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40 その背中に憧れて

 アレン大佐たちがマジョリカの店のまえまで来ると、通りにいる新政府軍の軽装歩兵たちが店に乗り込もうとして、一足早く店に戻っていたオウ曹長の部隊と激しい銃撃戦をくり広げていた。


 店の屋上から状況を見ていたオウ曹長がアレン大佐たちに気づいて、部下に号令を出すと一斉に援護射撃を行った。


 (ひる)んだ敵が攻撃をとめた(すき)にアレン大佐たちは数人ひとかたまりとなって店の中に入ってゆく。


 ワイルドギースは街で抵抗している輩とは統率力や火力の面で数段上だから軽装歩兵ばかりではおいそれとは近づけない。


 しかし遅れてやってきたブリキが臨場した途端、状況は一変した。ブリキのガトリング砲がけたたましい音とともにレーザーのような光りを放射して、店に入ろうとしていた人々は原形をとどめないほど粉砕された。


 来ることは分かっていたが、あと数分待ってくれればとオウ曹長は顎に手をあててため息をはいた。

 彼は地面に並べた銃火器を吟味(ぎんみ)したあと、対戦車ロケットを手に取った。これでブリキを倒せるとは思えないが、やるだけやってみよう。


 擲弾(てきだん)を装填してさっそく構え、ブリキめがけて発射した。

 ブリキは擲弾(てきだん)が胸元に直撃した衝撃で背後に倒れ、斜め上に跳ね返った擲弾(てきだん)がレンガ造りの建物に当たって爆発した。粉塵(ふんじん)をまき散らしながら瓦礫(がれき)が大量に降ってきて、(たま)らず新政府軍は後退した。


 その隙にアレン大佐と残りの人々は店に向かって走り、なんとか事務所区画に到達することができた。


 廊下を進むアレン大佐にオウ曹長の部下たちが合流して状況を説明した。オウ曹長は大佐と同じく逃げ場を失った人たちを連れて店に入り、大佐の指示で用意しておいた運送車両に乗せた。


 あとは大佐とイソルダ曹長の部隊が戻ってくるのを待つだけだが、人造人間の稲妻で通信機器が破壊されてしまい、ふたりの状況がつかめず、隊員を偵察(ていさつ)に出そうとした矢先に新政府軍が現われたという。


 アレン大佐は部下や非戦闘員を車両に乗せるようイソルダ曹長に指示してから屋上に向かった。

梯子(はしご)を上って屋上に立つと、ちょうどオウ曹長が屋上にいた部下たちを集めて店に戻ろうとしているところだった。


「心配したぞ」


 オウ曹長は大佐の両肩にちから強く手を置いた。


「必要な物は全部車両に積んである。街を出るには東門がいい。南は硬いし、西は大通りを横切らなければならない。北は遠すぎで論外だ」


 イソルダ曹長も屋上に上がり、ふたりに駆け寄った。


「はやく車庫に行きましょう。搭乗はあらかた終えました」


 眼下の通りから敵のかけ声が聞こえ、徐々に店へと近づいて来るのが分かる。店内に戻ろうとしたとき、アレン大佐は複数の照明弾で明るく照らされた空の下、長い金髪をうしろになびかせて飛ぶマジョリカを見つけた。


 彼女も大佐に気づき、ライフルの銃身をこちらに向けて接近してくる。どういうわけか彼女は背後に鳥の大群をひき連れていた。

 何の魔法かと思っていると彼女が大佐にむかって手をのばした。


「手伝ってくだい!」


 追われていると分かり、アレン大佐も走ってマジョリカの手をにぎろうとした。

 そのとき耳もとで何かが飛来する音が聞こえたかと思うと、耳をつんざく爆音がひろがり大佐は反射的に身をかがめた。


 すぐに顔を上げて見えたのは、通りの枝道からこちらを(うかが)っているエレファントの砲塔だった。


 店前の通りに前脚をふみ出し100mmの砲身を不気味に動かしている。


 同時に大佐はイソルダ曹長の悲鳴を聞いた。


 素早く視線をはしらせると彼女の身体は爆風で宙を舞っていた。ほおっておいたらゆるい弧をえがく天井から転げおちるのは確実だった。


 イソルダ曹長は大佐を見ながら助けを求めるように手をのばした。大佐は身体すべてを使って跳躍し、彼女の手をつかんだ。


 直後、大佐の頭上をマジョリカの手が通りすぎた。


 マジョリカは高度を一気に下げた。そしてエレファントの股の間を潜ってから急上昇した。あとを追う鶏たちはエレファントの脚に次々と衝突した。


 それだけならビクともしないエレファントだが、急上昇した大群の一部がもっとも装甲の薄い低面に特攻してきたのは致命的だった。


 なんとか鶏から逃げようとするエレファントだったが、元から速度の出ない機体であるうえ、せまい道では充分な回避行動もとれない。


 連続して(くちばし)をつき立てる鶏たちはすぐ装甲を突き破って内部に侵入した。数秒後、起動部から火災が発生し、擲弾(てきだん)が誘爆して空気を震わす爆音とともにエレファントの頭部砲塔が真上に飛び、エレファントは四肢(しし)を崩しながら地面に倒れた。


 屋上から事務所区画に戻り、バンカー裏手にある車庫を目ざすアレン大佐たちだったが、すでに事務所に侵入していたブリキたちのガトリング砲にさらされ隊員たちが次々と倒れてゆく。


 きれいに配置されていた衝立(ついたて)は粉々になり、机も椅子も棚も無残にひしゃげ、あたりは硝煙(しょうえん)で充満している。


 霧のような景色のなかをブリキのシルエットがゆっくりと大佐たちの方へ近づいてくるのが見えた。


「相手をしても死ぬだけだ。こうなったら全力で車庫に逃げるしかない」


 運よく車庫までたどり着けたとしても、乗車して店から逃げだす前にブリキたちに追いつかれる可能性が高いが、そうするより他にない。


 みんな急いで走りだすなか、オウ曹長はアレン大佐のさけびも耳に入っていない様子でその場に立ちつくしていた。


「オウ、なにやってんだ!?」


 アレン大佐はオウ曹長の肩を殴るようにたたいて彼の正面にまわった。そして驚きのあまり一歩しりぞいた。


 どうした事かこの巨漢(きょかん)感極(かんきわ)まって落涙(らくるい)しているのである。


「やっと訪れた! どれほど待ったかこの瞬間をっ!」


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 オウ曹長が幼少期をすごした街は新政府軍によって破壊された。


 街の指導者だった彼の両親はひとりでも多くの住民を逃がすべく退路をすすむ群衆の最後尾にいた。

 ブリキたちが背後にせまり、もはやこれまでと誰もが思ったとき、ふたりは幼い曹長を親類に(たく)して身をひるがえし、ブリキ集団の正面に立った。


 ここで彼らを足どめして住民たちが逃げる時間を確保しようと考えたのだ。


 そのための技をふたりは備えていた。


 武器は自身の身体のみ。姿勢をただし両の拳を腰にあて、足を肩幅より大きめに開いて内股(うちまた)に力を込める。多彩な足技を駆使した一撃必殺の武術、テコンドーである。


 ふたりは同時に右足をすっと前にだして(かかと)をうかせた。右手を手刀に変えて軽くのばすと手のひらを上にむけ、手招(てまね)きするように指を何度かまげる。

 そして目前に達したブリキたちに優しく言った。


「お相手しましょう」


 街は完全に破壊されたが住民たちは脱出に成功した。犠牲者はたったのふたり。


 あれから長い月日が流れたが、親類の肩ごしに見た両親の背中をオウ曹長はひとときも忘れたことはなかった。

 あの背中には両親が彼に教えたかった最も重要なことが書いてあるように思えた。


 それはつまり、(おの)が生とは他者の生に(きょう)されるものであり、死もまた(しか)りであると。


「大佐、ここは俺が食いとめる」

「なに言ってる!銃が利かないんだぞ!」


「そんなもん要らねえ」


 オウ曹長は銃をぞんざいに放った。


 アレン大佐は意味がわからない。


 こうなったら強引にでも連れて行こうとオウ曹長の服を強くにぎった。彼はそんな大佐の手をやさしくにぎり返す。


 肩透(かたす)かしを食った格好の大佐が曹長を見あげると彼の目は驚くほど()んでいた。


「おまえ、本気なのか?」


 正気(しょうき)沙汰(さた)でないのはオウ曹長だって百も承知している。しかし、やらずにはいられない。


「さあ、行ってくれ。すべての車両が店を出るまではふん張ってみせる」


 静かだけれど強固な声でオウ曹長は言った。


「どうして死に急ぐ?」

「たんなる気まぐれさ」


 それが嘘であることはアレン大佐にも容易に理解できた。オウ曹長はまるでそうする事が運命であり、彼もまたそれを受け入れているような雰囲気を(まと)っていたのだ。

 もはや彼を翻意(ほんい)させることは不可能と判断して、大佐は彼に背をむけた。


「いいか、死ぬな」


 到底無理と思える命令を言い置いてアレン大佐は車庫に走った。


 そんな彼を目で追いながらオウ曹長はニッコリほほ笑み「生きろよ、若者」とちいさく呟いた。


 ブリキが3名、オウ曹長の前まで歩みでた。彼らは武器を持たないオウ曹長を投降者と判断したのか、銃口を下ろしている。


 曹長は堂々たる魁偉(かいい)(ほこ)るように背筋をのばし、右足をまえに出すと(かかと)をあげた。

 そして右手をブリキたちの方へのばした。


 彼の動きに戦意(せんい)を感じたブリキたちはふたたび銃口をあげるが、彼は動じることなく手のひらを上にむけ、指をクイクイと数回まげてから言った。


「お相手しましょう」


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