32 魔女軍団VS学者軍団
宿屋をあとにしたキャロラインとハネツグは通りをひた走りに走った。
道々で救護される隊員たちを横目で見ながら、やがて空気に火薬のにおいが混じり、同時に地面がわずかに振動しているのが感じられた。
スローターハウス周辺の広場にさしかかると振動はより大きなものになっていた。
しばらく前から銃声はやんでおり、立坑の周囲は元からいたオウ曹長の部隊に、忍者を追ってきたアレン大佐とイソルダ曹長の部隊が合流して、自然、ワイルドギースの全部隊が集合した形となった。
部隊の一部は建物の上階や屋上などの立坑を見おろす位置に陣どり、店から運びだした対空砲を下にむけて配置している。
のこりの部隊は立坑から距離をおいた場所に構築した防御陣から銃をつき出している。
上空を旋回していたマジョリカがキャロラインとハネツグを見つけてふたりのそばに降り立った。
「おふたりとも早く避難しなさい。あといくらもしないうちにここは戦場になります」
「エナジーコアを奪った人はどこ行ったの?」
キャロラインは必死の表情で訊いた。
「学者にエナジーコアを渡すためスローターハウスに入りました。やつの仲間もさきほど立坑に逃げ込んだところです」
キャロラインはふたたび走りだしたが、マジョリカが前に立った。
「この揺れ、お分かりでしょう。地下から何かがやってきます」
「でもわたし行かなくちゃ」
「エナジーコアの件ならこちらで引き受けます」
「そっちじゃなくて私が捜しているのはっ!」
鼻息あらく喚きたてるキャロラインの額にマジョリカが軽く触れると、彼女は布がおちるようにゆらりと倒れマジョリカに素早く抱きかかえられた。
ハネツグの顔に不安の色がありありと浮かんだ。
「大丈夫、すぐに意識をとり戻します」
マジョリカはキャロラインをハネツグに預け「彼女と一緒に指令室へ避難してください」と建物の一角を指した。
宿屋のある通りから軍用車がやってきた。
運転しているのはイソルダ曹長、助手席にはアレン大佐の姿もある。車は指令室となっている建物によせて停車した。
マジョリカは降車する大佐に近づいた。
「怪我の具合は?」
「ちょっと頭を打っただけだ。それよりエナジーコアを奪われてしまった。申し訳ない」
ハンドルをにぎるイソルダ曹長がくやしそうに唇をかんでいる。
この場を仕切っているオウ曹長も部下たちをつれて大佐たちに合流した。
「殺し屋たちのあとを追おうとしたんだが、この揺れがなあ……」
地面から伝わる振動が腹にひびくほど大きくなっている。
「ああ、なにか出てきそうだ」
オウ曹長が二の足をふむのも当然だ。
「殺し屋が学者に加担するなんて想定外でした。でもおかげで重要な事実がわかりました」
マジョリカはそこで一旦言葉をとめて大佐たちの顔を順番に見た。
「学者の正体は人造人間です」
3人とも、マジョリカの言葉の意味をつかみかねた。オウ曹長が引きつった笑みを見せながら、
「まさか、あいつらはみんな破壊されたんだろう?」
「史実ではそうですが、事実はちがったということです」
「どうして学者が人造人間だと言いきれる?」
「学者はエナジーコア奪取の報酬として、殺し屋たちにスローターハウスの所有権を提示しました。それはつまりエナジーコアさえあれば学者は盗人街など不要になるということです」
「なんで人造人間はエナジーコアを求めるんだ?」
「エナジーコアは人造人間の動力源です。それ以外を動力源にしてもすぐに枯渇して生命が危機に瀕します。学者はエナジーコアを失ったか、あるいは使いきってしまったのでしょう。だから盗人街をつくった」
「なるほど、彼にとって盗人街は新政府から正体を隠すための隠れ家であり、代替エネルギーを得るための食堂であり、また、エナジーコアを探すための市場だったということか」
「エナジーコアを手に入れたら、それらすべてが不要となります」
「で、不要となったから殺し屋たちにくれてやるとして、学者はそのあとどうするんだ?」
「かつて彼らは人類滅亡を計画しました。中断した計画を続行するにちがいありません。ふたたび最終戦争がおこり、混沌が世をつつむでしょう。学者は屠殺人の名前がヴィクター博士であると言っていました。聞き覚えがある名前だったのですが、やっと思いだしました。ヴィクター博士とは今から100年前に人造人間を造った学者の名前です」
イソルダ曹長が助手席に身をのり出してアレン大佐を見あげた。
「もう、ワイルドギースでどうにかできる問題じゃありません」
「マジョリカ、逃げよう」
アレン大佐の提案はまったく妥当であった。
ワイルドギースは傭兵団であり、救世軍や新政府軍のように大義のため戦ったりはしない。
それはマジョリカも同じである。イソルダの部隊がエナジーコアを守れなかったのは事実だが、奪われたそもそもの原因は協力を拒んだキャロラインにある。
そしてエナジーコアがキャロラインの手にない以上、売買契約は解除され、マジョリカがキャロラインに金貨をひき渡す義務はなくなる。
いまのマジョリカにとって最適な手立ては店をひき払ってワイルドギース共々盗人街から避難することだ。それはマジョリカとて承知のはずである。
しかし、どういうわけか彼女は「わたくしは逃げません」ときっぱり言った。
「相手は人類を滅亡寸前まで追いやった人造人間だ。いくらあなたが覚醒者でも勝ち目はない」
大佐が説得にかかる。
「そうは思いません。覚醒者の始祖は彼らと対等にやりあったと聞いています。わたくしに連なる気がないなら逃げても結構です」
「ああ逃げるさ。マジョリカと一緒に」
ここは譲れないとばかりに大佐は語気を強めた。
「もう一度いいます。わたくしは逃げません」
「どうしてエナジーコアにこだわる?あんな物あなたには不要だろう」
大佐は苛立ちをおさえながら訴えた。
「いいえ、わたくしにとって、あれはどうしても必要な物です」
「たのむから俺の言うことを聞いてくれっ!!」
アレン大佐はほとんど怒鳴りつけるように言った。
マジョリカの身を案じてのことだった。
大佐の剣幕におどろいて、さっと顔を引いたマジョリカの瞳はさも傷ついたような色が浮かんで細くなり、頬は見る間に紅潮して目尻にじわじわ涙がたまってゆく。
「なんで……そんな強い言いかた……するのですか」
感情の爆発をこらえるように身体を硬くして、かすれた声で途切れ途切れに非難した。
良く言えば高貴、悪く言えば尊大なマジョリカが今にも泣き出しそうに顔を歪めている。
アレン大佐は哀れなほど狼狽した。
「マジョリカが無謀なこと言うから、だから俺……」
「だって、それは大佐あなたが!」
つづく言葉を塗りつぶすように建物の屋上で対空砲が轟然と火をふいた。
立坑から大挙してあらわれたキルボットに向けてY字砲火がはじまったのだ。あとを追うように地上の大小砲も雷鳴し、隊員たちは抜刀、執銃した。マジョリカも涙をはらって対物ライフルにとび乗った。
マジョリカの軍勢とオズ博士の軍勢との間で戦いの火蓋が切っておとされた。
立坑の奥では、まるで内壁それ自体が上へ上へと移動しているかのように、かぞえ切れないほどのキルボットがはい上がってくる。
それらのうち数十体が対空砲の直撃でふき飛び穴の底へ落ちてゆく。
それとて全体としてはわずかな数で、ふりそそぐ砲弾をやり過ごしたキルボットは立坑の縁から地上へ群がりでた。
そこを今度は地上に配置された部隊が撃って撃って撃ちまくった。
時おりキルボットも反撃するが、照準をあわせる余裕がないせいか狙いがひどく雑でワイルドギースの脅威にはなっていない。
あちこちから銃弾がとび交い、キルボットたちはなす術もなく破壊されてゆく。
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