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第十回

 会話の途中にウエートレスがやってきて、智代はコーヒーを注文したのだが、それも会話に合わせるかのように何の違和感もなく、さも当然のように素早く注文した訳で、その注文して運ばれたコーヒーを、これもまたいつの間にか、物怖じしない仕草で素早く飲む。姉に店を出ようと云われ、圭介が慌てて残ったコーヒーを口へ運んだ時には、既に姉は飲み干して空としている。

「何してるの? 早く行きましょ」

 (けしか)けられて席を立とうとする圭介の前に、それもいつの間にか一万円札が一枚置かれている。━ 随分、羽振りがいいんだなあ… ━ と(ねた)みつつ圭介はレシートと札を慌しく掴みレジへと向かう。智代の姿は既に店内にはない。

 圭介は、何ごとかに物怖じしている後ろ向きなネガティブ思考に自己嫌悪していた。そして、いつの間にか医者の言葉を否定して、というより、先生だって看立てが狂うってこともあるに違いない…と、昌の病状を善意に解釈し、しかも自分にそう云い聞かせて得心しようとしているのだ。今の心境には、そういった気弱さがあった。それは肉親の情の発露であり、誰しもがそう思うことなのだろう。無論、骨肉の争いをしている親子もいるであろう。だが、世間一般の親子であるならば、親は子を、子は親を、差し迫った状況の下で安泰を願うに違いないのだ。圭介は、三島の事務的な診断結果を聞いたあの時の場面を想い返すと、無性に寂れるのだった。だから否定し忘れよう、母は必ず快方へ向かう…と、思おうとする。そして、長年行ったこともない公立図書館へ足を運び、専門書で調べたりする。

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