39 新政府軍が侵攻開始
ワイルドギースはマジョリカの店へ急いだ。
キルボットの攻撃がなくなったため背後を気にする必要はないが、生き残っている隊員は大半が負傷していて、歩けず担架に寝かされている者や銃を杖にしてのろのろ進む者もいるため素早く移動することはできない。
アレン大佐は先頭に立って順路を示しながら、隊列が間延びしないよう気を配った。
あらゆる物を一掃して無人となった大通りとは違い、店に向かう細い辻々には街から逃げようと家財一切を抱えて右往左往している人々があふれていた。
みんな大佐を発見するとすがるように駆け寄ってきた。
「どうした!はやく盗人街から逃げろ、新政府軍がやってくる!」
「どの門に行っても新政府の兵隊が張りついていて、街へ戻れって言うんだ。無視して近づいた奴は撃たれるか逮捕された」
すでに囲まれているということか。
「どんななりだ?」
大佐をとり巻く人々は声をそろえて「ブリキ!」と叫び、彼らを押しのけるようにひとりが大佐に詰めより「でっかい四つ足もいた!」。
ブリキとは強化外骨格で身体をつつんだ重装機甲歩兵を指し、四つ足とは全地形型機動兵器「エレファント」のことだろう。エレファントがいるとなると、敵は旅団規模の軍隊だ。
そうこうしている間に、上空に射出された無数の照明弾が10000mの高高度に達し、時限発火装置が作動して爆発的な光を下界に放射した。
盗人街の夜闇はあっという間に消え去り、真昼同然に明るくなった。
南門の方角から単発的な銃声が発生して、人々の中から悲鳴や泣き声がちらほら聞こえはじめた。
「みんな、魔女の店に行こう。あそこなら防御が硬いし移動車両も用意してある」
アレン大佐は部下たちに怪我人や年寄りに手を貸すよう指示して、自らも親とはぐれて泣く子供ふたりを両脇に抱えてふたたび移動をはじめた。
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盗人街の正門と称される南門の周囲には、第10重装機甲歩兵旅団の先発隊が即席の堡塁を構築していた。
さしたる反抗もなくそれらを完成させると、巨大なアーチを潜って本隊が大通りに足を踏み入れた。
大通りの真ん中を地響きあげて歩くのは全地形型歩行兵器エレファント。重装機甲歩兵旅団が侵攻の要とするこの兵器は、いわば移動する特火点である。
敵陣に錐のように深く攻めこむ火力と防御力を有しており、高さ30mの四つの脚は超硬合金の上から耐火タングステンが何重にも巻かれ、砲弾の直撃を避けるため円柱形になっている。
それらの脚が支える躯体は縦長で側面に銃眼、上部中央にあるキューポラには重機関銃を構えた軽装歩兵が常に上からの敵に目を光らせている。
躯体の前方上部には100mm砲を搭載した砲塔が設置されており、この砲塔は躯体からやや前にせり出していて、前方であれば俯角射撃で至近距離にいる地上の敵も砲撃することが可能となっている。
エレファントの移動に合わせながら大通りの両側面を一列になって行進するのは通称ブリキと言われる重装機甲歩兵である。
彼らは重装機甲歩兵旅団の中心的な存在であり、旧時代中期の甲冑にも似た重金属の強化外骨格は対人武器程度なら容易くはじき返す。
また、身体機能を向上させる伝導補助機能を搭載しており、通常なら重すぎて据え置きで使うガトリング砲さえも単独で携帯することができる。
エレファントの砲塔てっぺんに設置されたメガホンから牧歌的な音楽とともに若い女性のアナウンスが流れはじめた。
『本日只今より、この街は新政府の管理下に置かれます』
『武器を捨てて両手を上げ、建物から出てください』
『兵から指示があった場合は、素直に従ってください』
大通りをゆくブリキたちは脇道を発見すると3名1組になってその道に折れてゆく。
『あなたには戸籍が交付されます』
『あなたには権利能力が認められます』
アナウンスに従って家々から大人しく出てきた人々は、ブリキのあとからやってきた軽装歩兵に銃をつきつけられ、堡塁のある南門へと引っ立てられる。
『あなたには新政府に忠誠を誓う義務が生じます』
『その他、納税の義務、従軍の義務、勤労の義務、密告の義務、喜捨の義務など、新政府再教育プログラムに規定する様々な義務が生じます』
盗人街という通称から分かるとおり、この街は存在自体が違法である。
新政府に反発する無法者たちの牙城であり、あらゆる義務を放棄した欲望自然主義者たちの吹き溜まりである。
ゆえに自発的に投降する者など極わずかで、ほとんどが武器を手に家々の窓や通りの角から新政府軍を発見するなり問答無用で攻撃をはじめる。
第10重装機甲歩兵旅団もそれは充分承知しており、とりあえず人を発見したとき、それが明らかに投降者であると判断できる場合以外は容赦なく発砲する。
エレファントは大通りを北に進みつづける。ブリキと軽装歩兵は木の枝のように東西に展開して、徐々に戦火は盗人街全体に広がっていった。
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