15
日曜日
……きってば…………さき……なさい……
ピピピピピピピピピピ!
うるさいなぁ! あと少しだけ寝かせてよ。
「起きなさい、美咲! 美咲ってば」
お姉ちゃんのそんな怒鳴り声と目覚し時計のけたましい電子音と共に目を開けると、突然目の前に機嫌の悪そうなお姉ちゃんの顔があった。
「起きた? 起きたならさっさと目覚し止めてちょうだい。うるさくて眠れないから」
お姉ちゃんはそう言い、ベッドのハシゴをギシギシいわせて上のベッドに上がった。
目覚しを手にとって見ると、設定した起床時間より十五分経過していた。それは寝起き直後の寝ぼけた頭でも分かるくらいに少し慌てなければならない時間だった。という訳でベッドから起き上がるとパジャマを脱ぎ捨て、いつものように制服に着替え……ないで、適当な外着を選んでそれを着ると、スポーツバッグだけを持って部屋を出る。
「あぶなかったよ。つい、いつもの感覚で制服着ちゃうところだったよ。日曜日なのに制服は着たくはないからね。あーあ、もう少し時間があれば洋服選ぶ時間があったのになぁ」
「じゃあ明日からは目覚しが鳴ったらすぐに起きることね。お母さんとしては慌てて出て行く美咲の姿を見ないですむし、その方が安心できるのだけど」
母親は笑顔で苦言を呈するとコーヒーをすする。
「うーん、それは……善処します」
私は母親と目を合わせないようにして、納豆ご飯を口にかき込む。
目覚し時計通りに起床できるなら苦労はしない。他の人がどうだか知らないけれど、私には目覚し時計が一度目に鳴ったときに起きれた記憶がない。気がつけば目覚し時計は鳴くことを止めているし、もし鳴っていたとしても今日のように誰かに起こされた時くらいだし、私と目覚し時計の相性は大分良くないみたいだ。
「ただ単に起きる気がないだけでしょ、美咲は。普段から誰かに起こしてもらえると思っているから、目覚しが鳴っても起きようとしないで誰かが起こしに来るのを待っているくせに」
「そんなことないもん。私なりに頑張って起きようとはしてるよ」
まあ、私が口で何とでも言おうと、毎日のように母親に起こしてもらっている状態だから、母親の言っている方が正しいのは誰の眼からも明らかなのだけど。
だって時間ギリギリまで寝てたいじゃないですか! 睡眠は至福の時です。その時間が一分、一秒でも長くあってほしいと思うのは当然だと思いませんか? でも起きる気がないかといえばそうでもなくで、寝る前にはちゃんと起きないととは思っているのだけど、でも朝にはその思いとは真逆の思考になっている。つまり起きたくない気持ちになる。
「ごちそうさまでした」
朝ご飯を食べ終え、私はスポーツバッグを襷のように掛ける。
でもまあ、いつも遅刻ギリギリだからといって目覚し時計で起きれるようになろうという気は、今のところ思ってはいない。それは母親の言うとおり、普段お母さんに起こしてもらえるから、私はそれに甘えているのだろう――まっ、いっか。考えたからといって早く起きれるようになるわけでもないし、考えるだけ無駄だな。
「お母さん、いつも起こしてくれて、ありがと」
私が靴を履きながらそう言い、振り返ると母親は少し驚いたような表情をしていた。
「どうしたの、急に?」
「一応普段のお礼。それと、これからもよろしくお願いします」
私は軽く頭を下げ、すぐに顔を上げると半分呆れられた表情を浮かべていた。
「あきれたぁ。少しはお姉ちゃんを見習いなさい」
でも、そう言うと母親はにっこりと微笑んだ。
「まったく。これでも高校生なのかしら。――でもまあ、お母さんも高校生までお祖母ちゃんに起こしてもらっていたから、美咲のことは強くは言えないのだけどね」
母親は私の頭に手をやる。
「だけど、いつまでも起こしてもらえるとは思わないことだね。お母さんは別に学校なんかに遅刻しようと別に構わないと思っているのだから。遅刻して困るのは美咲、あなた自身なのだしね。まあ、当分の間は起こしてあげるけど、段々と遅刻しそうでも放っておくからそのつもりでいなさい」
「えー、なんかずるくない? お母さんはお祖母ちゃんに起こしてもらっていたのに私は起こしてくれないなんて」
「残念、お母さんはお祖母ちゃんとは違って厳しくはないのだ」
そういえば、お祖母ちゃんは何しろ生活態度には厳しい方で、お祖母ちゃんの娘であり私の母親は、寝坊はもちろん学校等の遅刻とかは絶対にさせなかったそうだ。いまの私を見られたなら絶対に強制生活改善コース確定に違いない。そんな厳しいお祖母ちゃんの娘である母親なだけに厳しいところはあるのだけど、ただ勉学については放任してるみたいで、生活態度の注意はされても、どんなに悪くても成績のついての注意をされたことはない。それでも宿題で解らないところがあれば説き方を教えてくるから、一概に放任主義とはいえないかもしれない。
「ねえ――」
どうして学校に遅刻してもいいと言いながら、自分で起きなさいと言うのだろうと思ったけれど、それを訊いていたら電車の時間に間に合わなくなりそうだったので口には出さない。
「なに?」
母親は私の頭から手を退ける。
「ううん、何でもない。もう行くね」
「今日は午後から雨みたいだから、ちゃんと傘持っていきないよ」
「うん、分かってるよ。それじゃあ、いってきます」
私は傘立てから水色の傘を手に取り、逆の手をドアノブに掛ける。
「いってらっしゃい、気をつけてね」
そんな普段どおりの母親の声に送られて私の一日は始まる。




