3話
無理やり分けて投稿しますので、内容のぶつ切りさ加減はご容赦ください。
「ここだよ」
双葉の声で到着を示されたそこは、件の噂の現場、遷ヶ碕公園。変わった名前だとよく話されるこの公園は、子供達にも大人達にも人気のスポットとなっている。
夏には、裏手を流れる小川の螢。
秋には、溜池に揺らぐ紅葉の葉。
冬には、深々と積もる雪の野原。
そして春には。
世に稀を見る、最高の桜吹雪。
この公園にはシンボルツリーとして、樹齢百何十年とも噂される桜の木が植樹されている。それは幹も枝振りも実に立派な物で、満開の桜の下にいて仰ぎ見ると、あたかも空が薄桃色をしているかのように見えるのだ。
丁度今が満開の頃。清かな風にも盛大に花弁は踊る。
四人がやって来た今も、大勢の姿が見受けられた。
ベンチに寄り添い合うようにして座るお年寄りの夫婦。木の下にシートを敷いてピクニックに興じている若夫婦と、おそらくまだ幼稚園にも通っていないだろうその子供。そして、緋斗達と同じく、学校帰りの子供達。
この二種類の賑わいを見ているだけでも十分に楽しくなれる。
暑過ぎる事の無い心地よい春の陽射。眩しくもないのに瞳を細めてしまいそうだ。
そんな面持ちで、桜ではなく公園見物をしていた緋斗と兎伊の背中に、不意に強い衝撃が与えられた。
「うわっ、と」
「っつ…!!」
「あぶなっ、緋斗!」
口から出た声とは裏腹、驚く様子もなく踏み止まった兎伊と違って、緋斗は危うく前に転びそうになった所を双葉に助けられた。
「……はぁ。ありがとう、双葉。悪かったな。重いだろ」
「いや全然。それより、悪いのはこっち。だろう? 双夜」
緋斗を立たせて、双葉は兎伊の後ろに顔を向ける。
「えへへ。ちょっと強く押し過ぎたな?」
「ちょっと、とかじゃなくて危ないだろう。怪我をしたらどうする」
「だってさ~、二人とも目的も忘れて魅入ってたからつい…」
「ついじゃない」
眉を微かに寄せて双夜を注意する双葉だが、緋斗が途中で割って入った。
「いいよいいよ、結果的にそういう事にはならなかった訳だし」
「でも、緋斗」
「それに、兎伊は何でもないって風だったろ? 俺の注意が足りなかっただけだって」
「……」
それでもまだ双夜を睨んでいる双葉。
この場の空気が悪くなり始めたのを感じ取った兎伊が、上手くフォローを入れた。
「緋斗って、不意打ちに弱いんだよね~。大丈夫? 密かにモテモテの君の『First Kiss』はちゃんと守られてる? どっかの彼女に奪われちゃってやいませんか?」
犠牲者その一、高砂緋斗。
「んなっ、ばっ、馬鹿言うなよ!! 誰がそんな…、まだに決まってるだろーが!!!」
「あー、緋斗。正直に答えなくてもいいんじゃないかな…」
「つーか、声でけーし…」
「とか言いつつ、実は見ました。というより聞いちゃいました。双夜君を想う彼女がいるそうです」
「ええええええっっ!!!!!」
犠牲者その二、遠野双夜。
「うそー、驚き。これは思わぬ落とし穴だったな、双夜」
「ふふふ双葉! のんきに言ってる場合じゃないよ!? どうしよう?!?」
「どうしようも何も、まだ一言も告白すらされてもいないうちから、騒いだって意味無いだろ」
一時の衝撃から復活した緋斗が冷静な意見を述べる。それによって、少し落ち着いた様子の双夜。
「あ、そっか。そうだよな。そうそう。誰かも分かって無いんだしね…。落ち着こう、落ち着こう」
「ここまで来たら、双葉の好みを聞かなくちゃね」
「僕なの!? ていうかここまでって?!」
犠牲者その三は遠野双夜になるのか…。
「そんな、僕の話なんかよりも、きっと兎伊の話の方が面白いと思うな」
何と、にこやかに返された。
思わぬ反撃を食らって、犠牲者その三は渦谷兎伊になるのか…。
「僕の好みは、ズバリ緋斗っきゃないでしょ~」
「俺かよっ!?!?!!」
犠牲者その三、またも高砂緋斗。
「あの面白さは類を見ないからね。純粋というか馬鹿正直というか、頭はいいくせにどこか確実に他人とずれてて、流しておけばいいものを真面目ーにこっちに返してくれちゃうし、もう悪戯好きの僕にとってこれ以上に最高の人間なんていないよ」
「うわー、緋斗が気の毒に思えてきた…」
「気の毒以外の何者でもないね」
「俺って、俺って一体…」
高砂緋斗、本日二回目の落ち込みだった。
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