08 ユート、途方に暮れる
「アレン大佐が言ったとおり、ガンシップはわたくしが傭兵団ワイルドギースに貸し与えているものです。だからお売りできません。しかし1カ月あれば同程度の軍用ヘリを用立てる事ができると思います。それが入荷次第、今あるガンシップはあなたにお売りしましょう」
盗人街から軍用ヘリを排除するために買うのだから、同じヘリが代わりに来てしまっては目的が達成できない。
というか今日中に買わなければそもそも意味がない。
ユートはわざとらしく首をひねってみせた。
「こまったなあ、今日中に購入して帰りたいんだ」
「代わりのヘリはできるだけ早く手配します。実際にはひと月もかからないでしょう」
どうしよう、一気に窮地に立たされた。
ガンシップは金貨で容易に手に入るとディープは言っていたが当てが外れた。とはいえ彼を攻めるのはお門違いだ。彼の任務は情報の収集であり、具体的に脅威を排除するのはユートの任務なのだから。
どうすればいいのだろう。
いますぐディープに知恵を借りたいところだけれど、この場で小型通信機なんて出せば怪しまれるに決まっている。策を練りなおすべく頭をフル回転させ、ここはひとつ強気に出てみようと考えた。
「今日中に手に入らないのなら金貨1万枚は出せない」
「でしたら残念ですが」
言いながら、マジョリカは残念な風でもなく話をうち切る笑みをみせた。
「お役に立つことは適わないと思います」
白い手が扉を示しアレン大佐が扉を開ける。こうなるともうユートは席を立たざるを得ない。
なにを間違ったのか?
途中まで交渉は上手く運んでいたのに、マジョリカがアレン大佐に目配せした途端、期限の延期を切り出してきた。
ユートはこいつが元凶かと大佐を睨みつけたが、彼も何がなんだか分からないとばかりに肩をすくめた。
「そもそもあなたがヘリを買って盗人街の周囲を警戒する必要はないだろう。盗人街の平和を守ることはあなたの仕事なのか?」
「まさか」と言ってマジョリカは首をふった。
「わたくしたちが動かなくても学者や殺し屋たちが外敵を排除してくれるでしょう。思うに彼らもわたくしと同じ覚醒者。敵にまわすと厄介ですから」
「だったら」と詰めよるユートから目を逸らして、マジョリカはメイドを見た。
「お客さまがお帰りです」
締めくくりのひと言のあと、商談終了とばかりにマジョリカは机上の書類に目を落とす。これ以上食い下がっても進展がないことは明らかだった。
ユートはがっくり肩を落としながら部屋をあとにした。
メイドに先導されて元来た通路を戻ってゆく。
階段をおりて店の外にでた。
すこし歩いて振りかえりマジョリカの店を見あげた。
空の脅威を排除することはできなかった。
こうなったら盗みだすか破壊するしか方法がないが、どうやればいいのだろう。相手は覚醒者だし手飼い傭兵もいる。
そんなことを思っていたときだった。
背後から肩をぶつけられ、ユートは前のめりにたたらを踏んだ。
痛って!とすぐに顔をあげると野戦服のうえからも女性とわかる後ろ姿があった。
彼女はユートに謝罪する気はまるでない様子でマジョリカの店まですたすた歩き「やっと見つけた!」と苛立ち気味にさけんだ。
短髪の黒髪をかるく撫でつけてから喧しく扉をたたく。
メイドがのぞき窓をあけた。
「魔女に売りたい物がある。すっごい価値があるから買って損はしないっ!」
あんな奴も相手にするのか、やれやれ魔女も大変だ。
いや俺のほうが大変か。とりあえずディープに結果を報告しなければ。
日も高くなってきて、いよいよ賑わいを増す人混みのなかへ、ユートは自分の身体をねじ込んでいった。
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