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最終回

 思わず圭介は(かが)んでいた。そして手の平にその蜘蛛をやんわりと乗せ、一枚のティッシュを背広のポケットから出す。そして、ふたたび蜘蛛をやんわりとティッシュの紙に(くる)んだ。

「気持悪いわぁ・・。どうすんのよ? 可笑しい子ねぇ」と、不満を(あらわ)にした智代が、少し声を大きくして佇む。

「こんなに小さい奴でも、命はあるんだよ、姉さん…」

「… …」

 いつもなら必ず反発して返す姉だが、珍しく頷いて微笑んだ。そのとき、二人の周囲に閃光が輝いた。いや、圭介にはそう見えた。

「今、光らなかったか?」

「何が? やっぱり、可笑しい子ねぇ…」と、智代は怪訝な眼差しで圭介を見た。

「眼科で診て貰ったらどお? …まあ、そんなことはいいとして、ソレ、なんとかしなさいよ」

 圭介の片手に持たれたティッシュの紙を指さして、智代が眉を寄せる。相も変らぬ勝ち気が、もう復活している。幾らか早足になり、通路の開閉窓に近づいた圭介は、その一匹の蜘蛛に感謝を込めて逃がしてやった。何に対しての感謝だったのか…彼にはそれが分からない。

 窓をふたたび閉じようとして、外壁沿いに植えられた樹々が圭介の眼に映った。その紅葉は、夏から秋への季節の移ろいを知らせている。

「何してるの? 行くわよ!」

 智代が放つ高音域の声が、通路に響く。

━ 人間なんて、弱いもんだなぁ… ━

 対象がない何かに対して、圭介は、ぼそっと呟いた。


                            突破[ブレーク・スルー] 完


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