23 王にしてさしあげます
「あなたが屠殺人を遠隔操作せず、おバカなAIを搭載している謎がやっと分かりました。あれはAIじゃなく彼の自我そのもの。屠殺人は元々人間だったのですね」
「彼は私の親友だ。ヴィクター博士といって世界でも指おりの天才科学者だった。しかし病気がちでね、強い肉体を欲して身体のあちこちをサイボーグ化した挙句、エナジーコアまでとり込み超人になろうとした」
「最初はよかった。でも破壊と再生をくり返すうち細胞が劣化をはじめ、いつしか自分が誰かもわからぬ木偶人形になってしまった」
「今更ですが、メイドはあなたの部下でしょう。そうでなければキャロラインがエナジーコアを持っているなんてわかりませんもの。調和の人を自認するあなたがわたくしの店に間者を忍ばせるなんて、どういう料簡かしら?」
「きみの店は盗人街で最も多くの品が流れてくる。そのなかに私の望むものがないか網を張っていたのだ」
「そして、網にかかった」
「そう、こんな小さなものではなく」
手中にある小さいエナジーコアを掲げた。
「これはわたしと優秀だった頃のヴィクター博士とで永年の苦労のすえに創りあげたエナジーコアだ。それでもこの大きさが限界だった。キャロラインのエナジーコアこそ私が探しつづけていたものだ。さっさと奪ってしまおうしたのは、いまとなっては愚かな考えだったと反省してる。私は君と事を構えるつもりはない。今回の戦闘でそちらが被った損害は賠償させてもらう」
マジョリカが当然とばかりにうなずくのを確認して、オズは更につづけた。
「そのうえでで新たな申し出なのだが、エナジーコアを私に売ってはくれないか?」
「お待ちなさい、今回の件を水に流すなんて言ってません。それを言うに事欠いてエナジーコアを売れなどと、虫のいい台詞をぬけぬけと……」
「新政府金貨200万枚でどうだ?」
むっと唸ってマジョリカは口をつぐんだ。
破格の値段だった。
「きみの金庫は遠く首都にあるようだが、私の金庫はここの地下にある。売買に応じてくれれば5分以内に君のもとへ届けよう」
マジョリカはキャロラインからエナジーコアを金貨100万枚で購入している。それをオズに金貨200万枚で売却したとすると差し引き金貨100万枚の利益となる。
右から左で金貨100万枚が手に入るのだ。願ってもない申し出である。しかしなぜかマジョリカは眉にしわをよせて思案顔だ。
「どうした、断る理由はないだろう」
オズ博士は不思議でならないといった口調で言った。マジョリカは身を翻し、クラボットに銃を向けているアレン大佐を見るなり「どう思います?」と、突然の、しかも意図がまったく分からない質問をしてきた。
大佐は答えに窮した。
「学者にエナジーコアを売ったほうがいい?」
「それはあなたが決めることだろう。俺に訊かれてもこまる」
「ねえ、大佐の夢はなんだったかしら?」
アレン大佐はいよいよ混乱した。
「なんでいま、そんなこと……」
「いいからおっしゃい」
銃の照準器をとおしてクラボットを見つめつつ、ちらちらマジョリカを窺いながら「王に、なる……こと」と顔を赤らめて言った。
それが子供染みた夢だと知っているから、この場で言葉にするのが恥ずかしかった。マジョリカは目をとじて大佐の言葉を咀嚼するように「王、王……」とちいさく言った。やがて目をあけると、わかりましたとだけ言ってクラボットにむき直った。
「エナジーコアは売りません」
「よし交渉成立だな。では早速クラボットに金貨を運ばせよう……、っていま何と言った?」
「あなたにエナジーコアは売らないと言ったのです」
「んなっ!」
クラボットからオズ博士の驚きが漏れた。
ワイルドギースの隊員たちでさえ、濡れ手で粟の金貨100万枚をみすみす見送るという、マジョリカの商人らしからぬ奇行を囁きあった。
マジョリカは胸のうちで高らかに宣言していた。
エナジーコアのもつ莫大なエネルギーを使って、わたくしは新しい国をつくる。わたくしは商人を辞めて女王になるのです。
そしてアレン大佐、あなたを王にしてさしあげます。
読んでいただいてありがとうございます。
ブックマーク登録や★で評価していただけると励みになります
よろしくお願いします!




