7話
無理やり分けて投稿しますので、内容のぶつ切りさ加減はご容赦ください。
気が付くと、緋斗も兎伊も遷ヶ碕公園の桜の下にいた。
あの潮風も、あの波音も、あの叫びも。ここには無かった。
何も言葉を交わす事無く、二人はうっすらと闇に映える桜を見上げていた。
「っつ……!」
突然、何かしらの抑えきれない想いが溢れ出たように、緋斗が涙を見せた。
どうして流れるのか、と言いたいかのように、戸惑いを瞳に浮かべながらも袖口で荒々しくぬぐうが、止まる気配は見えない。
終いには、とうとう腕で両目を覆って本格的に泣き出してしまった。
「大丈夫か? 緋斗」
「俺じゃない」
流石に心配した兎伊が気遣いの声を掛けると、はっきりとした答えが帰ってきたので少し安心した。
「分かってるって。またか? 大変だなお前も」
「っるさい。人に、こんな役回り押しつけといて今更」
「待った待った、それこそ俺じゃないって。な? こんな奴に、そんなとんでもないこと出来る訳ないって」
「やる! …お前なら絶対にやる」
「…あのねぇ、出来るとやるは大違いだよ」
困ったような、何処か呆れたような表情で兎伊は言うが、気にくわない緋斗は泣きながらに怒っている。
「ふぅ」
そんな緋斗を見て軽くため息を吐き、兎伊は弾ませるようにして緋斗の頭を撫でた。一定のリズムでそのまま撫でつつ、話しかける。
「とりあえず、さ。それ止まんないと帰れないし。それに、無理して抑えるのも後が辛いから。思いっきり泣いて、発散させて、終わりましょう?」
されるがままに大人しく聞いていた緋斗は、しばらく兎伊の言ったことを考えていたが、そのうちこくり、と頷いて返した。
そのことに満足したように兎伊は笑った。
相も変わらず、緋斗は泣いている。
桜の輝きは、微かに続く。
兎伊はそれからずっと、緋斗の、いや、彼のではなく彼女たちの涙が収まるまで、頭から手を離す事はしなかった。
きっと、この日から先、この桜が輝くという不思議は訪れる事はないだろう。
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