『狸とプレスマンの筒』
風呂屋の釜たきのおじいさんがいました。力仕事をする男たちが多いところでしたので、夕方から夜中まで、ずっと釜をたき通しで、最後に自分が汗を流してから帰るのでした。
ある日、このおじいさんが、明神様のお池のそばを通って家に帰ろうとしていたところ、お池の中から、風呂で体を洗うような音が聞こえました。おじいさんがそっと池に近づいて様子を見てみますと、一匹の狸が、水浴びをしています。確認します。鯉が、ではありません。狸が、です。鯉が水浴びをしていても物語にはなりません。戻ります。狸は、池の水草を、頭の上に載せようとしているようでした。
おじいさんは、狸が葉っぱを頭に載せるときは、人を化かすときだと思い出して、これは化かされてはいけないと思って、おい、狸よ、いい女に化けて見せてくれ、と声をかけました。
狸は、こちらを向いて、うなずくと、一緒についてこい、という仕草をして、とんぼを切ると、いい女に化けました。狸の後ろをついていくと、一軒の家の戸をたたき、中に入っていきました。おじいさんは、戸の節穴から中をのぞきますと、狸が、手土産のぼた餅を渡して、その家の夫婦に食べさせようとしているところでした。おじいさんは、これはおもしろいものが見られると思って、わくわくしていますと、後ろから肩をたたかれたので、今いいところだから、と言おうと思って振り返ると、どうしてお前さんは、プレスマンの筒をのぞいているのだい、と言われたので、前に振り直ると、節穴だと思ったのはプレスマンの筒で、知らないうちに、望遠鏡のようにのぞいていたのでした。
教訓:いい女、と、悪い女、は、意味がほぼ同じである。




