24 破格の報酬
このとき、マジョリカの人生はおおきく針路を変えた。アレン大佐の幼稚な夢は彼女の目指すべき目標となった。
「過去に何度もきみと衝突してきたが、その度に互いが譲歩することで盗人街の平穏を保ってきた。しかし今回ばかりはそうはいかないようだ。非常に残念だ。いずれにせよエナジーコアは必ず手に入れさせてもらう」
マジョリカはすばやくクラボットを指さして「撃って!」と大喝した。
途端にいくつもの銃声が轟き、銃弾を身体中に浴びたクラボットはあちこちの部品をふき飛ばされながら後退して壁に背をつけた。
その手から小さいエナジーコアが離れて地面に落ちると思いきや、別のクラボットの手がそれをつかんだ。そこには頭部の上下から手を生やしている不思議なクラボットがいた。
下に生えた手を足のようにつかい天頂部から生えた手でエナジーコアをにぎっている。
みながその異様に動揺した一瞬のすきをついて、頭部だけのクラボットは家々のすき間へ滑るように逃げ込んでしまった。
隊員たちは急いで追おうとしたが、マジョリカの「あんなもの要りません」という台詞でたち止まる。
「いまはキャロラインのエナジーコアを死守することが先決です」
マジョリカは凛々たる態度でアレン大佐を見た。
「命令します! 盗人街にいるすべてのクラボットを駆逐しなさい!それと立坑の周囲に部隊を配置して、スローターハウスから出できたものは何であろうと撃ちなさい!」
アレン大佐はオウ曹長やほかの隊員たちに指示を出し、彼らは各隊に告げるべく銘々の方向に散っていった。マジョリカは大佐に近づき彼にだけ分かる音量で言った。
「キャロラインはどこにいます?」
「宿屋で同じくらいの年の男と食事中だ。イソルダ曹長の部隊が警護しているから危険はないと思うが」
「わたくしも参りましょう。キャロラインが襲われたのはこちらの落ち度なのだから謝罪しなければなりません。そのうえで協力を仰ぎます」
マジョリカは街灯が照らす通りをひとりすたすたと歩きだした。オウ曹長に背後から声をかけられ、どうしたとふり返るアレン大佐にむかって、曹長は軽くあごを動かし部屋のベッドを示した。
そこには埃と傷にまみれたユートが死んだように横たわっていた。大佐はベッドに近づくと「こいつ、知っている」とつぶやいた。
今朝、マジョリカからガンシップを買おうして断られた奴だ。
「大佐の知り合いか?」
「そうではないが…、生きているのか?」
オウ曹長は男の首に手をあて脈を読んだ。
「どうやら気を失っているだけのようだ」
「旧司令塔にある病院につれて行ってやれ」
無関係な人を戦闘にまき込むのはアレン大佐の流儀に反していたし、もし怪我した人がいれば治療するのは義務だと考えていた。
「わかった、それにしてもこいつ…」
オウ曹長は興味ぶかげにユートを眺めた。
「こいつ、どうして小型通信機を大事そうに抱えてるんだ?」
「大切な物なんだろう。一緒に持っていってやれ」
言い終えて外に目をやると、宿屋に向かったはずのマジョリカが立っていた。
曲線を描く腰に拳をあてて不機嫌そうな顔でアレン大佐を睨みつけている。
「あれ、宿に行ったんじゃないの?」
「なんでついて来ないのですかっ!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「なんだあれは?」
ブッチはポカンとした顔で言った。
殺し屋のサンダンスとブッチは旧指令塔最上階の通路から屠殺人大爆発のようすを、それと知らず遠望していた。
「新政府軍の攻撃か?」
ブッチがとなりのサンダンスに訊く。
「だったら一発ってことはなかろう。大きな爆発だが盗人街のほんの一角をふき飛ばしたにすぎん」
サンダンスは冷静に分析した。
そのあともふたりは通路に立ったまま黒煙をダシにあれやこれやの議論に興じた。
当初の議題は爆発の原因や背景、爆発により盗人街に生じる影響といった真面目なものだったが、段々それにも飽きてきて、やがてブッチの口から「夕暮れ空にキノコ雲の組み合わせってのも乙なもんだな」などとしんみり言いはじめた頃、ふたりの耳に馴染んだ機械音がとどいた。
同時に視線を投げた先には予想どおりクラボットがいた。クラボットは規則正しい歩行でふたりの前までやってきた。
「殺し屋サンダンスと殺し屋ブッチ。きみらに頼みたい仕事がある」
「オズ博士が俺たちに頼み事なんて珍しい。あんたの所のクラボットや屠殺人では無理なのか?」
「無理なのだサンダンス。屠殺人に頼んだが失敗した」
「内容を聞かせてくれ」
サンダンスが言い「あと報酬な」とブッチがつけ加える。
「エナジーコアという動力核を奪ってきてほしい」
「なんだそりゃ、エナジーコア?」
「外観は青く発光する女神像だ」
「だれが持ってる?」
「魔女」
そろって渋い顔を見せるふたりにオズ博士はまあ待てと言った。
「エナジーコアは魔女の所有物だが、実際に所持しているのは売り手の娘だ。魔女が代金を用意するまではその娘の手元にある」
「でも魔女の物なんだろう?だったら魔女に転売してもらえばいいじゃないか。彼女は商人だ」
サンダンスのもっともな提案にクラボットは首をふって応じた。
「つっぱねられた。売れる物は何でも売る魔女だが、エナジーコアを手放す気はない」
「じゃあ報酬の話をしよう」
ブッチは指で丸をつくってみせた。
「魔女を敵に回すんだ。半端な額じゃ受けないぜ」
「わたしの所有する富すべてを差しだす。金庫室に堆くつまれた金貨の山や飼育している家畜、1000体を越すクラボット、現在では製造困難な公共施設の数々。つまり報酬はスローターハウス全部だ」
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