30 逃げ切りサンダンス
いかな覚醒者ブッチといえど、ワイルドギースも助勢したマジョリカが相手では敵せずと思われた。
しかし予想とは裏腹にこれが存分に渡り合うのである。しかも戦うにつれ、ブッチの身体がだんだん大きく見えてくるから不思議だ。
サンダンスは建物同士のほそい通路をすすみ、そこから外壁を素早く駆けあがる。
緊迫した状況のおかげで肩の痛みも麻痺しており、いつものように動くことができた。屋上まで来るとそこから屋根伝いに猫のようなすばしこさで移動してゆく。
眼下ではマジョリカとワイルドギースが発砲をくり返しながらサンダンスを追おうとするが、ブッチが弾丸をハンマーで弾いたり、マジョリカの渾身の一撃すらはね返すという神業を何度もくり返すため、なかなかサンダンスに肉迫できない。
とはいえ人数だけはいるから、ひとりも漏らさず倒そうとするブッチも徐々に後退を余儀なくされ、そういった状況が戦場をスローターハウスへと接近させていった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
立坑の周辺はいく筋かのサーチライトが夜空にのびていた。サンダンスたちの情報がオウ曹長の部隊に伝わったのだろう。
サンダンスは立坑を見おろす建物の屋上で足をとめた。身をかがめて屋上のはしから下界をうかがう。建物からどんなに跳躍しても立坑までは距離があるため地面に降り立つことになる。
着地自体は軽くこなせるが、問題は直後にワイルドギースの集中砲火を浴びてしまうことだ。
宿屋のときは虚を突かれた隊員が即座に反応しなかったから事なきを得たが、今回はすでに臨戦態勢にあるので同じ幸運に恵まれることはないだろう。
どうしたものかと思ったとき、とおくに聞こえていた剣戟の音が止み、代わりにブッチの怒鳴り声が聞こえた。
「待て魔女!俺を袖にしくさるか!」
ふり返ったとき、すでにマジョリカはそこにいた。
浮遊する対物ライフルの上にそろえた足で立ち、凛とした姿勢でスピアをサンダンスに向けている。
夜闇の中で魔女と忍者が相対した。
「エナジーコアを渡しなさい」
サンダンスはエナジーコアに目を落とした。商人のマジョリカが売却を拒み、オズ博士が全財産をたたいてまで盗ませた。なぜみんなこんな物に執着するのだろう。
「これ何なんだ?派手に光る以外はありきたりな女神像だが」
マジョリカは答えず反問した。
「なぜオズ博士になんか雇われたのです。盗人街に混乱が生じるのは明白ではありませんか」
「誰が何をしようと自由な街、それが盗人街だろう」
「ならばわたくしは博士の2倍はらいます。だから返してください」
「俺たちの報酬は金貨じゃない」
「どういう意味です?博士はなにを報酬として提示したのですか?」
「スローターハウスの所有権さ」
マジョリカの動揺が強固なヘルメットを容易にすり抜けてサンダンスに伝わってきた。
「どうだ、驚いただろう」
「ええ驚)きました。殺し屋ふたりの馬鹿さ加減に」
まるで足元から風がふき上げるように魔女の長い金髪が扇状にはためいた。
「オズ博士がエナジーコアを欲する理由が分かりました」
マジョリカの乗る対物ライフルが高速でサンダンスに迫った。
状況はすこし前と似ていた。サンダンスがこのまま何もしなければライフルの弾丸が彼の身体に大穴を穿つ。かといって脇に飛んでもスピアが彼を切り裂くだろう。
だがまったく同じというわけではなく、加えて言うならこの状況を彼は待っていたと言っていい。
指呼の間に迫っても身じろぎひとつしないサンダンスに向かって、対物ライフルから弾丸が発射された。が、それよりわずかに速く、サンダンスは一歩後退するとマジョリカの視界からすっと消えた。
落ちたっ!?
サンダンスがいた場所を通りすぎてすぐに見下ろすけれど、地面に落下したはずの彼の姿はない。困惑するマジョリカの身体がおおきく揺れた。
「な、なにごとです?!」
益々混乱した彼女はすぐに揺れの原因を見た。
ライフルの後部、肩をあてるストックにサンダンスがしがみついていたのだ。
彼は後退して建物から落下したと思わせ、その実、屋上の縁に指をかけてマジョリカをやり過ごし、通り過ぎざまに飛び上がってライフルをつかんだのだ。
それだけの動作を瞬時にやってのけるところがサンダンスの覚醒者たる所以である。
「箒から手をはなしなさい!」
サンダンスは離すはずもなく、むしろがっちり掴み直す。地上から数発の銃声が聞こえたが、オウ曹長が魔女に当たるから撃つなと命じてからはただ見上げるのみだった。
業を煮やしたマジョリカが対物ライフルを勢いよく回転させて、遠心力でサンダンスを引きはがした。
ライフルから手を離して飛んでゆく彼を見てマジョリカは安堵した。
でもすぐに自分が彼の策略に加担してしまったことに気づいた。マジョリカの力強い一振りによってサンダンスは空を高く、そして遠くまで飛んだ。
マジョリカの放つライフルや地上からの砲火が周囲を忙しなく飛び交う。
そんな中、ワイルドギース数十名を向こうに回して獅子奮迅の白兵戦をくり広げているブッチが空をあおぎ見た。そしてケッケッケ!と怪鳥のごとく笑った。
「行け! スローターハウスの新しい所有者!」
やがてサンダンスは降下をはじめ、スローターハウス唯一の出入口である立坑へと吸い込まれるように落ちていった。
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