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第四回

 昌は検査入院ということで、内科病棟のベッドを宛がわれ入院の運びとなったが、差し当たっては、洗面、入浴、着替えの下着、ナースや医師への心づけなどが必要なのは、メモを見なくても圭介には分かっている。

 繁華街を抜け郊外へ出ると、車の渋滞を気にするほどでもなくなった。漸く最近買い求めた一戸建ての住居へ着くと、そそくさと必要品を荷繕いする。そして、リターン・エースのテニス球になった心境で病院へ、とって返した。荷を車へ積み込み、エンジンキーを勢いよく回したとき、財布の中身から発想が及んで、銀行のキャッシュカードを入れ忘れたのに気づき、また家の中へ戻ったりしている。要は、冷静なようでいて、その実、心のどこかでは動転している訳だ。昌が癌だと医師に宣告されたときからの動転である。必死に心の深層を氷結させ、坦々とコトに処してはいるが、実のところは号泣したい気分なのであった。燭台に揺れる蝋燭の炎を写真に撮ったとき、その焼き付けられた一枚の写真の気分なのだ。実際の炎は揺らめいている。が、撮られた写真はその揺れを止めて静止している。その違いだった。

 病院に着いて(1)入院手続き、(2)昌に云われてスーパーで買い求めた見舞い客渡し用のコーヒー缶、(3)…その他の雑事を済ませると、既に五時近くになっている。冬場の日没は釣瓶落としだから、もうしっかりと漆黒の闇である。

「そいじゃ母さん、明日また来るから…」

「会社があるんだから、いつでもいいよ」

「ああ…」と相槌を打って病室を出る圭介。入院の身で子を気遣う母の有難みが、何故か今は、ひしひしと伝わった。

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