25 キャロラインの目的
助けてくれたお礼がしたい。
ハネツグを誘うにはこれ以上ない口実だとキャロラインは思った。
そして彼女は確信していた。ハネツグが彼女を捜していたのは「街でひとめ見たときから、きみのことが忘れられない。ぜひともお近づきになりたい」とかそんな感じの理由だろうと。
残念ながら正解は「女神像を返してほしい」と「シスター・キングコブラが呼んでいるので教会に来てほしい」である。
屠殺人がどこぞへふき飛んだあと、残されたキャロラインはハネツグの手をひいて良さげな宿屋をさがした。
食事をごちそうしたいし今夜の宿代もこちらで持ちたい。ただし金に余裕がある身ではないので部屋はひとつしかとれない。相部屋ということになるけれど、そこは我慢してほしい。
大嘘である。
彼女はマジョリカからかなりの金貨をもらっている。
キャロラインの心は高揚し、視界の周囲にきれいな花畑が広がっている。
だからだろう、ふたりのうしろからイソルダ曹長を先頭にワイルドギース数十名がぞろぞろ追従していることもあまり気にならない。
街灯が光りをおとす夜の通りをしばらく歩き、清潔そうな宿屋を見つけるとフロントへまっしぐらに進んで部屋をとった。
風呂でさっぱりしたかったが、とにかく彼女は空腹だった。それはハネツグも同じらしく、ならばと1階にある食堂にはいり中央の丸テーブルに陣取ってメニューを端から端まで注文した。
ふたりはテーブルいっぱいに並んだ料理を次々と平らげてゆく。どの料理もおいしいのだが、肉料理が出てこないのが不思議だった。
あらためてメニューを見たら肉をつかった料理がひとつも載っていない。その点を店主に尋ねると「あんな人を喰ったようなヤツらは店に置かない」とのことだった。どういう意味だろうと疑問したが、でてくる料理はどれもおいしいのでやがてどうでもよくなった。
そんなふたりを他所にイソルダ曹長は宿屋の主人を説得して、客にはほかの宿屋を手配したうえでふたりの部屋以外のすべての客室をワイルドギースが借りあげた。
曹長は部下たちにテキパキ指示を出し、宿屋は徐々に要塞と化していった。
エナジーコアを奪い損ねたオズ博士がこのまま手をこまねいているわけがない。ふたたびキャロラインの前に現れるのは火を見るより明らかである。
イソルダ曹長はキャロラインに魔女の店へ避難するよう訴えたが、彼女はハネツグがいるから大丈夫とけんもほろろに答えて、すぐにふたりの世界に入ってしまった。
屠殺人を倒したのは大佐であってハネツグじゃないのに、とイソルダ曹長は不満だったが、とにかく現状でできる事をするしかない。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
やがてふたりの食事は中休みに入り、今度はワインを飲みながらの会話に重点が移っていった。
「めずらしい銃を持ってるね」
「ああこれ?」
キャロラインはホルスターから銃を抜いてしげしげと眺めながら「これ使えないんだなあ」と愛情たっぷりに言った。お気に入りのようだ。
銃をテーブルに置いて「見たい?」と彼のほうへ軽くすべらせた。ひとこと礼を言って持ってみると驚くほど軽い。
ハネツグは色々な角度から銃を眺めた。一見するとオートマチックだが弾倉が見当たらない。
どうやら発砲のたびに手動で排莢して新たに弾を込めるという面倒な仕組みらしい。銃身が太いのは消音機能が備わっているからだろう。
一撃必中が前提のプロ仕様であり、キャロラインの手にあまる代物だ。
「この銃、どうしたの?」
「母さんの形見。若いころ母さんは新政府で諜報員をしていて、銃の腕も中々のものだったらしいの。敵対する組織の人と恋におちて仕事はやめちゃったけど」
ハネツグが銃を返すとキャロラインは愛でるように銃を撫でた。
「この銃は特製でね、世界にふたつしかないんだ」
「ふたつ…、もう一丁は?」
「父さんが持ってる。たぶん」
「たぶん?」
「私が幼いころに家を出たっきりでね」
キャロラインはワインをすらりと飲み下す。
「わたし、父さんを捜しているの。父さんは裏の世界で生きてるって死ぬまえに母さんが言ってた」
キャロラインはバッグを肩からはずしてハネツグに向かってひろげて見せた。
途端に青い光りがハネツグの顔を照らす。キャロラインはいたずらっぽい笑みを見せた。
「これを教会から盗んだのもそれが目的」
ハネツグは一瞬どきりとしてキャロラインを見た。
「青く光っててきれいでしょう。エナジーコアって言ってすごく高価なんだって、金貨100万枚だよ」
さも得意げに言った。
ハネツグの予想は確信に変わった。キャロラインは教会で彼女をとり押さえた人物が自分であることに気づいていない。
そうと分かるとなんだか話を切り出しづらい。
「おおきな泥棒をすれば自慢できるし、あんな高価なものを盗みだせたのだと盗人たちが噂する。そうすれば父さんがわたしの存在に気づいて会いに来てくれるかもしれない。そんな気がするんだ。
はじめての泥棒だったけどなんとかなった。わたし泥棒の才能があるのかも」
キャロラインは嬉しそうに言った。父親が自分をほめてくれると信じて疑わない、そんな表情だった。
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