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36 圧縮型ミラニウム弾

 旧時代、対人造人間用に開発された圧縮型(あっしゅくがた)ミラニウム弾はターゲッティングされた対象に秒速500mという超音速で接近する。


 当時の研究者たちは人造人間の形成する防御領域の構成要素が銃弾や砲弾の接近をいち早く察知して生成される多重構造の金属防壁であることに気づいていた。


 ゆえにこのミラニウム弾はどんな金属も溶解(ようかい)するほどの圧力を領域表面に発生させ、人造人間に直接破壊的な攻撃を加えることを可能にしている。


 しかしミラニウム弾の運用には欠点があった。防御領域を溶かすほどの圧力を加えるには超音速で領域に衝突する必要がある。

 そのためにはブースターを装着するだけでは速度が足りなかった。


 そこで研究者たちは重力の力を借りることにした。

 ミラニウム弾を装弾(そうだん)した軍事衛星「プロキシマ・ケンタウリ」を建造して宇宙空間に飛ばしたのである。そこからミラニウム弾を人造人間にむけて落下させ、ブースターの加速も加えて防御領域溶解に必要な速度を獲得した。


 しかしそうなると今度は攻撃の精度が問題となった。

 そこでふたたび研究者たちは知恵をしぼり、ミラニウム弾を目標へ誘導するパルス液とその発射ロケットを開発した。


 ロケットは人造人間の生成した防御領域の手前で自壊しパルス液を放射する。ロケット消滅により危険は去ったと認識した防御領域が霧散(むさん)するすき間をとおり抜け、パルス液が人造人間の身体に付着する。その液を目標にしてミラニウム弾がふり落ちてくるという算段(さんだん)である。


 プロトコルが上空から接近する危機を告げ、人造人間が空をあおぎ見るのと、ミラニウム弾頭が防御領域の天井に接するのはほぼ同時だった。


 弾頭は風船を上から指でつくように防御領域をぐにゃりとへこませ、人造人間もろとも猛烈な速さで立坑(りっこう)内部へ押しさげた。


 回避不可能を察知した人造人間は立坑(りっこう)に消える直前、キルボットに最後の指示をだした。


 刹那(せつな)、地上で戦っていた数百体のキルボットたちが足のうらから炎を噴き上げ天高く飛んだ。


 人造人間が立坑(りっこう)に消えた数秒後、スローターハウス周辺の地面がせり上がり、水面に波紋(はどう)が広がるような地殻変動のうねりとなって盗人街全体に広がった。


 高い建物は横倒しになり、広い建物はぱっくりと割れた。

 おどろく間もなく今度は耳を聾する爆音とともに立坑から火柱がふき出してドーム状にふくらんだ。爆炎は半径100m以内の建物を消失させ、爆風は500m以内の建物を粉砕(ふんさい)し、衝撃波は盗人街すべての窓ガラスを割った。


 上空たかく舞い上がるキルボットたちのほとんどがミラニウム爆発に巻き込まれて(ちり)となり、ほかの機体も爆風で(はえ)をたたくように吹き飛ばされた。


 しかし数体は宇宙空間に到達することができた。彼らは軍事衛星プロキシマ・ケンタウリの躯体(くたい)をつらぬいた。


 予備のミラニウム弾を大量に搭載(とうさい)したプロキシマ・ケンタウリは動力低下と演算機能喪失により周回軌道をおおきく逸れた。やがて高度をおとしてゆき数分後には遠洋に没した。


 結晶構造の不安定さゆえ、パルス液の入ったロケットを照準どおりに飛ばすには人造人間を視認できる距離まで接近する必要がある。

 となると射手がミラニウム爆発に巻き込まれることは避けられない。


 旧時代の研究者はその点についても画期的な観点から解決策を見い出していた。


 メイドのメイドたる所以、メイド服がそれである。


 一見するとフリルのついた可愛いロングスカートのドレスにしか見えないが、その実、高度な技術で開発された強化アラミド繊維によって驚くほどの高耐熱性、高弾性を獲得しており、それは人造人間や覚醒者が用いる防御領域と能力において遜色(そんしょく)ないものだった。


 パルス液を人造人間に命中させてすぐ、メイドはスカートの(すそ)を両手でつかんだ。そして、えいっ!という可愛いらしいかけ声とともに両足をまげて飛びはね、同時に両手を頭上にあげた。


 するとお猪口(ちょこ)のようになったスカートの(すそ)が急速にとじて彼女の上半身をつつみ、またスカートの下のペチコートもあっという間に(すそ)がとじて両足をつつんだ。


 メイドが着地したときには人間大の(まり)のような状態になっていた。直後の爆発で彼女の入った(まり)は周囲の諸々と一緒にふき飛ばされた。


 あちこちにぶつかり、様々な物が衝突し、その間ずっと超高温にさらされた。


 爆発の混乱が収まるのを待って、メイドは服をいつもの仕様にもどした。


 瓦礫の荒野にゆるりと立って周囲に視線をめぐらせる。ありとあらゆる物が破壊されて眺めがよくなっている。しかし旧指令塔だけは躯体の強固さゆえに依然と変わらぬ様子だった。


 よかった、ユートは大丈夫。


 メイドは立坑(りっこう)(ふち)でたち止まり、背負っている金属製リュックからコントローラーを引っぱり出して起動ボタンをおした。


 しずかな排気音がしてリュックの底部からジェット噴射が起こり、メイドの身体がすこし浮いた。身体を(かたむ)けて立坑(りっこう)中央へ移動したあと、彼女は徐々に排気量を落としてスローターハウス内部に身を投じた。


         ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 スローターハウス内部はミラニウム爆発でおおきく破壊されて、ひしゃげた鉄骨や断線した配線が立坑にとび出していた。


 それらの残骸に混ざってキルボットの欠片が引っ掛かっていたり、あるいは熱で溶けて壁にはりついている。


 どれくらいの距離を下りただろうか。やがて眼下に残り火に照らされた水面の光りが見えた。

 スローターハウスの最下層に降り立った。

 爆発による送水管の破損か、地下水がコンクリのわれ目から湧きでたらしく、足首あたりまで浸水していた。


 メイドはスカートをたくしあげて太ももにある小物入れから拳銃と小型ライトをとり出した。

 拳銃をかまえた右手をまっすぐ前にのばし、左手は逆手に持った小型ライトをこめかみの横あたりで固定しながらしばらくその場にとどまり付近の様子をうかがった。


 かつて家畜の餌場(えさば)だったスローターハウス最下層は、いまでは面影(おもかげ)もないほどさっぱり消滅し、し尿とすえた臭いだけが(かす)かにのこる殺風景な空間になっていた。


 メイドはライトをかざしながらゆっくり身体を回転させてみる。水面がライトの光りを反射する以外なにも見えない。


 周囲は真空のような静寂(せいじゃく)につつまれていて、耳を澄ましても何も聞こえなかった。


 が、少しするとほんのわずかだけど水が跳ねる音が聞こえ、慎重に音のするほうへ進んだ。


 やがて彼女はライトが照らすぼんやりとした景色の中にそれを見つけた。

 ほとんど炭化して真っ黒。四肢(しし)もすべてが途中で欠損している人造人間が水のなかを這って移動している。普通の人間ならとうに絶命している姿のものが、なおも動いている。


 メイドはこの世のものではない何かを見た思いがしておぞ気づいた。

 そしてさらに不思議なものを見た。


 黒く焼け焦げた人造人間の皮膚が少しずつではあるが赤みを帯びはじめているのだ。最終戦争のときミラニウム弾は人造人間を完全に灰にしたと聞く。やはり完成型は量産型より頑丈にできているのだろうか。


 人造人間は背後からの光りにようやく気づき、動きをとめて肩ごしに振り返った。


 その顔は皮膚がすべて()がれ、筋肉のすじがあらわになっている、(まぶた)のない眼球は感情を出せず、ただギョロリとこちらを見ていた。


「おお!生きていたのか!」


 人造人間は身体を反転させてメイドに向き合った。胸のあたりから青い光りが浮かんでいるのがろっ骨や筋肉をとおして見てとれた。


「ミラニウム爆発にやられた。撃ったのは魔女の一味ではない。いくら羽振(はぶ)りのよい魔女といえど救世軍専有のあれを持っているとは思えない。たぶん新政府軍の仕業だ」


 人造人間はミラニウム弾を誘導したのがメイドであるとは気づいていない。


「魔女と争い、殺し屋たちと反目(はんもく)したとたん新政府軍が出てくるのはタイミングとして出来すぎている。色々と考えたいところだが、とにかくこの身体を回復させなければ、こんな身体で、しかもキルボットが全滅した現状で敵に攻められたらエナジーコアを奪われてしまう。

 あとすこし時間があれば手足も再生するし、遠隔操作で家畜武器もつかえるようになる。その前に敵が来たらお前がなんとかしのいでくれ」


 と、これからエナジーコアを奪いとろうとしているメイドに向かって人造人間は言うのである。


 メイドは意を決して人造人間に近づいた。


 右手に構えた銃を彼の胸元に向けようとしたとき、彼女は立坑(りっこう)から(ほの)かな光りが降り立つのを目の端にとらえた。


読んでいただいてありがとうございます。

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