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第三十五回

 それでも、一応は了解して、七時にエルモンテという高級レストランで落ち合うことになった。そうしないと、連れ添って社外へ出ようものなら社内雀達のいい餌にされ、(つい)ばまれた上に噂の糞をばら撒かれるのが落ちなのだ。会社は残業をしなければ、定刻の五時には開放される。 ━ まさか、俺に気がある訳でもないだろう…。だとすれば、何か相談事でもあるのか… ━ と、圭介は巡ったが、深くは考えないことにした。(いず)れにしろ、九時には付き添いを智代と交代する約束になっている。それまで、時間はたっぷりあるのだ。脳のプロテクト・リレー回路が単純に計算してOKを出したのである。

 珠江が茶托を下げると、何もなかったように圭介は次長席の書類に決裁印を押し始めた。丁度そのとき、何人かの社員が語らいながら戻ってきた。

「おい君、昼がまだだから食堂で何か食ってくる。倉持君に俺が戻ったって云っといてくれないか」

「課長にですね? 分かりました、ごゆっくり…」

 声を掛けられた若い男性社員は、すぐさま、応諾する。 ━ 自分は飯を食ってきた、なのに次長はまだなんだ… ━ という、悪くはないのに、何か悪いことでもしたかのような自責の念が、この若い男性社員の脳裡を瞬時に駆け巡ったに違いなかった。理由はどうであれ、珠江に誘われたことの喜色の心を悟られまいと、圭介は幾らか威厳を込めた表情で、静かに(デスク)を立った。

 昌の容態は、圭介が恐れていたとおり、日々の移ろいの中で少しずつ顕れていた。

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