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第三十一回

 ぐずっていた昌も(ようや)く得心して、八月の末、ふたたび入院することに同意した。その間にも病は進行の度合いを早めている。病気を根治できないまでも、病院での治療ならば延命も少なからず可能に違いない。そんな情けない想いで圭介は自らの心を慰め、安堵させていた。汗ばむ残暑の熱気が体躯に忍び寄って、じっとりと下着に纏わりつく。課長の倉持は、ここんとこの残業で、すっかり疲れきり、昼も二時だというのに、課長席でウツラウツラと頭を振っている。取り分けて怒る気にもなれないし、第一、夏末期特有の夏バテ感が部内にも蔓延しており、お互い様・・の感は否めない。その上、盆休暇で(くつろ)いだあとの社員ばかりだから、尚一層なのだ。倦怠感が漂う職場になってしまっている。だが一人、圭介だけは気鬱感[これは当然、母の病状による所為(せい)なのだが]に、うち勝とうと黙々と仕事を続けている。普通の季節よりも頑張っているようにも見える。そんな彼に、部長付秘書の珠江が紙コップのコーヒーを持って来た。浅倉珠江はこの四月の移動で圭介の第一営業部へ移ってきた。婚期は二度の社内失恋で逃してしまったが、容姿は端麗であり、しかも性格が明るい。圭介もこの歳で残念ながら縁遠く一人身なのだが、何故かこうした好意に嬉しくなった。

「次長、置いておきます」

 簡略化されたひと言を残し、珠江が去ろうとする。「あっ、ありがとね…」と、俄か仕立ての礼を云う。正直なところ、圭介には予想外なのだ。部長付であり、決して次長付の秘書ではない。というか、次長付の秘書はいなかった。

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