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26 ハネツグが私を守ってくれる

「ハネツグってこの辺の人なの?」


 急に話題が変わった。ハネツグは言葉を選びながら答えた。


「遠くはない、かな、もしよければ遊びに来ない?」

「行っていいの?」


 キャロラインはキャロラインは(はず)んだ声で言った。


「もちろんだよ、むしろ僕からお願いしたいくらいだ」

「でもその前に」とキャロラインはグラスを置いた。背筋をのばすと両手で顔を(こす)って酔いをました。


「あなた、私を捜してたんでしょ?」


 グラスを傾けるハネツグの手が止まった。


「理由を聞かせてもらいたいんだけど」


 言い終えるとキャロラインは精一杯色っぽい表情をつくって見せた。そんな彼女にどぎまぎしながら、ハネツグはどうしたものか悩んでいた。


 キャロラインの置かれている状況については彼もある程度は理解していたし、追加で彼女自身とイソルダ曹長から説明を受けていた。


 この場で彼女に大事な話、つまり女神像の返還と教会への招聘(しょうへい)について話し出したところで、当然彼女は拒否するだろうし、宿屋の要塞化に精を出している隊員たちも敵に回ることになる。


「どうしたの?」


 キャロラインは彼がテーブルに置いた手に自分の手を重ねた。


「言いづらい?」


 ハネツグは困ったようにうつむいた。


 どんな状況にあろうとシスターの命令は絶対であり、実行するよりほかに道はない。

 にもかかわらず女神像を返せと言いだせないのは、未明に彼女の美しさに心奪われたときの感覚が今でもハネツグのなかで脈動しているからである。


 つまりキャロラインがハネツグにすっかり()せられているのと同様、ハネツグもまたキャロラインに(まい)っているのである。


 この点、キャロラインの直感は当たっていた。


 ならばさっさとくっついてしまえばいいものだが、シスターの厳命(げんめい)が平泳ぎの手のようにふたりの間にするりと割り込んで、ガバッとひき離そうとする。


 なにかに気づいたようにキャロラインは周囲を見わたした。そして納得とばかりに強くうなずいた。


「たしかに、こんな場所じゃ言いづらいわね」


 なんのことかとハネツグも視線を上げると、食堂には多数の隊員が立ち働いていて、窓を鉄板で(ふさ)いだり天井に穴を開けて2階への移動手段をひとつ増やしたりしている。


 テーブルはふたりの使っているもののほかは隅に片されているが、厨房があるという利点を活かして隊員たちはここを食事場所に決めたらしく、何人かが床に座って簡易食料をむしゃむしゃ食べている。


 食べながらふたりをチラチラ見るのである。


 部隊の指揮官であるイソルダ曹長に至ってはキャロラインにせまる危機に即座に反応すべく突撃銃を即射の姿勢で構えたまま、ふたりから視線を外そうとしない。


「じゃあさ」とキャロラインはテーブルから身をのり出し、ハネツグの耳に口を近づけて「2階に行きましょう」と(ささや)き、顔をひいて笑顔を見せた。


 (なま)めかしいけれど脱し切れない幼さもわずかに残るその笑みにハネツグの心臓は鼓動を速め、ますます言い出しづらくなってゆく。


 キャロラインが席を立った丁度(ちょうど)そのとき、マジョリカがアレン大佐を伴って食堂に入ってきた。


「あなたが襲われたのはこちらの落ち度です。申し訳ありません」


 言ったあとハネツグの存在に気づき、怪訝(けげん)な顔をした。


「どなた?」

「あれだよ、さっき話した青年だよ」


 アレン大佐が説明する。


「ああ、キャロラインの窮地(きゅうち)を救ったっていう」


 マジョリカは感心したようにハネツグを見たが、通り一遍(いっぺん)の挨拶とおざなりの世辞(せじ)を口にしただけで、それっきり興味をなくしたらしく、ふたたびキャロラインに向き直った。


「クラボットがエナジーコアを奪いにやってきます。ここでは防御力に限界があるから、わたくしの店にいらしてください。あそこなら守りやすく攻めにくい」

「それならさっき聞いた」


「ならば、早く移動しましょう」


 キャロラインはマジョリカを一瞥(いちべつ)して「今、わたしたち大事なところなの。水を差さないでくれる?」と言い放ちハネツグに視線をもどした。


 そこでキャロラインの表情がにわかに曇った。


「ハネツグどうしたの?顔が真っ青だけど」


 ハネツグはマジョリカを見上げたまま動かない。彼女から発せられる覇気(はき)に身体が硬直してしまっていた。


「具合でも悪いの?」


 細身の身体に真っ赤なドレス、長い金髪に端麗(たんれい)な顔だち。

 肩にかけたゴツいライフルに目をつぶれば淑女然(しゅくじょぜん)とした印象しか思い浮かばないが、シスターの地獄の特訓を経たハネツグの目を通したとき、見える彼女は間違いなく人間の(わく)を超えた化け物だった。


「この人、だれ?」


 ハネツグが震える声で尋ねる。


「マジョリカよ、女神像を買った人」


 とすると、ハネツグはこの女性も敵にまわす可能性がある。


 あの屠殺人ですらとおく(かす)んでしまうほど別格(べっかく)覇気(はき)をはなつ彼女と戦うのは避けたかった。


「は、はやく2階に行こう」


 彼は席をたちキャロラインと共に階段へ向かった。


「だったらせめてエナジーコアを渡してください。そうすればクラボットはあなたを襲わないし、わたくしたちもこんなところに陣地を設営する必要もない」


 マジョリカは静かだけれど迫力(はくりょく)ある声で協力を要請した。


「ハネツグがわたしを守ってくれるから心配いらない。マジョリカもワイルドギースも帰ればいい」

「わがままは止めて指示に従ってちょうだい! あなたの生命にかかわる事態なのです!」


 キャロラインは「それって誰のせい?」と言い捨てて階段を上がって行った。


読んでいただいてありがとうございます。

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