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41 ブリキと激闘、サンダンス

 殺し屋サンダンスはズタボロになった相棒(あいぼう)ブッチを背負って、大通りから一本入っ宿屋の2階でようやく足をとめた。


 やっとまともなベッドを見つけたのだ。


 そこにブッチを寝かしてから急いでフロントに下りて、水やタオルや酒など必要なものをかき集めてふたたび2階へ上がった。


「おい、ブッチ、起きてるか?」


 焼けただれた(ほほ)をなんとか動かし、ブッチはああと力なく言った。真っ赤なつなぎ服はあちこちが黒く焼けこげ、火傷でふくれた皮膚にくっついている。


 キルボットに囲まれながらもなんとか(ぜんせん)戦していたけれど、スローターハウスに生じた巨大な爆発をなんとかすることはできなかった。


 爆風がサンダンスにせまったとき、ブッチが素早く彼の前に立って炎をひとりで浴びたのだ。


 結果サンダンスは身体をあちこち打った程度で済んだが、ブッチは人生二度目の大やけどを負ってしまった。


 ブッチのこういった行動はこれが初めてではない。理由はあきらかで、彼の家族はみな殺されてしまったが、サンダンスの家族は生きている。


 ふたりで酒を飲んでいるときにブッチは時おり言うのである。


「サンダンスが死んでしまったら家族が泣く。でも俺が死んだところで泣くやつはいない」


 そんなことを言って自嘲気味(じちょうぎみ)に笑うものだから、サンダンスは決まってこう返すのだ。わざとすかした顔をして「目の前にいるじゃねえか」と。


 その言葉を聞いてブッチはケロイドで(かた)くなった顔を少し(ゆが)める。たぶん半分恥ずかしがっていて、もう半分は喜んでくれているとサンダンスは思った。


 ベッドのそばに座りこんで壁にをあずけ、黒い頭巾(ずきん)を乱暴に脱いで大きく息をはいた。とにかく疲れていて、あと頭がだいぶ混乱していた。多くのことが一度に起こりすぎて整理できない。


 ほんの数時間前まではいつもと変わらない日々だった。

 ところがオズ博士の依頼を受けたときから物事が急転した。悪い方向に目まぐるしく転がって止めようにも止まらなかった。


 女神像を盗みに入ったらそこには自分の娘がいて、その時点でかなり動転していたけれど、ブッチの助けでなんとかオズ博士のもとまで女神像を届けた。


 すると今度は見わたすかぎり一面のキルボットに襲われた。

 あのとき死ななかったのはほとんど奇跡に近い。

 というかそこでもまたブッチが修羅(しゅら)のごとくキルボットを粉砕しながら助けにきてくれた。


 そして爆発のときもブッチは彼の(たて)となった。

 サンダンスは自分が情けなくて涙がでてきた。


「すまんブッチ。本当にすまん」

「……なに言ってやがる……俺が勝手にやってんだ」


 外で銃声が聞こえた。


 サンダンスはゆっくり立ちあがり、窓辺に身体をつけて通りの様子をうかがった。眼下の通りには家財道具をつんだ山がいくつかあり、それらの影に街でよく見るタイプの無頼漢(ぶらいかん)たちが身を隠していた。


 彼らは大通りからきたブリキにむかって罵声(ばせい)を浴びせては発砲をくり返している。ブリキは3人、うちふたりは大口径のライフルを撃ちながら男たちとの距離を少しずつちぢめている。


 最後のひとりはふたりの背後にいて自分の攻撃するタイミングを見極(みきわ)めるようにおとなしくしている。


 男たちは狂ったように銃を乱射するが、偶に当たる弾丸もカンッという金属音とともに跳ね返される。


 両者の距離が50mくらいまで接近したとき、2人の後ろに身を潜めていたブリキが前へおどり出てガトリング砲を掃射した。その破壊力は圧倒的で遮蔽物(しゃへいぶつ)の家財道具は一瞬で木くずになり、それらの後ろに隠れていた男たちも無数の肉片となって地面に散った。


 サンダンスはこのままブリキをやり過ごそうと考えていた。


 ブリキが通りを制圧したあとは軽装歩兵が家々や細かい路地を制圧する。彼らなら音もなく殺すことができるから、そのあとここを出て馬か軍用車でも手に入れ街を出よう。

 そう決め込んで再び床に座ろうとしたときだった。


 通りをキャロラインとハネツグが駆けてきたのだ。


 ふたりを無頼漢(ぶらいかん)の一味と勘違いしたブリキたちが一斉に発砲する。ハネツグは素早くキャロラインを小脇(こわき)に抱えて建物の入口にある石階段に飛んだ。あそこなら銃弾を避けることができる。しかしブリキたちの銃弾は階段を徐々に削ってゆく。


 迷っている暇はなかった。


 いますぐ助けに行かなくては。


 ブッチの携えている武器から刀を拝借して窓枠に足をかけたが、その足を一度下ろすと部屋に向き直って頭巾(ずきん)をかぶった。娘に自分が父であると知られるのは避けたかった。


 父親が暗殺者だなんて知らない方がいい。


 サンダンスは窓から身を乗り出し、屋根伝いに移動してから通りへ音もなく着地した。


 彼の前にはブリキの背中が3つ見える。

 ブリキを装着しているのは新政府軍でも()りぬきの連中だ。不意打(ふいう)ちでひとりは倒せるとしても、ふたり目は真っ向勝負、3人目を倒すのは望み薄だった。しかもサンダンスは(しん)まで疲労している。


 どこまでできるかな、と半ば他人事(たにんごと)のように思いながら、まずはガトリング砲を撃ちまくっているひとりに向かった。


 氷上を踏むように慎重に足を運びつつ刀を逆手に握って振り上げる。絶好の間合いに入った瞬間、ヘルメットと弾倉の入ったバックパックとの間に刀を力いっぱい突き刺した。


「ぐあっ!」という断末魔(だんまつま)の叫びをあげて、ブリキはガトリング砲を撃ちながら時計回りに振り返ったものだから、右どなりにいたブリキが至近距離で被弾し風船が割れるように弾けて粉々になった。


 撃ったほうのブリキもサンダンスと向かい合う前に地面にくずおれた。

 これはいい流れだと彼は思った。残りのブリキも片付けようと狙いを定めたとき、すでにブリキの銃口は彼に向いていた。


 サンダンスは(あせ)らない。これだけ近い距離なら銃よりも刀のほうが数段有利に働くと知っているから。


 彼は素早く左右に跳ねて、撃ち出される銃弾をぎりぎりの距離で回避しつつブリキの眼前まで迫った。


 いつものセオリーに従うならば、ここで高く飛びあがりブリキの背後に立って装甲の継ぎ目を突き刺せば終了となる。サンダンスは身体を屈めて跳躍のため足に力を入れた。

 しかし力が入らない。彼は自分が認識するよりずっと深刻な疲労を抱えていた。


 大事なこの瞬間に腰から力が抜けるように地面に肩膝(かたひざ)をついてしまった。視界がガクッと下がり、慌てて前に向き直ったとき、そこにブリキの姿はなかった。


 直後、地面を(えぐ)るような音がした。


 彼が素早く視線を送るとブリキが倒れていて、その上に被さるようにハネツグが抱きついている。


 重装機甲歩兵の装備は重量1000キロを超える。


 転倒させようとして闇雲(やみくも)に体当たりしてもびくともしないだろう。 


 しかし不可能というわけでもない。


 例えばブリキが攻撃態勢に入るときに生じる僅かな重心のズレを読みとって、充分な加速をつけた上で低い姿勢から突き上げるように体当たりすれば転倒させることは可能である。


 まだ駆け出しのコソ泥だった頃に初めてブリキと戦ったとき、サンダンスは即座にその理屈にたどり着いた。

 目の前にいる青年もまた自分と同じく、状況から的確な方法を導きだす(たち)なのだと思った。


 ただひとつ違うのは、若かりし頃のサンダンスはブリキを転倒させたあと間髪入れずとどめを刺したが、目の前の青年は脳震(のうしん)とうでも起こしたのか、ブリキの上でぐったりしたままである。


 重装機甲歩兵は白兵戦には不向きである。ゆえに度々不意を喰らって敵の接触を許すことがある。そのため装甲に接触した者には3000ボルトの電圧がかかる装置が内蔵されている。


 サンダンスはハネツグの(えり)をつかんで力任せに放り投げると、ブリキが動く隙を与えずヘルメットで唯一装甲のない複眼と集音振動板が隠れた細い隙間に刀を刺し込んだ。


 つかの間くぐもった悲鳴が聞こえ、ブリキは手足をだらりと放りだして絶命した。


 サンダンスは刀を抜いてハネツグに近づいた。ふらついて起きるのもままならない彼に手を貸そうとしたのだ。


「動かないで!」


 キャロラインの鋭い声が何を意味しているのか、サンダンスは一瞬わからなかった。

 彼が介抱(かいほう)に向かっているからハネツグにそのまま寝ていろという意味だとさえ思った。


 しかし彼女がサンダンスに銃を向けていることや、彼の握る刀が(したた)る血で禍々(まがまが)しく光っている状況から判断すると、サンダンスが危害を加える目的でハネツグに近づいているとキャロラインの目には映ったらしい。


読んでいただいてありがとうございます。

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