42 邂逅
サンダンスは刀を捨て、恭順を示すよう両手を軽く上げながらハネツグから離れた。そのまま歩いてキャロラインと一定の距離を保ちつつすれ違った。
「あなた、誰?」
「その銃どこで手に入れたの?」
震える声で訊くがサンダンスは答えない。
顔を覆う頭巾の下から大きくなった娘を見て不意に感じ入ってしまい、湧いた涙を見られまいと目を逸らした。
娘の視線を背中に受けながらどんどん歩いてゆく。
まったく様にならない銃の構え方のままキャロラインは語りかける。
「私、父さんを捜しているの」
サンダンスは答えず歩きつづける。
「父さんみたいな有名な悪者になりたいから」
驚きのあまり足がとまった。
自分みたいになりたいだって!?
どんなに名を馳せようと、ゆらい悪人は非命が通り相場である。
こんな世界に足をつっこむなとキャロラインに釘を打っておかねばならない。
サンダンスは意を決してキャロラインとむき合った。
そのとき、新政府軍が放った照明弾が作動し周囲をまぶしく照らした。光の中で見えた景色にサンダンスは戦慄した。そしてホルスターから銃をぬいた。
キャロラインは腰が抜けるほど動転した。父親かもしれないと思っていた男が自分に銃を向けたのだ。
もう何が何やらわからず、ひたすらびっくりして、目だってぎゅっと閉じてしまい引き金を引いたのも無意識だった。
キャロラインは自分の銃から控えめな発砲音が聞こえるよりわずかに早く、眼前の男の銃から同様の発砲音を聞いた。
一瞬後、彼女の背後で重い物が落ちたような音がして、反射的に目を開けた。すると彼女と向き合っていた黒装束の男が腹部に手をあてて倒れていた。
次に背後を振り返ると、酷く身体を火傷した男が同じく腹部を押さえて蹲っていた。
男のかたわらには使い込まれたナイフが転がっている。
そこまで見て一挙にキャロラインは状況を理解した。黒装束の男は彼女を撃つために銃を構えたのではない。この男を撃つために、つまりキャロラインを守るために銃を抜いたのだ。
サンダンスは腹部に焼けるような痛み感じながら、照明弾で真っ白になっている空を見ていた。
あの瞬間、彼が目撃にしたのは、悲しいくらい屁っ放り腰で銃をかまえる娘と、彼女の頭上数メートルの空中を落下しながらナイフをふり上げ、いままさに彼女を刺し殺そうとする相棒ブッチの姿だった。
通りの喧噪で目覚めたブッチは2階の窓から外を眺め、相棒サンダンスに銃を向けているキャロラインに気づいた。
ブッチはサンダンスとキャロラインが親子だとは知らない。
だから彼は今までしてきたように、今回もサンダンスを助けようと、怪我と火傷まみれの身体に鞭打って窓から飛んだ。
サンダンスは瞬時に選択しなければならなかった。
このまま何もしなければ娘のキャロラインは相棒ブッチに刺し殺される。しかしキャロラインを助けようとすればブッチを撃たなければならない。
頭より先に身体が動き、気づけばブッチを撃っていた。ほぼ同時に、娘の撃った弾丸がサンダンスの腹部をつらぬいた。
サンダンスは遅まきながら自分とブッチ、ふたりを縛る呪いの存在を思い出していた。
かつて死神とよばれた頭目がふたりにかけた呪い。それは一方が他方を傷つけた場合、傷つけた方も運命的にまったく同じ傷を負うというものだ。そして呪いは今回も発動した。この世に2丁しかない銃がサンダンスとブッチ、ふたりの腹に穴をあけた。
キャロラインは震える身体でサンダンスを見ていた。ふと両手に構えた銃に目をおとして不気味な生き物でもにぎっていたみたいに慌てて捨てたあと、恐る恐るサンダンスに歩みよる。
「……ねえ」おっかなびっくり彼の顔をのぞき込んだ。
「頭巾、とってくれ」
ちいさくて早い呼吸の合間にサンダンスがつぶやいた。
キャロラインは彼のかたわらに膝をついて、言われたとおり頭巾を脱がせた。そして現れた男の顔が、家にある昔の写真で見た若いころの父親とゆっくり二重写しになり、さいごは違和感なく重なった。
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