27 ふたりで部屋へ
じゃじゃ馬の言動がよほど腹に据えかねたのか、マジョリカはふたりがいたテーブルを癇性ににらみつけると、途端にテーブルが壁まで飛んで派手に砕けた。
おどろいたアレン大佐や隊員たちが彼女から数歩はなれ、その様子に気づいたマジョリカはバツが悪そうな顔で目をふせた。
「と、とにかく」アレン大佐は場をとり繕うように口をひらく。
「夜明け前にはガンシップが金貨を持って到着するから、それまでの辛抱さ」
オウ曹長が数名の隊員とともに食堂に駆け入った。
「地上のクラボットはすべて破壊した。あと、スローターハウスの入口に隊員を配置した。蟻一匹通しやしない」
アレン大佐は了解したとばかりに大きくうなずいたあとマジョリカを見た。
万事ぬかりなく、流れはこちらに有利であるから心配無用、とその目は言っていた。
「あなた方の能力を疑っているわけではありません。ただ、学者は負け戦をやらかす人ではない」
マジョリカは宿屋の出口へ歩きだす。
「どこ行くんだ?」
「戦衣に着替えてきます。ここから先はわたくしも参戦します」
通りへ出たマジョリカは肩にかけた対物ライフルを地面と平行に掲げて手をはなした。するとライフルは落下することなく腰の高さでプカプカと浮遊している。
彼女が軽く跳躍してライフルの上に立ったつぎの瞬間には、夜空に舞い上がり小さな点になっていた。
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「いくらなんでも心配し過ぎだろう」
オウ曹長はアレン大佐に同意を求めるように言ったが、大佐はマジョリカの心情が伝染したかのように神妙な顔になっていた。
しばらくして彼はオウ曹長とイソルダ曹長を近くに呼んだ。
「いいか、いざという時のため退却の準備をしておくんだ。店にある軍用車両だけじゃ足りないから、金貨をばら撒いて街中から車をかき集めて、それに物資を積められるだけ積んでおけ」
オウ曹長とイソルダ曹長は互いに顔を見合わせてから、そろってアレン大佐に視線を投げた。
「なんでだ?クラボットは地上にいないしスローターハウスから出ようものならハチの巣だ。夜明けになればガンシップが金貨を持ってくる。そうすれば魔女はエナジーコアを手に入れて分厚い装甲の店にひっ込むことができる。それによう…」
オウ曹長は腕をくんで困った顔をした。
「そもそもこの宿屋にしたって防御は完璧で、どこからクラボットがやってきても撃退することができる。魔女はイソルダが嫌いだから彼女がつくった要塞が気に入らないだけだろう」
「そうです。不審者の侵入はすべて退けてやります。そして私も魔女が嫌いです」
イソルダ曹長も仏頂面で合いの手を入れた。
焦ったアレン大佐は両手を挙げてふたりを宥めた。
「このさき何がおこってもおかしくない気がする。だからあらゆる事態に対応できるよう手を打っておきたい」
マジョリカの不安に着想を得たアレン大佐の予断は、結論からいえば的中した。
例をあげると、オウ曹長もイソルダ曹長も要塞化した宿屋には誰も侵入できないと確信している。そしてそれはその通りであった。
だがしかし、要塞化する前にすでに侵入を許していたとすれば話は別である。
屠殺人が死亡した時点でオズ博士は作戦を変更、殺し屋ふたりにエナジーコアの奪取を依頼していた。
宿屋を探して通りを歩くキャロラインとハネツグに追従していたのはイソルダ曹長の部隊だけではなかった。殺し屋のブッチとサンダンスもまた、人ごみに紛れ、あるいは夕闇に溶け込みながらふたりのあとを追っていた。
やがてふたりが宿屋に入ると、イソルダ曹長たちが改築するより早く、サンダンスは外壁をするする上って2階の屋根裏に身を潜め、エナジーコアを奪う機会を狙った。
その間、ブッチは相棒に不測の事態が生じたときのため宿屋全体が見わたせる位置に身を隠していた。自身と同じくらい大きなハンマーをわきに置き、背中には刀と腰にナイフを何本も差して戦う気満々である。
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キャロラインは部屋に入るなり浴室に向かいシャワーを浴びはじめた。
女神像の入ったバッグはダブルベッドの上に無造作に投げられたままだ。そのバッグを見つめながらハネツグは必死に妙案をひねり出そうとしていた。
たとえば彼女がシャワーを浴びている隙に女神像を取り返して盗人街からおさらばするのはどうだろう。しかしその場合、彼女を教会につれて行くという命令は実行不可能になる。
ならばいっそ彼女は死んだということにしてしまおうか。
シスターとしては女神像の奪還が最優先事項であろうし、ハネツグが盗人街に着いた時点で、すでにキャロラインは強盗に襲われ生命を落としており、ハネツグはその強盗から女神像を奪い返した。こんなカバーストーリーならいけるのではないか。
この線でやってみようと、さっそくバッグをつかみ脇に抱えてみたものの、下階にいる傭兵たちに怪しまれるのではないかと思い、女神像だけを取り出してバッグはベッドに戻した。
どうにか服の下に隠せないか工夫しながら扉に向かいはじめたが、すぐに足どりが重くなり数歩でたち止まってしまった。
ハネツグはシャワーの音が聞こえる浴室の扉をしばらく見た。そして視線を落とし考えた。今、キャロラインのもとを去ったら再び会うことはないだろう。それがとてつもなく嫌だった。
もっと彼女と話したい、もっと触れたい。とにかく一緒にいたかった。とはいえこのままでは教会に帰れない。
どうしたものかと視線を上げたときだった。
目の前に忽然と男が立っていた。
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