38 三大家畜系武器
マジョリカは大通りを北にむかって全速で飛んだ。
途中、照明弾がさく裂してはげしい光りがふり注いだ。おかげで粉塵が視界をふさいでいる状況でも立坑を容易に探しあてることができた。
いままで厳重に警備されていたため入ることができなかったスローターハウスに彼女は迷わず入って行った。
対物ライフルの上に立ったまま高度をさげて闇の奥へ降りてゆく。
黒いライダースーツは立坑の闇と同化して外目からだと彼女の白い顔と下からふき上げる風で扇状にひろがる金髪だけが闇に浮かんでいるように見える。
やがて最下層に到達した。
床には水が溜まっているため対物ライフルから降りず、周囲に発光する蝶を数匹放って視界を確保してから周囲を捜索した。
前方にちいさな光りを発見した。光のもとへゆっくりライフルを進め、見えたのは水辺になかば沈んだ状態で顔を上げている人造人間と、そばに立つメイドの姿だった。
マジョリカは対物ライフルの照準をメイドに合わせてすぐ発砲した。途端にメイドの身体はふき飛んで闇に消えた。
そんなメイドを一瞬だけ目で追った人造人間がすぐ射手のマジョリカを見つけたとき、すでに彼女は人造人間の前にいてライフルから床に着地した。水しぶきが人造人間の顔にパシャリとあたる。
「ついさっきまでいっぱしの神さまを気取っていたのに、見るも哀れな姿になってしまいましたね。もう死んでおしまいなさいよ」
「ミラニウム弾の攻撃さえなかったら、きさまを殺すことができたのだ」
人造人間は恨みがましい目でマジョリカを見あげた。
「それは否定しません。たしかにあのときは危なかった」
「すべては新政府軍の仕業だろう。とはいえ、きさまが新政府と示し合わせていたとは考えにくい」
「当たり前です。たったいま新政府軍が街に侵攻をはじめました。やつらは街を占拠してわたくしの店にある財産も没収してしまうでしょう」
「だとしたら、どうしてこうなった? 危ういながらも均衡を保っていた盗人街の平穏があっという間に崩れ、それを奇貨として新政府軍が攻撃を開始した。そんなこと確率的に考えたって……」
マジョリカは苛立つように「おだまり」と言いはなった。
「駄弁はけっこう。今のわたくしにはそれ…」
彼女は人造人間の胸元の光りを見つめる。
「そこにあるエナジーコアを返してもらえば、わたくしは満足です」
マジョリカは腰に差したスピアを抜いて人造人間にふり下ろした。
悲鳴とともに彼の胸元がぱっくり開き、エナジーコアの青い光りがより強烈に周囲を照らした。
「きさま商人だろう!まっとうな商売をすると自らに呪いをかけたのだろう!いつ強盗になり下がったんだ!」
「強盗などではありません。奪われた物をとり返すのだから」
マジョリカはスピアを鞘に納め、手をのばして傷口を広げた。
「それを取るな! 自分にかけた呪いで死ぬことになるぞ!」
「わたくしは商人を止めることにしました。エナジーコアで国を興すのです」
マジョリカがエナジーコアを握ったとき、人造人間は一際おおきな声でさけんだ。
「そのエナジーコアは盗品だ!」
彼女の手がぴたりと止まった。
盗人街はそののとおり盗人の街ある。彼らがマジョリカの店にもち込む商品は大概がまっとうなルートを経たものではない。盗んだ物や強奪した物が多い。
もし商品が盗品であると知ったら買取りを拒否するべきだし、買い取ったあとに盗品であると知ったら、売り主に返還したうえで代金を返してもらうのが商人のあるべき姿である。
マジョリカの店で商品を売ろうとする者たちはその商品が盗品だなんて告げないし、店としても訊こうとしない。
それでいいのである。
盗品であると知らなければ所持している者が所有者であるとの推定に基づいて取引してもなんら問題ない。つまりマジョリカは、あえて訊かず、ゆえに知らずを通すことで商売をしてきたのだ。
しかしたった今、状況が変わった。マジョリカはエナジーコアが盗品であると告げられてしまった。
「嘘です! あなたは大嘘つき!」
「このエナジーコアは女神の形を模している。旧政府が格別の働きをした聖職者に献上した品だ。聖職者に物を所有する権利はないから所属する教会が所有者となる。教会の物は神の物だ。だから誰も売ることはできない。きさまの店にエナジーコアをもち込んだ娘は教会からこれを盗んだのだ」
「その口を閉じなさい!」
マジョリカはエナジーコアをつかんで思いきりひっ張った。
青い光りをはなつ女神像にはたくさんの血管がはり付いていて、それらは束となって引っぱり戻そうとする。
「きさまはまっとうな商売をすると金貨に誓ったはずだ。裏切ったら金貨に殺される」
「わたくしは店をたたみます!」
「商売やめても呪いがとけるわけじゃない!」
「自分の呪いに殺される?!金貨に殺される?!そんなものに殺されるわたくしではありません」
そう言ってる間も血管は次々と切れてゆく。
マジョリカは躊躇わずエナジーコアを引っ張りつづけ、それでも離そうとしない血管をスピアで切断した。途端に人造人間は力を失い床にたまった水にあお向けに倒れた。
とうとう手にもどったとマジョリカは安堵の笑みを浮かべてエナジーコアを見た。
周囲に未練がましく貼りついていた血管たちもすぐ灰になってさらさら落ちて行った。
「さよなら学者さん、あなたのこと嫌いじゃなかったですよ」
マジョリカが対物ライフルに飛び乗って反転したとき、上空の闇に無数の小さな光りを見た。
気づくとその光りたちは彼女の頭上すべてを覆いつくしていた。
やがて光のひとつから聞き慣れた鳴き声が耳に届いた。
コッコココッコ……コケコッコー、
ようやく復旧した人造人間の遠隔操作に導かれ、マジョリカの前に現れたのは、豚爆弾、牛鉄球の流れを汲む、「三大家畜系どうかしてる武器」の3つ目「飛ぶ鶏」であった。
ハッとして人造人間に視線を投げると彼は水辺から腰をあげていた。
その顔には皮膚が再生しはじめ、瞼もできあがっている。
エナジーコアを取りのぞいたのになぜ死なず、あまつさえ再生までつづけているのか。そして彼女は思い出した。
屠殺人が取り込んでいた小さなエナジーコアはどこにいったのか?人造人間はその疑問に答えるように自分のこめかみを指で軽くつついた。
「あなた、頭蓋の中に……」
マジョリカは対物ライフルを人造人間の頭にむけるが、すかさず鶏たちが舞いおりてマジョリカを襲った。彼女も即座に反応してスピアで鶏を次々と斬ってゆく。
しかし数がはんぱではない。たまらずライフルにしがみついて地上へ一気に加速した。
人造人間は水面に身体を横たえて鶏の遠隔操作に専念した。
身体の再生に遅れが生じてしまうが仕方ない。ここでマジョリカを逃したら永遠に純正のエナジーコアを手に入れることはできない。とにかくいまは鶏を使って彼女を追いかけるしかない。
運よく彼女を倒せればそれでよし。そうでなくても彼女を追跡することはできる。自分の身体が浮遊可能な程度に回復すれば鶏のあとを追ってマジョリカと対決する。
そのときこそ彼女を倒す。
小さいとはいえ今の彼はエナジーコアを装着しているから、身体が完治すれば勝つのは難しいことではないと人造人間は判断していた。
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