表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/54

30 逃げ切りサンダンス

 いかな覚醒者ブッチといえど、ワイルドギースも助勢(じょせい)したマジョリカが相手では敵せずと思われた。


 しかし予想とは裏腹にこれが存分に渡り合うのである。しかも戦うにつれ、ブッチの身体がだんだん大きく見えてくるから不思議だ。


 サンダンスは建物同士のほそい通路をすすみ、そこから外壁を素早く駆けあがる。


 緊迫した状況のおかげで肩の痛みも麻痺しており、いつものように動くことができた。屋上まで来るとそこから屋根伝いに猫のようなすばしこさで移動してゆく。


 眼下ではマジョリカとワイルドギースが発砲をくり返しながらサンダンスを追おうとするが、ブッチが弾丸をハンマーで弾いたり、マジョリカの渾身(こんしん)の一撃すらはね返すという神業を何度もくり返すため、なかなかサンダンスに肉迫できない。


 とはいえ人数だけはいるから、ひとりも漏らさず倒そうとするブッチも徐々に後退を余儀なくされ、そういった状況が戦場をスローターハウスへと接近させていった。



         ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 立坑(りっこう)の周辺はいく(すじ)かのサーチライトが夜空にのびていた。サンダンスたちの情報がオウ曹長の部隊に伝わったのだろう。


 サンダンスは立坑(りっこう)を見おろす建物の屋上で足をとめた。身をかがめて屋上のはしから下界をうかがう。建物からどんなに跳躍しても立坑(りっこう)までは距離があるため地面に降り立つことになる。


 着地自体は軽くこなせるが、問題は直後にワイルドギースの集中砲火を浴びてしまうことだ。


 宿屋のときは(きょ)を突かれた隊員が即座に反応しなかったから事なきを得たが、今回はすでに臨戦態勢にあるので同じ幸運に恵まれることはないだろう。


 どうしたものかと思ったとき、とおくに聞こえていた剣戟(けんげき)の音が止み、代わりにブッチの怒鳴り声が聞こえた。


「待て魔女!俺を(そで)にしくさるか!」


 ふり返ったとき、すでにマジョリカはそこにいた。

 浮遊する対物ライフルの上にそろえた足で立ち、(りん)とした姿勢でスピアをサンダンスに向けている。


 夜闇(よやみ)の中で魔女と忍者が相対(あいたい)した。


「エナジーコアを渡しなさい」


 サンダンスはエナジーコアに目を落とした。商人のマジョリカが売却を拒み、オズ博士が全財産をたたいてまで盗ませた。なぜみんなこんな物に執着するのだろう。


「これ何なんだ?派手に光る以外はありきたりな女神像だが」


 マジョリカは答えず反問した。


「なぜオズ博士になんか雇われたのです。盗人街に混乱が生じるのは明白ではありませんか」

「誰が何をしようと自由な街、それが盗人街だろう」


「ならばわたくしは博士の2倍はらいます。だから返してください」

「俺たちの報酬は金貨じゃない」


「どういう意味です?博士はなにを報酬として提示したのですか?」

「スローターハウスの所有権さ」


 マジョリカの動揺が強固なヘルメットを容易にすり抜けてサンダンスに伝わってきた。


「どうだ、驚いただろう」

「ええ驚)きました。殺し屋ふたりの馬鹿さ加減に」


 まるで足元から風がふき上げるように魔女の長い金髪が扇状(おうぎじょう)にはためいた。


「オズ博士がエナジーコアを(ほっ)する理由が分かりました」


 マジョリカの乗る対物ライフルが高速でサンダンスに迫った。

 状況はすこし前と似ていた。サンダンスがこのまま何もしなければライフルの弾丸が彼の身体に大穴を穿(うが)つ。かといって脇に飛んでもスピアが彼を切り裂くだろう。


 だがまったく同じというわけではなく、加えて言うならこの状況を彼は待っていたと言っていい。


 指呼(しこ)の間に迫っても身じろぎひとつしないサンダンスに向かって、対物ライフルから弾丸が発射された。が、それよりわずかに速く、サンダンスは一歩後退するとマジョリカの視界からすっと消えた。


 落ちたっ!? 


 サンダンスがいた場所を通りすぎてすぐに見下ろすけれど、地面に落下したはずの彼の姿はない。困惑するマジョリカの身体がおおきく揺れた。


「な、なにごとです?!」


 益々混乱した彼女はすぐに揺れの原因を見た。

 ライフルの後部、肩をあてるストックにサンダンスがしがみついていたのだ。


 彼は後退して建物から落下したと思わせ、その実、屋上の縁に指をかけてマジョリカをやり過ごし、通り過ぎざまに飛び上がってライフルをつかんだのだ。


 それだけの動作を瞬時にやってのけるところがサンダンスの覚醒者たる所以である。


(ほうき)から手をはなしなさい!」


 サンダンスは離すはずもなく、むしろがっちり掴み直す。地上から数発の銃声が聞こえたが、オウ曹長が魔女に当たるから撃つなと命じてからはただ見上げるのみだった。


 (ごう)()やしたマジョリカが対物ライフルを勢いよく回転させて、遠心力(えんしんりょく)でサンダンスを引きはがした。


 ライフルから手を離して飛んでゆく彼を見てマジョリカは安堵あんどした。


 でもすぐに自分が彼の策略に加担してしまったことに気づいた。マジョリカの力強い一振りによってサンダンスは空を高く、そして遠くまで飛んだ。


 マジョリカの放つライフルや地上からの砲火が周囲を忙しなく飛び交う。


 そんな中、ワイルドギース数十名を向こうに回して獅子奮迅(ししふんじん)白兵戦(はくへいせん)をくり広げているブッチが空をあおぎ見た。そしてケッケッケ!と怪鳥(けちょう)のごとく笑った。


「行け! スローターハウスの新しい所有者!」


 やがてサンダンスは降下をはじめ、スローターハウス唯一の出入口である立坑(りっこう)へと吸い込まれるように落ちていった。


読んでいただいてありがとうございます。

ブックマーク登録や★で評価していただけると励みになります

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ