二人の決意
「は、ははは……下らない悪戯だなぁ」
俺は心にも思っていない事を呟きながら観月さんの方を見た。
彼女の表情は、困惑の色を強めている。恐らく偶然じゃないだろう。
「ミエナイブログ……桐嶋さん。桐嶋さんに来たメールも……」
「ふぅー……どうにも俺達には意思決定権すら無いみたいだね」
いきなり十年前に転生させられて、チートし放題だと喜んでみれば
実は、俺の十年間で培ってきた物など全く役に立たない世界で
その上に、学校とやらの代表になって、物騒な事をやらされそう。
そこからのエスケープを図ろうとすれば、警告のメールだ。
どうも、このボードマスターは、自分の決めた筋書きしか認めないらしい。
その筋書きの先に、俺や観月さんがどうなるのか先行公開してくれないだろうか。
俺は結構ネタバレとか平気な方ですよ。犯人は安田とか言われても良いです。
「……このメール無視してみたらどうなるんでしょう?」
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逃げ出す事は許されない。
逃げ出せば、戻れなくなる。
逃げ出せば、あなたはあなたでなくなる。
-ミエナイブログ-
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携帯をこちらに見せつけ観月さん。
文面はどうやら俺に来た物とまるで同じようだ。
「戻れなくなるってのは元の世界にって事なんだろうなぁ」
「やっぱりそうなりますよね……三行目は……どうなんでしょう?
これもやっぱり、戻れなくなって違う自分で過ごし続けなきゃいけないって事でしょうか?」
「うーん……この世から消すみたいな意味にも取れるけど……」
「物騒ですね……どっちにしても……困りましたね」
その通りだ。本当に困った。
下手に逃げるのも、素直に混沌の支配者として魔術交流戦に参加するのもリスクが変わらなくなった。
どっちを選んだにしても、ただじゃ済まない可能性がとても高い。
「このメール送ってきたの……あのブログを作った人なんでしょうか?」
「正直、判らない。何でそいつが俺達のアドレス知ってるのかも判らないし」
「……それは、ほら……魔術の力で……」
「魔術ずるいなぁ」
どちらにしても、このメールを送ってきた奴は、少なくとも元の世界の事を、俺達の素性を知っている。
あのブログの管理人なのかどうかまでは、現時点では断定出来ないが。
その上で、魔術交流戦に参加させようとしているからには……どういう企みがあるんだろうか。
俺達が、一般人だって事は判っているはずなのに。観月さんは一般人じゃないけど。
「あの……声に出てます……」
「しまったー」
「ぼ、棒読みです……わ、私、一般人ですから!!」
あんまりからかうと、そろそろ本気で嫌われそうだからやめとこう。
十分くらい前にあんなに反省したのに、ついやってしまう。
「まぁ、それは置いておいて……」
「お、おいとかれた!?うぅ……」
一々大げさにリアクションしてくれるから、俺もつい楽しくなってやってしまうんだろうなぁ……
取りあえず、本題に入ろう。これからどうするかと言う……
「こいつの正体は、何であれ……どっちを取ってもリスクがある事になる
どっちを選ぶかは……」
観月さんの答えは何となく想像がつく
「私……魔術交流戦の打ち合わせに行ってみようかと思います」
そう宣言した観月さんの瞳には迷いが無い。
やはり、彼女はそういう性格なのだ。彼女は、この世界をどこか楽しんでいる。
さっき、俺の消極論に同意したのは、あの時点では消極論の方が危険性が少なかったからに過ぎない。
リスクが同等になった今、彼女は舞台の中心に立とうとするだろう。
何なら、彼女が待ち望んでいた『世界の創造主』とやらがお出まししてくれるかもしれないのだ。
「何させられるか判ったもんじゃないよ」
「……判ってます。でも……私達は、何をするかもまだあんまり知らないじゃないですか?
もしかしたら、そんなに危なくない事かもしれませんし……」
「そうだと良いんだけどねぇ……」
正直、俺は悩んでいる。
このメール自体が、単純にブラフの可能性もある。
それに、魔力が一応備わっている観月さんとは違い俺の方は純度百%の一般人だ。
「あ……だ、大丈夫ですよ!私だけで行きますから!
桐嶋さんにはご迷惑を……ってメールがホントだったら危ないんですよね
う、う~ん……」
……そんなに俺は行きたくないような表情していたんだろうか。
「わ…私が内容だけ聞いてきて、危なそうじゃなかったら一緒に出るのはどうですか?
あんまり危なそうだったら私も流石に逃げますし。私……鉄砲玉じゃないんで」
何だかめっちゃ気を使われてるんですけど。腫れ物触る勢いなんですけど。
「いや……行くよ。俺も」
格好悪。我ながら格好悪。
女の子が気を使いまくってるの見て、引くに引けなくなってる俺格好悪。
「ほ、ホントですか!」
「うん……まぁ、話聞くだけなら無料だしね……
無料より高いもんは無いって言葉は、今は忘れとく」
「はぁ……良かったぁ……」
その場にペタンとしゃがみ込む観月さん
女の子がそんな所に座るのはおやめなさい。
「ホントは……流石に怖かったんです
でも嬉しいです。桐嶋さんが一緒に来てくれて」
そう言うと、観月さんは屈託の無い笑顔を俺に向ける。
本当に嬉しそうな顔。こんな表情を向けられた事が俺の人生に何回あっただろうか?
………俺、勘違いするよ。男って単純なんだよ。
判ってるのこの娘。魔性だよ。女は魔性だよ。もう何か魔術師の一人や二人倒せそうな気がしてきた。
混沌の支配者っぽい魔法とか使えるんじゃないか、今なら。多分、行けるよコレ。
「あ、あのメールの文章見る限り……も、戻る……その方法もあり……ありそ……だし
その……もしかしたら……これ参加したら……ほら……どうにかね……そのね」
格好良い事言おうと意識したら急に駄目になった。
何これ死にたい。
「はい。きっと、この先に私達への道標があるはずです!
全ての試練を突破した時に……再び世界は扉を顕現さs……何でもないです」
観月さんは、観月さんで良い事言おうとしたのか知らないけど
心の中の中学二年生が、物凄い勢いで顕現しかけている。
さて……もう宣言しちゃった以上はやってみるしか無いだろう。
何が出来るかって言われたら、現状は何も出来ないけど。
営業マンらしく、最悪の時は土下座を色んな人にするくらいの決意は固めよう。
それが俺と言う人間の精一杯だ。




