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第十六回

「全快された方がいらっしゃるのも事実ですし…、しかし、一応のお覚悟は必要かと思われます。告知は希望されないということでしたので、病院側も極力伏せますが、末期となれば、自ずと悟られるでしょうから、そこら辺りのところはお二人にお任せを致します。結論から云えば、初期ではないが末期でもないということで、さきほど申しました通り、私どもも最善を尽くしますので…、希望は捨てられぬよう御願い致します」

 長々と続いた説明が(ようや)く終わった。(しばら)く静寂の時が流れ、「そうですか…」と智代が呟いた。姉さんにしては珍しいな…と圭介が思える智代の神妙な声である。圭介はただ黙って椅子に座ったまま上半身を軽く折って一礼した。

「それから…、申し忘れましたが、この手術同意書に記入して戴きまして、ナースセンターへお出し下さい」と、三島が加えた。

 暑気は既に失せ、陽射しの勢いにも(かげ)りが見え始めている。智代が今日は付き添うと云うので、圭介は自宅へ戻ることにした。さすがに今日は、いや最近はパチンコをやろうという気さえ起こらない。上空の茜空も、うろこ状の鰯雲が現れて澄み渡り、秋の訪れを微かに知らせるようになった。視線を下へと落とすと、アスファルトの汗ばむ熱気は去り、圭介は車が慌しく流れる光景を見ながら、歩道を緩慢に歩んでいた。けだるい虚しさだけが移動する軌跡の所々で襲ってくる。 ━ なるようにしか、ならん… ━ と、自らに云い聞かせ、地下通路への階段を降りていった。やがて、来た地下鉄の車輌に乗り、暫く揺れる。

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