8話
無理やり分けて投稿しますので、内容のぶつ切りさ加減はご容赦ください。
「おはよ~。調子どうよ?」
「………はよ」
「これまたまた、最悪だね~」
苦笑いをして、肩を軽く叩いて、その手を睨んで、肩を回し退かすよう促して。
「朝のお目覚めが悪いと、この一日も退屈になっちゃうよ~」
何の根拠も考えられない茶化す言葉をもらう。
と、そこで気が付いたように何かを考え込む緋斗。
「…なんか、同じような会話っつーか言動、覚えあるんだけど…?」
「そう? なら、そうかもね」
「…………」
嫌そうに兎伊を見据えるが、相手はただ笑っているばかりで何の反応もない。
結局緋斗の方が折れる事になった。
「昨日、徹夜した」
「ああ、やっぱり。それで何時にも増してこんななんだ。大変だったね~」
「何度も言うが、そう思うんだったら、代われ」
「いや」
にこやかな笑顔で即答して、兎伊は自分の席へと戻っていく。
椅子に落ち着いたところで、今や自分を睨んでいる緋斗に向かって手招きする。
はぁ、とため息を吐いて、招かれた方、兎伊の後ろになっている自分の席に座る。
「何?」
「何って事はないでしょう? 見せて?」
そう言って右手で椅子の背を抱え、左手を緋斗に差し出す。
にこやかな笑顔に『さっさと出しな』という空気を纏わせて。
「ヤクザかよ」
呆れたように言いながら、鞄を漁って目的の物を探す。
「酷いな、こんな優しい笑みを湛えたヤクザなんていないって」
『それじゃ、兎伊はヤクザよりも質が悪いんだな』
そんなことを考えつつ、漸く見つけた大きさの違う二枚の紙を兎伊の手に渡す。
「ありがと」
軽くお礼を言って手元の紙、緋斗の徹夜の原因に目を通した。
そのうちの小さい方の一枚だけを二回三回と繰り返し読み、なるほど、と頷いた。
「いいじゃん。あの二人の思いでしょ、これ」
「そうだと思う」
「思うって、自分の感情なのに分からないの?」
「だから俺じゃないって」
「ごめんごめん。そうだったっけ」
会話を交わしながらも、兎伊の視線は紙から逸れることはない。
今度はもう一方の、畳まれていた大きい方の紙をもう一度、じっくりと、読み返す。
微かに目を細めて、愛しい者を見るような瞳で、兎伊はふっ、と微笑んだ。
「気に入った?」
大分目を覚ましいつもに戻ってきた緋斗が問いかけると、兎伊は視線を紙からはずした。
窓際の列に並んでいる二人の席は、少し首を巡らせただけで校庭を見渡すことが出来る。
満開を迎え、後は散りゆくだけの桜には、すでに若葉の緑が見え隠れしていた。
兎伊の見つめる先に気付いた緋斗も、広い校庭の一角に佇む木々を眺める。
そのままの形で二枚を翳す様に手に持ち緋斗に話しかける。
「…これ、徹夜して書いたって言ったよね?」
「え、ああ。正確に言えば、徹夜してかなりの量を書いた中で、一番良いのだけ残した。言わなかったか、俺。一人の想いにつき一つずつしか作らないって」
「うん、聞いた。ん~……、よし! 決めた」
「何を?」
突然緋斗に向き直って、兎伊は簡単な事のように言った。
「俺も徹夜して作るよ。せっかく緋斗がこんなに頑張って書いた物だし、俺も頑張らないと悪いかと思って」
「こんなにって、書いてるところ見てないくせに言えるのか?」
「あははは。ま、気にしない。気にしない」
ひらひらと、兎伊曰くこんなに頑張った緋斗の作品を泳がせながら、前向きに座り直す。
「これ、一日借りるよ」
了承を得るまでもなく、兎伊は机からファイルを出して紙を挟み込んでしまった。
「良いって言ってない」
「駄目とも言ってないし」
そう言って返す兎伊に諦めの、本日二度目のため息を吐いて、首をかくんと後ろに反らせた。
「天井になんか面白い模様でもある?」
「別に~、何も~」
暫く、二人の間に沈黙が流れた。
開け放した窓から、桜の香りが風に流れ込む。
「久しぶりで」
終わらせ、始めたのは緋斗。
「うん」
頷いて返す。
「くだらないと思って」
また一言。
「そう」
是も非も言わず。
「分かれなくて」
一言。
「俺達、まだ子供だし?」
首を傾ける。
「けど」
短く一言。
「けど?」
聞き返す。
「すごく…可哀相だと思った」
悲しみを感じた。
「うん」
そして一言。
「で、……」
また沈黙。
桜の香りは、気のせいかの如く、仄かに薫る。
「通し見た想いが薄れる前に、歌に残しておこっか?」
先ほどまでと同じ姿勢になって、兎伊は緋斗の言葉を継いだ。
「……頼んだから。いい音、つけてくれよな? 兎伊」
今日で初めて、緋斗は笑顔を見せた。
「了解、詩月」
「それで呼ぶな、音葉」
体を起こして兎伊と顔を突き合わせると、二人でくすり、と笑い合った。
感想、ツッコミ、歓迎します。
腐へのコメント・評価、削除します(荒らしと判断した場合)。