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第二十回

「先生、どうも有難うございました」と感謝を込めた声を返し、昌は一礼する。その緩慢な母の姿を見て、圭介も追従して三島に軽く頭を下げ、黙礼した。

 車は渋滞を避けるかのように主幹道路から迂回してひた走る。退院の際に渡された薬袋が入った手提げ鞄を大事そうに両手で抱える母・・その昌の姿をチラッと横目で見遣って、圭介は何故か寂れる自分に気づく。気丈さを装って、「母さん、薬と隔週一回の診察は、きちっとな…」と放つ。

 「んっ、分かってるよ」 と、昌はそう呟くように返す。以前の昌に比べると随分、覇気がなくなっているように圭介には思えた。運転する智代が、「お母さんにそんなこと云ってないで、あんたの方はどうなのよ? 会社は大丈夫なの?」と、逆襲する。圭介は思わず沈黙した。

 ふたたび平凡な親子の生活が戻った。無理は出来ないまでも、昌は精一杯、家事を(こな)した。勿論、圭介もその点は心得ていて、以前とは異なり、自分のことは自分がやる。そして、隔週一回の診察日には、母とともに幾分早く家を出て母を病院へと送る。

「もういいよ、自分で行くから。・・・お前、会社が大変なんだろ?」

 以前の覇気はまだ戻ってはいないが、少し元気を取り戻したようで声に艶がある。

「そんなこたぁないよ。母さんを送るくらい別に大したことじゃない」と圭介は一応、否定するが、実のところは昌を余り疲れさせたくはないのだ。だが、余り大事にし過ぎて怪しまれてもいけない。心境は微妙だった。

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