22 魔女VS学者
ユートのよこで屠殺人をなぶる者たちは数を増していった。みな呪詛の言葉をはきながら、叩いたりつついたりとやりたい放題である。
「おやめなさいっ!」
凛とした声に悪鬼の形相でふり向いた彼らは、発光する数匹の蝶を照明代わりに漂わせるマジョリカを見た。
「相手が動けないのをいい事に復讐の真似ごとですか。なんて度外れた屑どもでしょう」
怒りをあらわにするマジョリカに恐れをなし、男たちは一瞬で四散した。彼女はアレン大佐をはじめワイルドギースの隊員たちを引率して部屋に足をふみ入れると屠殺人を見おろした。
「これは…、さすがに死んでるだろう」
アレン大佐の言葉にマジョリカは首をふる。
「いいえまだです」
そう言って光る蝶を屠殺人の焦げた皮膚にちかづけた。
「大佐、これを見てください」
アレン大佐は屠殺人の躯体のそばに身をかがめ、マジョリカと並んで顔をちかづけた。
真っ黒に炭化した皮膚にごく小さな泡が生成されているのが見えた。それらは無数に存在して時おりプチッと音を立てて破裂している。なにかの化学反応だろうか?
「細胞の不可逆的な変化を可逆するテトラ循環です」
「俺、むずかしい話はからっきしなんだ。簡単にたのむ」
「屠殺人の身体が再生をはじめているのです」
アレン大佐は驚いてマジョリカの顔をまじまじと見た。
「こんなになってもまだ生きてるのか?」
彼女は屠殺人の胸のすき間に両手をはさみ入れ、あばら骨をめりめり開くと迷わず手をつっ込んだ。
「お、おい、なにしてる?」
嫌悪の表情もあらわに尋ねるアレン大佐を無視して、マジョリカは黙々と作業をつづける。
と、出し抜けに屠殺人の内部から青い光が放射され彼女の顔をまぶしく照らした。
ありましたと言ってつまみ上げたのは筒状の物体で大きさは親指くらい。青い光はそれから発せられていた。大佐はその光に見覚えがあった。
「もしかして、これ……」
声が驚愕の色を帯びている。
「そう、かなり小さいですが、間違いなくエナジーコアです」
筒のまわりには焼失を免れた配線や血管が接続されているが、よく見るとそれらは筒から何かを吸収するようにのたくったり、脈動したりと、いまだ生命の兆候を示している。
マジョリカは光る筒を屠殺人からひき剝がそうとした。
すると配線たちはそれ自体が生きてるみたいに筒に巻きついた。くわえて屠殺人の開いた胸元からケーブルやら蛇腹ホースやら動脈静脈やら有機的無機的を問わずあらゆる種類の線が飛びだして、彼女の手に触手のように絡みついた。
そして光る筒をとり戻そうと引っ張りだした。
隊員たちが触手に向けて発砲し、アレン大佐はマジョリカの背後に立って、触手まみれの彼女の手を両手でつかんで力まかせに身体を引いた。
たまらず触手たちは千切れはじめ、やがて最後の一本が断たれると屠殺人の巨躯は空気が抜けるように急激に萎んでゆき、つぎの瞬間には黒い砂と小さい鉄くずの山になり果てた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
みんな呆気にとられ、しばらくその場に立ちつくしていた。気づくとアレン大佐はマジョリカの背中を抱きしめる姿勢で一緒に尻もちをついていた。
「びっくりしたあ」
大佐は素直な感想を口にした。
「わたくしも、さすがに今のは驚きました」
ふたりは並んで立ちあがり屠殺人の残骸を見おろした。
「これで、彼は完全に死にました」
マジョリカは小さなエナジーコアを手のひらに乗せてアレン大佐のまえに差しだした。
「屠殺人はこれから力を得て身体の再生をくり返していたのです」
「こんな小さいやつがあの巨体を支えてたのか」
だったらキャロラインの持っているエナジーコアはいかほどの力を秘めているのか。
突然、エナジーコアがマジョリカの手から浮きあがった。
ふたたび掴もうとした彼女の指をするりと抜けて部屋の外へと滑空したそれは、通りにいつの間にか立っていたクラボットの手中に収まった。
発砲せんとする隊員たちに「不要です」とひとこと言って、マジョリカは通りへ歩み出た。
彼女はクラボットと一足一刀の間合いでむかい合った。
「オズ博士、クラボットをつうじてスローターハウスからわたくしたちを見ているのでしょう?丁度あなたと話をしたいと思っていたところです」
「こうやって見えるのも久しぶりだね。マジョリカ」
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