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29 なんで娘がこんなところに!?

 それはサンダンスにとって人生最悪の大失態(だいしったい)だった。


 ワイルドギースが宿屋で作業をはじめる前に屋根に侵入し、客室のすべてを調べてから対象の人物が来るのを待った。


 エナジーコアを持っている若い女も、同伴する男もうしろ姿しか見てないから不安があったが、ワイルドギースが客室すべてを借りたので民間人を探せばよくなり不安は(ふっ)しょくされた。


 お目当てのふたりが部屋に入ったのを天井から確認して、さてどの段階で盗み出そうか考えていると、思いもかけない事態が発生した。


 女がシャワーを浴びている隙に男が女のバッグからエナジーコアを盗んで部屋を出ようとしたのだ。サンダンスはすぐさま天井から降り立って、男の持つエナジーコアを奪うと窓から逃走を図った。


 ここまでは良かった。


 あとはもう散々だった。


 浴室から飛ぶように出てきた女を見たとき、サンダンスは我が目を疑った。


 若かりし頃の妻が全裸で立っていたのだ。

 顔立ちや身体のつくり、それに全体的な雰囲気もすべてがあの頃の彼女であり、おまけに手にした銃までまったく同じだ。


 もしかしたら自分は夕方に飲んだウイスキーで酔って寝ており、この瞬間を夢に見ているのではと思った。しかし部屋のランプがふき飛んではたと正気づいたとき、ようやく正しい視座(しざ)から現実に触れ、輪をかけて驚愕した。


 なんでキャロラインが!?


 俺の娘がどうしてこんなところにいるっ!!?


 色々と問い(ただ)したいところである。

 特に娘の全裸に祈りを捧げてい青年との関係は()()でも訊きたいところであるが、ここは敵地のド真ん中であり、自分は窃盗の最中であり、そして何よりサンダンスは家族を捨てた身である。


 うしろ髪ひかれる思いで窓から外へ飛んで、ひさしを伝ってとなりの建物にとび移る予定だった。でも頭の中をふき荒れる嵐のせいで、まともに仕事ができる精神状態ではなく、すぐに足がもつれて無様(ぶざま)に落下した。


 気づくとサンダンスは隊員たちがタバコを吸いながら囲んだ輪のなかに倒れていた。


 みんな驚いて一歩しりぞき彼を見おろしていた。

 そのうちひとりが彼の肩に手をのせて「大丈夫か?」と聞いてきた。


 上下黒装束(くろしょうぞく)黒頭巾(くろずきん)という、見るからに怪しい格好にもかかわらず、隊員たちの頭には「敵はクラボット」という先入観があるため、とりあえず優しく接することにしたらしい。


 ほかのひとりがサンダンスに手を差し出し、彼もその手を借りようとのばした手がエナジーコアを握っていることに隊員も彼も同時に気づいた。


「それ、エナジーコアじゃん」


 隊員が言い終えるより早くサンダンスは駆けだしていた。背後から待てという声が聞こえてすぐ、いくつもの銃声が鳴りひびいた。地面に着弾の砂煙(すなけむり)があがり、耳のそばを弾丸の風切り音がとおり過ぎてゆく。


 あまりにもお粗末(そまつ)な自分に情けなくなってきたが、落ち込んだってはじまらない。さっさと手ごろな脇道(わきみち)を見つけて闇に隠れなくてはと、走りながら目だけを左右に動かした。


 その視界の端が彼めがけて突進するアレン大佐を捉えた。避ける余裕はなかった。

 前傾(ぜんけい)でサンダンスにタックルしたアレン大佐も、派手に突進されたサンダンスも各々が違った方向に飛んで地面に転がった。


 衝撃でサンダンスはやっと本来の感覚が甦ってきた。

 転がる身体を素早くひねって立ち上がり、ふたたび走り出そうとしたとき、ふいに冷水を浴びせられたような悪寒を感じて動きをとめた。


 もしやと空を見上げ、やはりと確信した。

 視線の先には上空から急降下する対物ライフルとその上に立つマジョリカがいた。


 彼女はいつもの赤いドレスから一転、胸と腰がぴっちりタイトに締まった漆黒(しっこく)のライダースーツを着て、頭は流線形(りゅうせんけい)のヘルメットという出で立ちで、手に銀色に輝くスピアを握っている。


 こっちの方が魔女に近いとサンダンスは場違いながら思った。


 マジョリカは垂直に落ちて地面すれすれで直角に方向転換すると、土埃(つちぼこり)をまき上げサンダンスに迫る。


 こうなったらやるしかない。


 ここで彼女を倒すことができれば、あとはワイルドギースだけだ。


 闇にまぎれて彼らを巻くなんてお手のものである。


 サンダンスは銃を抜こうと腰に手を当てた。すると銃のグリップを握るはずの手が空をつかんだ。どういう事かと腰を見おろしたとき、左肩に衝撃が走り、つづけて激痛が襲う。


 肩を手でおさえながら、まさかとの思いでアレン大佐を見ると、彼は伏射(ふくしゃ)の姿勢でサンダンスから奪った銃を構えていた。


 アレン大佐はサンダンスを倒す絶好の機会をえた。とどめを刺そうとふたたび引き金をひくが単発式だから弾は出ず、「なんだこの銃……」とぼやいてバタリと倒れた。


 アレン大佐を(あなど)っていた。


 だから彼にタックルされたとき銃を奪われてるなんて想像もしてなかった。

 ふたたびマジョリカに視線を戻すと、もうすぐそこまで来ている。


 この場にとどまればライフルに粉砕(ふんさい)されるだろうし、左右どちらかに飛んだところでスピアの間合いから逃げられるとは思えない。


 マジョリカが対物ライフルを発砲した。万事休(ばんじきゅう)すかと思ったとき、突然、サンダンスの眼前で強烈な光りと破裂音が生じた。


 見えたのは相棒ブッチが自慢のハンマーをフルスイングして弾丸を打ちあげた瞬間だった。

 ブッチはハンマーの動きに身をまかせて身体をくるりと回転させてから、迫りくるマジョリカにハンマーを振るった。

 マジョリカもスピアを真っ直ぐ伸ばしてライフルを直進させる。


 つぎの瞬間、ハンマーとスピアの接合部でまぶしい光りが炸裂して周囲を真昼のように照らすと、そこを起点に外側にむかって強烈な風がふき出した。


 数秒後、ふたりは同時に飛び退(すさ)って距離を置いた。


「待たせたな相棒っ!!」


 ブッチは気絶したアレン大佐から拳銃をとり返しており、それをサンダンスに渡した。彼は「すまない」と情けない口調で言って銃をうけ取った。


「いいってことよ!それより傷は大丈夫か?」

「こんなのかすり傷だ」


「ならスローターハウスに急いでくれ。追っ手は俺がひき受けたあっ!」


 マジョリカは対物ライフルを滑るように移動させてアレン大佐のそばにおり立った。


「大佐!」と叫ぶ彼女の顔は悲痛にゆがんでいる。アレン大佐は口の端をすこし上げて大丈夫とばかりにちいさく頷いた。そのあとすぐイソルダ曹長が大佐にかけ寄って傷の手当てをはじめ、宿屋にいた隊員たちもようやく来援(らいえん)した。


 マジョリカは対物ライフルに足をのせて猛烈なスピードでサンダンスを追いかけた。隊員たちもあとにつづく。


 そんな彼女たちの行く手をハンマーを頭上にかざすブッチが遮った。  

 真っ赤なつなぎ服は夜でも存在感抜群である。彼は面布(めんぷ)をうしろに跳ねると片頬をつり上げ獰猛(どうもう)な笑みをみせた。


見目麗(みめうるわ)しい魔女!ぶち殺したいほど愛しているぜいっ!」

「ぶち殺されるのはあなたです!」


 直後、両者は衝突した。

読んでいただいてありがとうございます。

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