33 オズ博士、穴から出る
状況はワイルドギースに断然有利であったが、時間がたつにつれ弾雨をのがれたキルボットたちが周囲に散開しはじめた。
それらとて事前にオウ曹長が埋設した地雷をふんで脚をふき飛ばされ、地面で這っているところをハチの巣にされる。
鉄くずになり果てたキルボットを踏んで別のキルボットが発砲しながら防御陣に攻撃をしかけるも、そのすべてが単発的な弱々しいものだから、ワイルドギースの反撃であっ気なく全滅する。
それでもなおキルボットたちはあらゆる可能性を試すみたいに多彩な行動で前進し、そのたびに何体もの犠牲が生じている。
人間の尺度でいえば常軌を逸した玉砕にしか見えない。
そんななか、マジョリカもまた空から対物ライフルでキルボットを掃討しつつ、機を見て立坑の奥へ侵入を試みるものの、内壁をのぼるキルボットたちの一斉射撃でたまらず地上にもどされる。
戦場はある種、人智をこえた意志のようなものを持っており、時として思いもつかない挙動を見せることがある。
戦況の変転は突然おとずれた。
屋上から対空砲を撃ちおろしている部隊が真っ赤になった銃身を交換している最中、キルボットの放った銃弾が新しい銃身を抱えた隊員の頭をつらぬいた。
それにより交換に後れが生じ、対空砲の射角に位置するキルボットが大挙して防御陣に襲いかかってきた。
味方を救うべく他の部隊が射撃方向を変えたため立坑への弾幕が急激になえて、弾雨をのがれた大量のキルボットが立坑の全方位から飛びでて波紋のように広がると、地上の防御陣を次々と襲った。
状況の機微を見のがすまいと四方に目を光らせていたアレン大佐は素早い対応にでた。
おされ気味の防御陣は放棄して隊員をより強固な防御陣へ移動させ、部隊全体には射角をひろくとった上、その範囲内での攻撃を厳命した。
その甲斐あって緩みかけた包囲がふたたび息をふき返した。しかし大佐の表情は厳しいままだった。
キルボットは尽きることなく湧いてくるし、マジョリカの話を鵜呑みにするなら、あとには人造人間も控えている。
ワイルドギースが立坑を包囲したのはエナジーコアを守るためである。
そのエナジーコアが奪われてしまった以上、この場にとどまってキルボットを破壊しつづけても良いことなどなにひとつ、少なくともワイルドギースにとっては起きるはずがない。
段階的に後退しつつ、盗人街から脱出するのが賢明な判断だが、スローターハウスに侵入しようと躍起になっているマジョリカを置いてきぼりにもできない。
どうしたらよいか判断のつかぬまま時間だけが過ぎてゆく。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
キャロラインとハネツグはそろって指令室の窓から戦況を見おろしていた。
すると突然、キャロラインが「あっ!」と声をあげて立坑に設置された螺旋階段を指さした。
キルボットたちは地上に出ると敵陣めがけて走ってゆくが、階段付近のキルボットたちはどういうわけか踊り場に集まっており、階段の方向に発砲したり、ナイフを掲げながら階段を下りてゆく。
あのキルボットたちが何かと戦っているのは分かる。しかし、それが何なのかは位置的にあと少しのところで見ることができない。
しばらくして誰かが猛烈な勢いで階段を駆けあがり、両手に持ったハンマーで踊り場にいるキルボットたちをはじき飛ばした。
間髪入れずもうひとりが階段を駆けてハンマー男の背中に自分の背中をつけた。
引きも切らずに襲いかかるキルボットたちを、ふたりは互いを庇いながら的確な反撃でしりぞけている。
ハンマー男のほうはふたりとも面識はなかったが、もうひとりの方は知っている。その人に会うためにふたりは宿屋から全速力で走ってきたのだ。
あれは間違いなく女神像を盗んだ忍者だ。
とすると一緒に戦っているハンマー男はマジョリカが言っていた忍者の仲間だろう。
たしか忍者はオズ博士に雇われて女神像を盗みだしたはずなのに、どうして彼の操るキルボットと戦っているのか。
ハネツグは疑問に思ったが、となりのキャロラインが立ち上がって外に出ようとしたので、疑問を頭から放りだして彼女の手をつかんだ。
「はなして!」
「駄目だよ、あんなところ行ったら死んでしまう」
「あの人が父さんか確かめなきゃ!わたし、父さんを捜すためにここまで旅してきたんだよっ!」
それでもハネツグはキャロラインの手を離そうとしない。
もし離したら二度と彼女に会えないような気がした。
ふたりの喧嘩を他所にあれこれ忙しく動きまわっていたアレン大佐や指令室の隊員たちが一斉に動きをとめた。
人がたくさんいる空間で、稀にすべてが水を打ったように静まりかえる瞬間がある。あれが指令室にも訪れたようだった。
ハネツグは反射的に周囲を見たあと、大佐たちが金縛りにあったように見つめる視線のさきを追った。
そこには立坑から空の高みへと羽根のように滑らかに上昇する男性の姿があった。
「もしかして…あいつが?」
アレン大佐は首からさげた双眼鏡を目にあてた。
身体を青く発光させながら宙に浮いているその男性をハネツグは知っていた。
どういうわけか肉づきがよくなっているが、あの顔立ちはまぎれもない。
「大佐、あれがオズ博士です」
魔女
殺し屋
学者
役者に満ちた盗人街にあって、主役を張れる面々が一堂に会した瞬間であった。
宙をただようオズ博士は地上を睨みおろした。
そして大音量で宣言した。
「我が名はオジマンディアス!究極の人造人間である!人類よ、我れの行いし御業を見よ!しかして絶望せよっ!!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
盗人街ではまごうかたなき大混戦がくり広げられていた。
しかし役者はまだそろっていない。三勢力すべてを丸呑みするほどの真打ち「第10重装機甲歩兵旅団」の先発隊が盗人街の外壁をへだてたすぐ外でひっそりと待機していた。
あと数分で本隊も到着する。
偵察車の後部座席にいる旅団長は車上からのばした観測機器をとおして盗人街のようすを窺っていた。
攻撃の合図について諜報部から旅団長へ指示が出ていた。
なんでも、天にとどくほどの巨大な爆発が午前0時を目途に盗人街で発生する。それを確認してから侵攻を開始せよとのことである。
爆発についての詳細は教えてくれなかったが、諜報部ではミラニウム爆発などと表現しているのが通信機のむこうで聞こえた。
若いころは歴史家になることを標榜していた旅団長はその単語をおぼろげながら覚えていた。
たしか最終戦争の折、救世軍が対人造人間用に開発した兵器がミラニウム弾という超ド級の爆弾だった。
とはいえ、今では大陸のどこを探しても実物は見つからず、戦争でつかい切ったものと見なされている。
ならどうしてその単語が諜報部の口からでてくるのか。当時の技術は失われて久しいから新たにつくり上げるのは不可能だろうし、たとえ諜報部がミラニウム弾をどこかで発見して隠し持っていたとしても、あれを飛ばすにはカタパルトが必要となる。
体積や質量を考慮するなら、それはかなり巨大な構造物となり、外観上も予算上も目を引くはずだ。
諜報部はいったい何を企んでいるのだろう。
闇のなか、盗人街の灯りを眺めながら旅団長は訝しんだ。
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