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03 大盛況の盗人街

 100年前の最終戦争当時、人類が敵対する人造人間用に建造した前線基地「タイコンデロガ」は、現在では盗人街(とうじんがい)と呼ばれる混沌の場と化していた。


 四方を永年(えいねん)コンクリートで囲まれたこの街は新政府の支配を受けておらず、いわば独立都市国家の様相(ようそう)(てい)している。


 金貨さえ払えば誰でも盗人街(とうじんがい)に入ることができる。


 よからぬ物を所望(しょもう)する貴族だろうと、官憲(かんけん)から逃走中の罪人だろうと、盗人街はわけ(へだ)てなく受けいれる。


 加えて、ここでは何でも手にはいる。

 晩飯の食材から借金のかたに身売りされた人間まで、金貨を出せばあっという間に用立(ようだ)てる。


 新政府軍、第10重装機甲歩兵旅団に所属する若き通信兵ユート・ブラックバックは盗人街の正門にあたる南門のまえに立っていた。


 いつもの軍服から一転、貿易商(ぼうえきしょう)の身なりで景色に溶けこんでいる。


 ひと月ほど前、外夷討伐(がいいとうばつ)でかるく被弾して負傷休暇をせしめた彼は、完治してからも地元の医者と結託(けったく)して休暇をとりつづけた。


 死ととなり合わせの日々から解放されたうえ、傷病手当(しょうびょうてあて)で金も手にはいる。ほとんど楽園に近い日々だった。


 ではその日々でユートが何をしていたかというと、暇にあかせて夜な夜な繁華街へくり出し、道行く美女を目ざとく見つけては言葉巧みに話かけ、仲よく酒を酌み交わしつつ行くところまで行くという、要するに女遊びに明け暮れていた。


 ところが昨日は不調だった。


 こういう日は意地になって足を棒にしてもいい事はない。そう考えて早々に床についたのだが、ようやく眠りが深くなりはじめたとき、鳴るはずのない小型通信機が鳴った。


 通信兵ゆえ休暇中もつねに小型通信機の携帯が義務づけられている。とはいえ本当に連絡されては迷惑だ。

 任務中の奴がいるだろうと不満だったが無視もできない。ベッドから手をのばして応答すると相手はまさかの旅団長だった。


 ユートは反射的にベッドからはね起きて背筋をのばした。


 旅団長が語るには、外夷討伐(がいいとうばつ)に向かっていた彼の旅団は急遽作戦を中止し、諜報部と共同で新たな作戦に着手することになったという。


 それが盗人街占領作戦である。


 盗人街はユートの住む村からさして遠くない。

 話が読めてきた。作戦の開始に先駆けて自分に何かさせるだ。


 旅団にとって寝耳に水の作戦変更だったが軍部と諜報部、両者のトップではだいぶ前から話し合いがなされていたようで、事実今回の作戦のため諜報部の人間がひとり、長期にわたり盗人街に潜伏(せんぷく)しているという。


 だったら軍部も事前に準備しておけと言いたいところだ。こっちだけ性急なのはどういうわけだろう。


 まあ、訊いたところで答えてくれないだろうし、団長の口ぶりから察するに彼も分からないようだ。


 問題なく進軍できれば旅団は夜中の0時に盗人街に到着する。


 ユートは事前に盗人街へ(おもむ)き、諜報部の潜伏者と協力して旅団の脅威となるいくつかの懸念(けねん)を解決せよ。

 具体的に何をどうするかは潜伏者が教えてくれるとのことだ。



         ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 ユートは巨大なアーチを冠した南門を潜って盗人街へ足を踏みいれた。 

 そしてまずその盛況ぶりに目をみはった。


 まだ早朝といっていい時間帯なのに、街の中心を南北に走る大通りは仕事先にむかう人々やキャラバン隊などであふれていた。


 新政府から違法都市の烙印(らくいん)をおされている盗人街だが、その規模や活気は首都に勝るとも劣らない。


 100年前の最終戦争以降、どの街も住民が生活を維持するため必要な水や食料、電気やガスなどのインフラは不足しており、新政府は街どうしで不足分を融通(ゆうづう)しあってなんとか体裁を保っている。


 そんな状況にあって、盗人街だけは独立独歩の姿勢をつらぬいている。


 そもそもの起源が軍事基地なのに、どうしてこれほど多くの住民を抱えることができるのか、ユートは不思議に思った。


         ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 あちこちで頻繁に聞こえる罵声や時おり発生する銃声にびくりと肩をゆらすが、道行く人々は無頓着(むとんちゃく)なのが恐ろしい。暴力沙汰など日常茶飯事(にちじょうさはんじ)なのだろう。


 行き交う群衆に混じって時おり機械人形「クラボット」の姿を目にした。

 クラボットは旧時代から現在にいたるまで人類に奉仕する機械人形としてひろく活躍しており、首都でも頻繁に見かける。


 クラボットの能力や外見は製造元によって異なるが、ここで見かけるのは他では見ないタイプのものだ。


 どこの会社が製造しているのだろうなどと考えていると、さっそく小型通信機が鳴った。

 ユートはイヤホンをつけながら頭巾(ずきん)を被って自然に隠し、マイクを口元にもっていった。


「諜報部の人か?」

『ああ、そういう君は第10重装機甲歩兵旅団のユートかな?』


 年配の男性を想像させる(しぶ)みのある声が聞こえた。


「そうだ、あんたの名前は?」

わたしの名前は、ディープ』


「……ディープ?」

『ディープ・スロートだ』


「それ、本当の名前じゃないだろ」

『そのとおり、コードネームだ』


 こっちは本名なのに、なんで向こうは偽名をつかうのか?


読んでいただいてありがとうございます。

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