その言葉に呼応するように、女の声が返ってくる。


「この私が、わざわざ足を運ぶのだ。この程度の演出は当然だろう?フフフ……」


 声の幼さに反して、ひどく尊大な言葉づかいだ。

 その声の主に対して、会長は呆れたように呟いた。


「全く……遅刻だぞ、レヴィア」


 会議室にいる人間全員が、天井に空いた穴を凝視している。

 

 人々の視線が集まった事を確認したかのように、彼女は姿を表した。

 腰まで届くほど長い金色の髪と、まるで獲物を探すかのように爛々と輝く金色の瞳

 もしも、本当に神話の天使が降臨する事があったら、こんな感じじゃないだろうか……

 そう思わせるだけの圧倒的な存在感を彼女は醸し出していた。


 本当に誰!? こんな 目立つ奴、うちの学校にいたか!?

 金色の少女は、会議室に降り立つと、周りをゆっくりと見渡し、再び口を開いた。


「そう。我が名は……レヴィア……レヴィア・アリスフィード。この学園を……この魔術都市を支配する者……」


「集合時間は伝えただろう。それに、学校の破壊は校則違反だ。レベル4の魔術の学内での無断使用もな」

「愚かな……最上位の魔術師である我々を下らない決まり事で拘束出来るとでも思っているのか?」


 見た目は、小柄な……とても高校生には見えない少女が、その幼い声にはまるで似合わない言葉を紡ぐ。

 

「ユキト・キリシマ……エリナ・ミツキ……」

「へ?」

「は、はい!」


 未だ動けない俺達にレヴィアと名乗る少女は話しかけてきた。


「今、私を見て下らない事を考えたなら、取り消しておくのだな。アカシックレコードからも貴様達の存在を抹消するぞ」


 物凄い目で睨まれた。こえぇぇ……何この娘。

 ここまで、魔術世界とか言っても知り合いばっかりだし、授業でしか魔術なんて出てこなかったのに……

 こいつだけ世界観違い過ぎるだろ。どこのファンタジーから出てきたんだよ!

 流石に、こんな目立つ奴が居たら覚えているだろ!会長の100倍はインパクトあるぞ!

 観月さんの表情も完全に困惑している。俺も、観月さんも……こいつの事を知らない。


 知らないが…………何となくわかる……彼女は……


「フン、しかし、先ほどの反応は中々だったぞ……それでこそ私と肩を並べる資格がある。

 さぁ始めようか……私のための舞台を整えよう」



 間違いない……彼女こそが“三人目”だ。


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