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06 罪と罰、そしてお礼

 一行(いっこう)は乱立する建物のあいだをずんずん進んだ。


 途中、何人かの人とすれ違ったが、みなこちらを一瞥(いちべつ)しただけで気にとめる様子もなく通りすぎてゆく。


 どうやらクラボットの存在も、それらが人を捕縛する景色も見慣れているようだった。


「あいつらにはほとほと手を焼いていたんだ」


 となりを歩くクラボットが(あご)をあげて捕縛された男たちを示した。


「クラボットを解体して鉄や鉛、電気回路なんかをジャンク屋に売ってしまう。盗人街のインフラはすべてクラボットが(にな)っているのに、まったく、あいつらときたら何も創造せず、こわして消費するばかりで始末におえない」


 ほそい通路をぬけると視界が一気に開けて大きな広場があらわれた。


 たちこめる人いきれと湧きあがる喧噪(けんそう)が再びハネツグの周囲を満たしてゆく。

 クラボットたちは群衆のなかを(きり)のように突きすすんだ。


 見えてきたのは地面にぽっかり空いた巨大な穴だった。


 さしわたし100メートルはあろうかというその立坑(りっこう)は、かつて地上と地下階層とで物資や兵器を搬入出する地下格納庫だったのだろう。


 穴の内壁にそって事後的に増設された螺旋(らせん)階段があるところを見ると、昇降用の床は機能していないようだ。


 穴にちかづくにつれ男たちの抵抗が激しさを増し、連行しているクラボットもやや強引に彼らを押さえにかかった。


 そんなゴタゴタを尻目にハネツグを案内しているクラボットは立坑(りっこう)をおりてゆき、ハネツグもあとに従った。


「彼らをどうするつもりなの?」

「消費者ではなく生産者になってもらう」


 そうか労働させるってことか。


 盗人街には国家の統治がない。法の支配が存在しない。ゆえに誰のどんな行為も罪にはならないし、行為に対する罰もない。


 それは同時に攻撃をうけた側がいかなる報復をしようと(とが)められないことも意味している。


 この街は主観や感情が関与する危なっかしい秩序のうえに成り立っているんだ。しかし今回の例にかぎっていえば相応(そうおう)の始末のつけかたではないかとハネツグは思った。


 そう思った数秒後だった。ハネツグの視界の端に立坑(りっこう)を落下するなにかが映った。


 瞬時に視線を動かしたとき、わずかであるが見えたそれらは明らかに盗人4人の姿だった。


 彼らは叫ぶでもなく暴れるでもなく、まるで無機物のように落ちてゆき、あっという間に眼下の闇に吞まれていった。


「いっ!いま!」


 ハネツグはクラボットの背中に叫んだ。


「落ちた!泥棒たちが落ちてった!」


「落ちたのではない。殺して落としたのだ」


 理解できないとばかりに、ハネツグは階段を駆けおりてクラボットの背中に()めよった。


「働かせるんじゃないの?生産者って言ってたじゃないか!」


 クラボットは立ちどまり、頭だけ真後ろに回転させて彼を見た。


立坑(りっこう)の底には家畜用の豚がいて、彼らには豚の(えさ)になることで食料生産に一役買ってもらうのさ。わたしの言った生産者とはそういうことだ」


 ハネツグは愕然(がくぜん)とした。


「いつも、こんなことしているの?」

「盗人街っていうくらいだから、豚の(えさ)には事欠かない」


 彼らがあんなに(あせ)って逃げようとしていた理由がようやくわかった。いかなる行為も罪にならないと同様に、いかなる報復も罪にはならない。


 とはいえ生命まで奪うのはやりすぎではないか。


 自然、ハネツグの顔つきは険しくなった。口には出さないが抗議の意思がその瞳にはうかんでいた。反面、クラボットのレンズからは当然というか、なんの感情も読みとれない。


 そこでハネツグはようやく気づくのだ。


 ここは自分の慣れ親しんだ常識が通用しない場所なのだと。その気づきは怒りを沈静化させ、代わりに疑念を増大させた。


 クラボットを操っている人物と自分との間には共通する部分なんてないのかもしれない。


 のこのこついて行って大丈夫だろうか。


読んでいただいてありがとうございます。

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