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第二十二回

 

「そうなのかい。じゃあ会社様のために頑張らなくちゃね…」と、昌は“様”と勤め先を崇め奉って励ました。「んっ…」と、圭介は素直に返し、食べ終えた皿やコップを洗い場へと運び、蛇口を捻る。「そんなことは、しなくていいから…」と昌に制されるが、圭介は、ともかく洗ってしまおうと思い、洗剤を適当にスポンジに滲み込ませて湯と水で洗い、「今日は少し遅くなるかも知れないから、夕飯は先に済ませて…」と動きながら云う。そして、椅子に掛けておいた背広の上衣を着て玄関へ急ぐ。そんなに急ぐ必要もないのだが、この時は早く母から逃れたいと思った。ただ、心がそう命じていた。車庫の車を始動したとき、エンジン音とともにそれが単に母を欺き続ける欺瞞(ぎまん)の後ろめたさであることを圭介は感じていた。少し眼が潤み、辛かった。着物姿の以前の母は(りん)としていた。しかし今、圭介を送り出した姿には(わず)(やつ)れが宿っている。そして、それを指摘したのは、叔父の耕二である。耕二は母の四つ違いの弟で、外交官として海外での生活が長く、めったに圭介達と顔を合わさない。だが、圭介の血筋では一番の出世頭(がしら)で、昌も弟のことを折りにつけ自慢していた。その叔父が、珍しく訪れたのである。

 厳寒の冬も次第に遠退く気配がそよ吹く風に感じられる。冷気を伴わない東風(こち)が冷風に混ざるようになった。そして盆梅の便りが聞かれ始めた二月中旬、叔父は急遽(きゅうきょ)して圭介の家を来訪した。

 昌の実家の姓は篠宮である。その篠宮の家を継いだ耕二は四男二女に恵まれ、しかも超エリートの道をひた走っていた。

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